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【まとめ読み】騒音の神様 56〜58 「今から殴るで」

眩しい太陽の下を、花守はご機嫌にスーパーカブを走らせる。花守は「気持ちええなあ、なんかカブの調子もええみたいやし。」と思いながらアクセルをふかす。万博までは遠いが、退屈は全くしなかった。神様もあいかわらず花守の背中から、新しい風景を見るのを楽しみにしていた。「うわ、また新しい喫茶店が出来てるわ。行きたいなあ。」「新しい信号がまた増えた。よう信号作りよるなあ、」と神様も退屈せずに楽しんでいる。万博造成現場の近くまで来ると、トラックやダンプカーの数が明らかに増えている。途中、ダンプカーの運転手同士の殴り合いを横目に見ながら花守は「やっとるなあ、俺もやったるで。」と造成現場にカブを乗り入れた。「とにかく人が多いところ行ったる、賑やかに行くで」と花守はカブを走らせる。しばらく造成地を走っていると、広く切り開かれた場所が見えた。木を切り倒す者たち、土をならすもの、木をトラックに乗せる者、出入りするダンプカー。花守は「あそこやな、」とショベルカーが土をすくっている場所に向かい、少し離れた場所にカブを停めた。重機に乗る者、手にスコップを持ち作業する者、手押し台車に石を積み運ぶ者。活気ある現場に花守は向かい、まず体のゴツそうな奴を探す。三十人くらいが目に入り、ずかずか歩きながらまず強そうな男を探す。「おった、あいつからや。」花守は、ショベルカーを操縦する男に目をつけた。その男は腕まくりをし、太い腕が遠目にも目立っていた。「派手にいくで、」花守は近くまで来ると走り出した。ショベルカーの近くで台車を押している男を蹴飛ばし、そのまま動くショベルカーに乗り上がって行く。花守は操縦席に外から乗り込んで行き、操縦する腕の太い男に「静かにせんかい。今から殴るで、」と言った。

腕の太い操縦者が、「はあ、なんやお前は、」と言っている間に花守は顔面を予告通りグーで殴った。それからすぐにヒジ打ちを入れる。次には操縦者を引きずりおろす。腕の太い男が、ぶさいくな格好で地面に落ちて行く。一気に現場内に緊張が走った。先に花守に蹴飛ばされた男が、「おい、やってまえコイツ」と大声を張り上げながら重機から下りてくる花守に蹴りかかる。花守は蹴り足を掴んで押し返すと、男は蹴った状態のまま後ろに吹っ飛んだ。花守は「静かにするんや、かかってこんかい。」と言いながら集まってくる作業員達にドシドシと力強く向かう。「おいまてこら、」ショベルカーから落とされた男が太い腕で殴りかかってきた。花守は蹴り飛ばし、蹴り飛ばし、蹴り飛ばした。男は足を宙に浮かしながら吹っ飛んだ。作業員の一人が石が積んだままの手押し車を押しながら突進してくる。花守に手押し車をぶつけるように押し投げて、殴りかかる。花守は手押し車を蹴って止め、男にヒジ打ちをくらわせた。男は自分が推してきた手押し車の上にひっくり返り、石と一緒に地面を転がった。周りから声が挙がる。「なんやこいつ、無茶苦茶強いぞ、一人で行くな」三人ほどが一斉に素手、スコップ、木の杭で花守にかかっていく。それより花守は早くスコップの男に突進し、スコップを振り上げるより先にヒジ打ちでブッ飛ばす。素手の男を無視して、突いてきた杭をつかむとそのまま男を振り回した。杭を突いてきた男は素手の男に音を立ててぶつかり、二人がへたりこむ。花守は「こんなもんか、もっとこんかい」と言いながら取り囲む男達を見回した。

周りで花守の戦いを見て、作業員達は強さに驚いていた。しかしすぐに作戦を立てだす者達もいた。五人程度でまとまり、何か話している。花守は、その集団向けて走り込んだ。話している男達は「うわ、こっち来よった、間に合わんぞ」「どうする」と言っている間に花守のゴツイ体が猛スピードで一人、いや二人の男に激突した。ドカン、ドカ、花守がぶつかった男達は軽々と吹っ飛んだ。二人の男に巻き込まれてバタバタと男達がもつれ倒れる。花守はすぐに、別の三人組を目標物に定め走り出した。三人組は手にツルハシやショベルを持っていたが「うわ、こっち来よった、」と言って逃げ出した。花守はずかすがと歩き出した。花守が周りを見回すが、みな遠くで取り囲むばかりだ。花守が「もうそろそろ、神様が話す頃や。」と思った時、一台のダンプカーが大きなクラクションを鳴らしながら猛スピードで近づいてきた。パーーン、パパーン。皆はダンプカーにひかれないように走り回る。ダンプカーがキーーーッと急ブレーをかけて止まった。運転席のドアがドカン、と勢い良く開いた。「われコラ、好き勝手してくれとるな。」とどでかい声を張り上げながら地面に降りる。その後ろから、パーーン、パパーーン、と二代のダンプカーが続いて止まった。土煙が派手に舞う。ダンプカーから降りてきた男は「見てたで、好き放題やな。俺らの現場舐めすぎやろ」と言いながら花守に向かって歩く。花守はダンプカーの三人が揃うのを待つように立っていた。先頭の一人は素手だが、後ろの二人は手に何かを持っていた。そして運転手達は「無事に帰れると思うな、こら」と言って花守に近づいた。花守にとっては戦える距離になった。


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