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【まとめ読み】騒音の神様 67〜70 花守、運送屋でぶっ飛ばす。

夕焼けが始まる少し前、花守はいつものように夜間工事に向かった。蒸し暑い夜、汗びっしょりになりながら働く。皆、「雨でも降ってくれへんかな、暑うてかなわんわ、」と愚痴りながら雨に濡れたようにシャツも顔も汗で濡れていた。そんな中、一人の男が花守に話しかけてきた。「久しぶりやなあ、ワシやワシ、覚えてるかな、」と聞いてくる。花守は顔を覚えていたので、「ああ、覚えてるよ、久しぶりや。元気そうやな。」と言葉を交わした。男は「今ワシ、運送屋で働いててな。今日は人足らんからて声かけられたから、ここ来たけど。日曜日も忙しいねんけど手伝いに来てくれへんかな、」と男は言う。男は花守が力仕事が好きだと言うことを覚えていて誘ったのだ。「結構、重いもんもあるんや。じぶん、力すごいやろ。来てくれたら助かるわあ。ワシでは体が壊れそうやし、今度の日曜は人少なすぎてどないしよかな、思てたんや。」と言う。花守は、「ああ、ええよ。体がなまってたところやし、」と花守は力仕事も好きだし、働くのも好きだったから気持ち良く誘いを受けた。声をかけた男は、「今日みたいなしんどい仕事の夜に、よう体がなまってるとか言えるな、さすがやな。ところで、じぶん、名前なんやったっけ、」と忘れている花守の名前を聞いてきた。花守は、
「盛山、モリヤマ ハナモリ、オッチャンの名前は何やったっけ、」
「ワシは堺や。サカイのオッサンや。」
とお互い忘れていた名前を確認した。花守は、蒸し暑い夜の夜間工事の中、日曜日の重たい物を運ぶ仕事が楽しみだった。花守は、休みの日などいらないと思っているし、これまでも出来るだけ毎日働いて来たので丁度良かった

花守は日曜日の朝、夜間工事を終えて帰宅した。汗まみれのシャツを着替えて、すぐに出かけようとする。神様は
「今帰って来たとこやのに、もう行くんか、仕事か、」
と花守に話しかけた。花守は
「すぐ行きます。運送屋の仕事ですわ。行ってきます。」
と徹夜の後だとは感じさせずに、ごく普通に出かけた。神様は
「元気やなあ、よう働くなあ、わしも見習わんとなあ、」
と言いながらタバコに火をつけて、朝からの瓶ビールを開けて飲みだした。
 神様がビールで良い気分の頃、花守は聞いていた運送屋の配送所に着いた。誘ってくれたオッチャン、堺さんが入り口に迎えに来てくれた。「おはよう、よう来てくれたなあ。助かるわ。日曜日にはありえへん位、荷物が溜まっててなあ、」と配送所の中へ花守を連れて行った。そこには、明らかにトラックから降ろしただけの荷物が、まさに山のように積まれていた。
「みてあの山。あの荷物の山崎をやな、行き先別に分けていかなあかんねん。昨日やっとかなあかんねんけど、最近色々あってな。人が足りてないんや。」
と言った。花守は、配送所で働いたことはあったので、なんとなく今日の仕事は分かっていた。花守は
「分かった。ほんで今日は何人来るんかな、」
と堺のオッチャンに聞くと
「あと一人や。まあ、リーダーやねんけど口がちょっと荒いんや。あんまり気にせんと頑張ってくれるか、」
と言ったので花守はとりあえず
「わかった」
と返事した。堺のオッチャンと花守が立ち話で仕事の説明を聞いているとき、男が一人入ってきた。そして
「何をじっと立っとるんや、さっさと動けや図体のでかいボンクラやのう。」
と大声で怒鳴ってきた。

