【連続小説】騒音の神様 51 垂水、一晩歩いてやっと家に辿り着く

暗い夜道を歩き出す。「ああ、痛い、痛いなあ。遠いなあ、長いなあ、朝までかかるんちゃうかな。」そう思いながら歩き出した垂水だったが本当に歩くには遠かった。たまに両足が動き、スタスタ歩くことが出来たのはラッキーだった。野良犬の吠える声が聞こえてくると垂水は怖かった。「今は野良犬に勝たれへんぞ、噛みちぎられてまうわ。なんか武器持っとこ。」途中、ぼんやりした視界でなんとかほど良い木の枝を見つけ出し武器兼用杖として歩く。風が強くなり、竹林の音がガサガサと鳴り響く。雨が降ってくる。「踏んだり蹴ったりやな。実際、蹴られて踏まれてるしな。まあ、血も流れていくやろ。頭も痛いし体も痛いし、ちょうど冷えてくれるわ。」垂水は、雨で顔をぬぐいながら少しスッキリしてきた。何時間か歩いているが退屈はしなかった。考えることが沢山あった。「なんで負けたんや、どうやったらもっと強くなれるんや。」ビショビショの体で、何度も同じことを考える。何度も数時間前の戦い、いくつかの戦いを思い出しては「どうやったらもっと強くなれるんやろ。」途中、行き止まりに数度出くわすがくじけず歩き続けた。雨が止み、空が白んできた頃、だいぶ見慣れた光景になってきた。「もうちょいやな、一晩歩いたんか。六時間か、八時間か、分からんけど。まあ、俺の体は頑丈に出来てるわ。ただ、もっと頑丈にしたる。力や、パワーや。俺はもっとパワーを身につけるんや。やるで、絶対強なるで。」朝が来る頃には垂水は、自分でどうしたいかハッキリしていた。やっと家の前につくと這いつくばるように家にドタドタと上がり込んだ。最初はどんな状況でも胸を張って大学にいくつもりだったが、やめた。「休む。体を休める。見栄を張るのはやめや。」垂水は倒れるように横になると、秒速で眠りに落ちた。長い、長い一日がやっと終わった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?