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【まとめ読み】騒音の神様 53〜55 花守はカブを、神様は電気屋を楽しむ。

歯が欠けた垂水が大学に行き、あまり言いたくはないが言わないと気がすまない事を仲間に言っていた一日。盛山花守は、夜勤仕事明けに朝からカブに乗っていた。大和川の土手を降り、でこぼこの地面を走る。雑草を踏み分け、木と地面を足で蹴りながら走り続ける。そんな様子を、土手の上で見ていた男がいた。ノーヘルでカブにまたがりながら、「ゴッツイ体でカブに無茶しやがって。壊れてまうで。」とぶつぶつ言いながら見ている。ただ、表情はにこやかで、バイクが好きで見ていた。花守が、急な土手を力づくでカブを押し上げながら足で登る。花守が土手の上に上がって来たとき、男は声をかけた。にこやかに。「兄さん、カブに無茶しすぎやで。ゴッツイ体で変な場所走って、スーパーカブ壊れてまうで。」と言う。盛山花守は「ああ、カブは丈夫やで。全然走れるで。」と平然と答えた。男はまたにこやかな笑顔のまま、「ビックリするわ。大丈夫ちょうよ、いかれてまうよ。その素敵なスーパーカブが。ちょっと俺に見せて、カブ。俺だいぶ詳しいから。」と言って花守がまたがるカブを見始めた。「兄さん、俺、鰻谷。ウナギタニ、よろしく。カブのことはだいたい解るから。ちょっと降りてくれへん。」とづけづけと言う。続けて、「無茶しすぎやで。カブの限界、いやスーパーカブの限界に挑戦せんとって、大事にしたってよ。俺の家、すぐ下やから見たるわ。着いてきて、」と花守が乗るスーパーカブが心配で仕方がないようだった。土手を降りてすぐのところにある、鰻谷の家の前にある作業場。鰻谷はにこやかに、かつ真剣に花守のスーパーカブを見る。鰻谷が工具を持ちながら、花守に話しかけながらしばらくすると泥だらけだったスーパーカブがピカピカになった。花守は思わず「新品みたいやないか、」と言い感動した様子だ。鰻谷は、「いつでも来て。タイヤ交換でもオイル交換でも何でもしたるわ。実費は貰うけどな、」とにこやかにケタケタと笑った。花守は、「助かるわ。また、ほんまに頼むわ、」と嬉しそうに言った。

花守が頼もしいカブ仲間を見つけ楽しんでいる時、神様は電車に乗り電気屋さんに向かっていた。「テレビも楽しみやし、ラジオも聴きたいなあ。」とぶつぶつ言いながら向かっている。途中、何度も小さな赤ちゃんを目にしては立ち止まり笑顔になる。そして赤ちゃんが元気に泣き出すと小さな声で、「元気な声だなあ。未来に響く音だなあ、」と呟く。今日は何度も小さな赤ちゃんに出会うので、なかなか電気屋に辿り着かなかった。商店街に来てから途中で買い食いも楽しむ。「ハフハフ。このたこ焼きってやつも美味いなあ、ようできてる。ハフハフ、あっつ」等と言いながら電気屋までの道のりを楽しんでいる。電気屋の街頭テレビでは数人がテレビを見ていた。神様は、「漫才師は出てないか、」と言いながらテレビを素通りし店内に入る。店内に入るとすぐに、最近良く耳にする曲が聞こえてきた。「ああ、これ良く聞くなあ、なんて名前のグループやったっけ。」と言いながら音が聞こえる方向へあるいて行った。「ラジオか、ええなあ、ラジオ。欲しいなあ。家には、いや花守君の家にはテレビもラジオも無いからなあ。欲しいし、花守君に買ってやりたいなあ。世話になりっぱなしやしなあ。」と呟きながらラジオの前でじっと流れ出る音に聴き入った。「たしか、サウンド、グループのサウンド、グループサウンズやな。流行ってるなあ、元気な新しい音やなあ。」と聴き惚れる。そしてすぐまた別の曲がかかった。「ああ、これは聴いたことないな、新曲かな。これもグループサウンズ、やな。おもろいなあ。音楽は、時代とともに変わる。激変やな。」と感心しながらラジオの前から動かなくなった。流行りの曲を聴き、またラジオの中で話す男性の声に聞き入る。「ハキハキ喋るなあ、達者なもんや。」としばしの間、ラジオを楽しんだ。ラジオの後はテレビを少し見て、最近の情勢を知る。「動き続けるなあ、世界も日本も。ええ風に代わっていって欲しいな。」そう思っているうちに、テレビには神様の大好きな漫才師が出て来た。

「なんでやねん、いや、なんぼやねん」と春山やすしたかしが言うと神様も、テレビを見ている子供達も笑い大喜び。神様は大好きな漫才師、春山やすしたかしをテレビで見れて大満足だ。にこにこしながら電気屋を離れた。いつもは電気屋から駅に向かって歩くが、今日は遠回りして帰ることにした。活気ある通りを歩いているとカッコいい看板やポスターが見えた。神様はカッコ良い看板、映画のポスターに見惚れながら「映画も見たいなあ。見たいもんがようさんあるわ。テレビも見たいし、ラジオも欲しい。ワシもひと稼ぎせんとなあ。」と強く思いながら帰ることにした。

神様と花守は気軽な数日を過ごしてリラックスしていた。次の日の朝、花守が仕事から帰って来ると花守は神様に「そろそろ行きましょう、万博。体がなまって来ます。」と言った。神様は、「おう、そうか。ほな行こか、」と急遽二人乗りで万博に向かうことにした。カブは、鰻谷が掃除をしてくれてピカピカだった。神様はカブを見て「えらい綺麗になったなあ、前は泥だらけやったもんなあ」と言う。花守は、「大和川でカブ好きな男が綺麗にしてくれましてね、助かりました。」と言った。もうすでに夏が来たかのような良い天気で、太陽の光が眩しく暑かった。


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