偉そうな男に対して堺のオッチャンは、
「すんまへん、すぐやりますんで。で、この人が今日手伝ってくれる盛山君です。」
と盛山の方を見た。偉そうなリーダーは、
「ちんたらしとったら、どつきまわすからな、さっさと動けよ、」
と吐き捨てるように言った。盛山、盛山花守は何も言わずに荷物を運び始めた。まさに山になっている荷物から重たそうな物を選び、行き先の住所別に分けて置いていく。住所別に張り紙が貼ってあり、それを見ながら荷物を置いていく。花守がどこに置いて良いか分からずキョロキョロしているときは、堺のオッチャンが「それはここやな。それはあの奥や、」と教えてくれた。二時間ほど荷物を運び、少し置き場に慣れて来た頃にリーダーが叫んだ。
「違うやないか、どこに置いとんじゃ、ドアホ」と言って荷物を堺のオッチャンに投げつけた。荷物の箱が堺のオッチャンの頭に当たり、飛んで落ちた。堺は、投げつけられた荷物の住所を見る。堺は
「三丁目、間違ってましたか、」
と言うとリーダーは、
「三丁目は二丁目に置かんかい、月曜配達分やぞ、アホンダラ」とまた吐き捨てるように言った。堺は、
「すんまへんでした」
と頭を下げた。花守は、
「その荷物は俺が置いたんや、」と言うと堺のオッチャンは
「ええねや、ええねや、ワシの教え方が悪かったんや。言うて無かったもんな」
と花守をなだめるように言う。その会話を聞いたリーダーが
「なんか文句あんのか、黙って仕事せんかい」
と言って花守を遠慮なく蹴飛ばした。堺のオッチャンは慌てて
「すんまへん、すんまへん、ワシが悪いんで」
と言ったが花守は止まらなかった。リーダーの体をひっ捕まえて、持ち上げ、荷物の山に投げ込んだ。ドカッ、バラバラと荷物が崩れる。花守は「偉そうにしすぎや」
と言った。リーダーは荷物の山から立ち上がり、荷物を花守に投げつけた。
「ぶっころしたらあ、アホンダラ。」

常に上から物を言う偉そうなリーダーは、花守ほどではないが逞しい体をしていた。毎日、重たい荷物を運んでも平気な身体だ。花守にぶん投げられても平気で起き上がる。リーダーは手元にある適当に握りやすい荷物を花守に投げつけた。そしてすぐに殴りかかる。花守は、バチンと強烈なビンタをくらわせた。リーダーの体がぐらつく。花守は、リーダーの体が頑丈なことが自分の攻撃で分かった。リーダーがタックルのように突っ込んで来たところを捕まえ、持ちあげ、トラックが止まる段差のある場所まで運び、下の地面に投げつけた。荷物が置かれる作業場は、地面から一メートル以上あった。リーダーは、ドカンという音とともに叩きつけられた。花守は作業場から下を見下ろしている。リーダーは起き上がれなかったが、うめき声を出しながら動いてはいた。花守は「仕事してるから邪魔すんな。」
と言い、地面で四つん這いのリーダーはゆっくりうなづいた。その間、堺のオッチャンはただたたわ、あたふたしていた。花守が仕事に戻ろうとすると堺は近寄り、
「すまんな、なんか。偉そうなリーダーでな、すまんな、」
と言いながら散らばった荷物を片付け始めた。花守は、
「ちゃんと日当はもらって帰るで。」
と言い荷物を運び始めた。しばらく汗をかきながら二人が荷物を運んでいると、離れた場所でリーダーが荷物を運び始めていた。リーダーはその日の終わりまで一言も喋らず黙々と荷物を運び分けた。夕方になると、山のような荷物はすっかり片付けられ、堺のオッチャン花守に
「助かった、助かったわ、ほんまありがとうな」
と何度も言った。
「あのリーダーが偉そうで、皆やめてしまうんや。助かったわ、」
と花守に頭を下げながら言う。花守は日当をリーダーから手渡しで貰う。リーダーは黙って花守に茶封筒を渡した。リーダーは花丸の目を見なかった。花守は、リーダーの目をみながら茶封筒を受け取った。花守の日曜日は終わった。


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