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【まとめ読み】騒音の神様 24〜25 合気道な喧嘩野郎、上野芝登場

威勢の良い合気道男は、踊るように居酒屋を出た。暖簾をくぐるとすぐに走り出し、店から距離を取った。そして自分の連れ達に「先、帰っといてくれ。一人で大丈夫やから。」連れ達もわかっているようで、「わかった、ほなまたな。」とすぐに立ち去った。合気道の男、名前は上野芝。上野芝は居酒屋で言い合った三人に向かって「どっからでもかかって来いや。合気道でぶん投げたるわ。」と元気良く叫ぶ。三人は、「遠慮せえへんで。」と上野芝を取り囲むように進んだ。上野芝は後ろに回ろうとした男に思い切りパンチを打ち込んだ。「なんや、いきなりパンチかい。合気道ちゃうんか」と三人組の一人がツッコミを入れる。上野芝はツッコミに気にせず「オラオラ」とパンチを連打、殴られた男は防戦一方になる。横から別の男が腹部に蹴りを入れる。すぐさま上野芝は蹴りを放った男にパンチの連打。「めちゃめちゃ速いパンチやないか、どこが合気道やねん、」と話し続ける男が上野芝の背中を掴んで引っ張った。上野芝は腕をブンブンと振り回し、背中を掴んでいる男の顔面を殴打。上野芝はすぐに蹴りを見舞う。一発、二発、三発と三人に蹴りをくらわせた。三人は下がった。「めちゃめちゃ速い、何が合気道やねん」と言いつつ三人共余裕が無くなった。「三人おったら楽勝」そんな考えを持っていたが、「まじで強い、やばいかもしれん。」と三人の頭によぎった。上野芝は休まなかった。一番近いやつにパンチをくらわし、ボディにもパンチを当てる。相手が中途半端なパンチを繰り出した瞬間、待ってましたとばかりに腕を掴みに行った。「そりゃ」上野芝は相手の手首あたりを掴み、体を反転させた。「入り身投げ」と口に出しながら何か技らしきことをしている。しかし手首を掴まれた男は、ただ手首を掴まれただけで自分が何をされているかはわからない。何も痛くもない。わかったのは、「今がチャンス」。三人共同じ思いで一気に上野芝に蹴りを繰り出した。上野芝は、一人の男の手首を持ちながら蹴りを浴びる。蹴られまくる。上野芝は挫けなかった。「くそ、まだか、」と言いながら握っていた手首を離し、三方向へ高速のパンチを繰り出した。パパ、パン、パン、パン、パン、そして蹴り。ガスッ、ドス、ガスッ。三人に的確に上野芝の高速攻撃が当たる。「なんやこいつ、パンチと蹴り、やんけ、どこが合気道やねん。」一人の音が鼻血をダボダボ流しながら言う。その言葉に上野芝の合気道魂にさらに火がついた。

一人の男が上野芝の腕にしがみついた。三人がかりなので協働作業だ。腕を引っ張られるだけで、戦闘能力は格段に落ちる。すぐさま別の男が上野芝の顔にパンチをくらわそうとする。上野芝は、暴れた。まず腕を掴んでいる男に突進した。「ウワーー」と上野芝は声を上げながら頭から突っ込んで行く。パンチを放った男は豪快に空振り。上野芝は突っ込んだまま五メートルほども突進、相手は下がり続けるが脚がついていかない。上野芝に押し倒されるように尻から地面にこける。上野芝は勢いのまま、頭を相手の顔面にぶつける。すぐに上野芝は起き上がり、二人と向かいあう。動きを止めた二人に対し、パンチの連打、右に左に討ち続ける。周りに集まった野次馬から声がする。「いつ合気道がでるんや、」「普通に喧嘩の強いやつやないか、」その声が聞こえていたのかどうかは分からないが上野芝が声を荒げて言った、「今からが合気道タイムじゃ」。パンチを受けてだいぶグロッキーな男の手を握りしめ体を横に一回転させた。相手は「いた、いててて、」と言いながら立ったまま苦痛を訴える。上野芝は、「倒れんかい、」と力づくで腕を捻り上げ、足を蹴りまくり後頭部に頭突きをくらわし、無理やりに相手を地面に倒れさせた。「みたか、合気道じゃい、」上野芝は自慢げに言いながらもう一人の腹部に蹴りを見舞う。倒れそうになった男の手首を引っ張り出すように無理やり掴み、横方向に体を一回転させた。もう倒れそうだった相手が、やはり無理やり地面に打ちのめされる。「みたか、これが合気道じゃ、」上野芝は、腕を引っ張っていた男を振り返る。男は倒れたままで、手のひらを上野芝のほうに向けて「すまん、無理や、あんたは強い、もう無理や」と言った。上野芝は、「まだお前には合気道の技試してないやろ、立たんかい、」と怒りながら叫んだ。倒れている男は、手を上野芝の方向に向けながら「すまん、すまん、悪かった、無理や」と言うとその言葉は仲間の二人に届いた。負けは伝染する。折れた心の音は仲間に伝わる。急に恐ろしさがまし、負けた心を持ってしまった三人組はわれ先にと立ち上がり走って逃げ始めた。無我夢中で逃げた。上野芝は追いかける。「またんかい、これからや、おらあ」走る目の前に、上野芝の連れ達が現れた。「はい、終わり終わり。お前の勝ちや、」と言いながら上野芝の手を高々と差し上げた。「合気道、勝利その言葉を聞いた上野芝は急に上機嫌になり笑顔になった。「そうか、俺勝ったか、合気道勝ったか、」「勝った、勝った。お前勝ったで。」先に帰ったふりをした上野芝の連れ達は、どうせ上野芝がすぐに勝つと分かって遠くから見ていた。だいぶ上野芝の戦いを楽しみに見ながら。「さあ、まだ飲みに行こか。行けるやろ。」と言うと上野芝は「当たり前やないか。さあ行こ行こ。」と言い元気に次の居酒屋目指して歩いた。活気と、喧嘩と、酒と煙草の煙りがあふれかえる1968年大阪の夜。


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