【小説】騒音の神様 20 盛山、森の中から脱出

トラックがぶつかりそうになった時、盛山は茂みに飛び込むしかなかった。カブの小さなライトを頼りに雑草の上を走ると、すぐ目の前には細い木がある。よけるとまた別の太い木。必死でハンドルを右に左によけながら足でも地面を蹴りながら進む。小さな枝や葉っぱが、ヘルメットやゴーグル、肩にバチバチ当たる。カブは右に左に、そして木の根っこでカブが跳ね上がる。止まるタイミングが無かったから進み続けてしまった、そんな走りだった。神様はこれまでになく盛山の腰に強く手を回し振り落とされないように必死だった。顔は盛山の肩に完全に隠れていたので、何も当たらずにすんでいる。盛山は、木々の空間が少しあったのでカブを急いで止めた。盛山は「神様、大丈夫ですか、」と大きく息をつく前にすぐに聞いた。神様は、「ああ、なんともない。大丈夫や、大丈夫。これくらい昔の暴れ馬に比べればなんて事ないわい。」と勢いで言ってから「あー怖かった、」と口から本音もポロッと出た。それを聞いて盛山は少し笑顔になりながら、やっとふーっと大きな息を吐いて落ち着いた。
 盛山は来た方向を振り返ったが、真っ暗、本当に真っ暗で何も見えなかった。神様はバイクから降り、盛山は来た方向へバイクの方向を変えた。走るのは無理そうなので押して進むことにした。盛山は、よくこんなところを走って来たなあと自分でも信じられないような場所だった。神様は、「懐中電灯も用意しとかなあかんなあ、この辺は森だらけで暗いからな。またこんな事もあるやろう、」と言いながら何かひと段落したように煙草に火を付けて一服した。神様は、落ち着いて長く煙を吐く。盛山はその姿を見て、少し落ち着いた。しばらく暗闇の木々の間をカブを押しながら進んでいると、遠くに、いや距離ははっきり分からないが光が見えた。盛山は、「光です、あっちが道路ですわ、」と喜びながら神様に言った。神様も、「あー、良かった。帰れるなあ、」と安堵の声を出した。

 そのころ、森の外から盛山と小さな爺さんを探している二人の男が声をあげた。
「おい、光っとるぞ。あそこや、あいつら。」「ああ、俺も見えてる。しばきまわしたらあ、」と目を大きく見開いて、手に持った各々の鉄の道具を固く握りしめた。喧嘩に自信のある二人は、カブのライトであるはずの光を楽しみに見つめていた。「早よ来い。」二人の男は戦いたくて仕方がなかった。

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