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【連続小説】騒音の神様 106 高石、車で引き返す。

松原が一人現場に残ったあと、他の作業場達は車で会社に帰った。車の中では、「松原さん、何するんやろ」「仕返しに決まってるやないか、」「あのデカイ男やろ、現場におるしな。」などと皆、松原が仕返しに行くのを分かっていたようだった。「勝てるかな、」「わからん。松原さん、だいぶ怪我してたし。拳、腫れ上がってたで。」「今からでも、戻ったほうがええんちゃうかな。」「今更、何ができるんや。社長に言うしかないやろ。」「でも松原さん、現場の揉め事は社長に言うなって。俺がどないかするからっていつも言うてました。」「どないも出来へんこともあるやろ。」車の中では、語気が強まり言いあいのようになって行く。その時、運転手がブレーキを踏みながら言った。「一台もどろ。もう一台は会社に帰って社長に報告、これしか無いやろ。」運転手は窓から手を出し、もう一台に止まるように合図した。「一台、現場に戻る。喧嘩になるかもしれん。それでもええやつは、こっちの車に乗れ。帰るやつは、すぐ社長に報告や。」そう聞いた皆は、それぞれ正直に車に乗り込んだ。高石は、現場に帰ることにした。万博に戻る車は、スピードを上げた。運転する男は「なんで置いて行ったんや、俺。あんなデカイ奴、一人でどないか出来るかい。松原でも怪我ばっかりしとる。クソっ」高石も、気が気で無かった。「まだ、何もしてなかったらええけど。」車はクラクションを鳴らしながら、現場に急いだ。

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