小説【騒音の神様】06 盛山は力仕事が好きだ

盛山はとても熱心に仕事をする。率先して重い物を運び、それもできるだけ人より多くそして人より早く運んだ。鉄筋、土砂、ブロック、鉄管などの重い物が好きだし力仕事が好きだ。盛山は体を強くしたかった。誰より力強くなりたかったし、実際誰よりも強かった。「力ずく」と言う言葉が盛山は大好きだったし、建築現場は、そんな盛山にとってぴったりの仕事だった。人より体を激しく動かしても帰った頃にはまた力が湧いていた。力が毎日溢れ返っていた。一日中溢れ返っていた。もうすぐ一九七〇年代がやってくる熱気を持った日本の中で大暴れしたかった。

盛山が仕事を終えて家に帰ると神様が地図を広げていた。鉛筆を持ち、ノートに何かを書き込んでいる。神様の傍らにはバイク用のヘルメットとゴーグルが置いてある。神様は、盛山に向かって「おかえり。盛山君、どうやこのヘルメットとゴーグル。闘うときにつけて欲しいんや。似合うと思うんやけど。」盛山はヘルメットとゴーグルをつけてみた。なんとなくイギリスの雰囲気がする装備をつけてみる。そして神様に聞く。「どうです、似合ってますか」神様は嬉しそうに、「似合ってるよ。バッチリやな。いや、これからはバンバン闘うことになるから、顔も知れる。警察も来る。ちょっとでも顔を隠した方がええと思ってな。どうやろ」と言った。盛山は、「いいですね。今度からつけて戦ってみます。あと、バイクを頼んでるんで近いうちに手に入るかと。」と言うと神様は「それはありがたい。何しろ万博は遠いからな。足がいるからな。」そうやって二人で話をしたあと、盛山は一人で外に出た。体を動かし足りないし、何か戦いの準備をしたいので夜の公園に行き体を動かす。鉄棒で懸垂をしたり、木の電柱にヒジ討ちを繰り返して打ち続けた。ヒジだけでなく前腕部も電柱に打ち付ける。ヘルメットとゴーグルに慣れるために、二つとも装着して体を動かす。暗い夜がさらに暗くなった感じがしたが、盛山は気にしなかった。「慣れたらええ。」なんにでもそう思っている盛山には屁でもない暗さだった。遠くの街灯の弱い光、どこかで行われている夜間工事の音、家族の団欒の音と食事のにおい、犬の鳴き声、そんな雰囲気の中で盛山は体を動かし続けた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?