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【まとめ読み】騒音の神様 59〜61 花守、圧倒的に強い。

三人のダンプカーのドライバー達が、強い口調で話し続ける。
「こんなようさんおって、一人の男にやられすぎやろ。」
「根性無しばっかりか、ああ」
「おお、われガタイのええお前、この地面の下に埋まりたいんか、アア、ワレコラ」
花守にしてはだいぶ待ったのだが、三人が話すのが長すぎて面倒くさくなった。花守は突進した。「なんやこら、かかって、」ドガっ。先頭の男は話しながら吹っ飛んだ。後ろの一人が木刀を振り上げながら「ワレ何しとんじゃコラ、ドタマかち割っ」ガスッ。花守はヒジ打ちをぶち込んだ。残る一人は手に持っていたレンチをわざわざ捨てて、上の服を脱ぎ出した。脱いだシャツを地面に叩きつけながら細いあばら骨の浮いた体を見せつける。「おお、ワレ、舐めとっ」ドカン。花守が蹴飛ばし、細い体が遠くまで吹っ飛んだ。花守は相当がっかりした。相手が弱すぎて。「はあ、」ため息をつきながら周りを見渡す。どの作業員達もやる気は失せていた。「あのヘルメット男、強すぎるやないか。」「何しに来とるんや」「こっち来んなや、絶対。」など口々にぶつぶつ言っている。
 そんな中、拡声器の音が響いた。
「静かにするんや、静かにするんや。街に子供の音を響かせるんや。騒音はいらん。大人は静かに、子供の音を邪魔するんやない、」
小さな体の爺さん、神様が拡声器を手に語る。聞いている者達は皆、「誰やあの爺さんは」「何の話や、工事現場に子供なんかおらんわい、」と思いつつ花守が目の前を歩いているので黙って聞いた。
「ええな、真面目な大人達、子供の音を邪魔するんやない。子供の音を街中に轟かせるんや、」
神様はそう言うと、歩いて来た花守と一緒にゆっくりと歩き去った。二人が立ち去る姿を見ながら作業員達は、「なんやあの二人組は。」「意味はわからんけど、とにかく強いぞ」「ワシは歯が飛んでったぞ、たまらんな。」等と話していた。花守は相手が弱すぎて、イライラしていた。
 花守の圧勝、楽勝の闘いを見ていて神様は思っていた。「花守は、体が強いな。からだ、最近は「体」と漢字で書いてるけど、骨が豊か、と書く「體」やな。違うな、全然違う。體の強さが圧倒的に強いな。骨が豊かや。體と書いてゴツイカラダと読むほうがええかな。デカさだけやない。」神様は花守とスーパーカブに歩いている最中、そんなことを思いながらぶつぶつ言っていた。その横で花守は、不満爆発だ。「弱い、最近で一番弱い。なんやあれは、どうやったらあんな弱いんや、腰が細い。」花守は、神様がくれたイギリス式のバイクヘルメットにバイクゴーグルをはめたままでも分かるくらいに顔が怒りに満ちている。「たしか前はだいぶおもろかった。石は飛んできたし、元気な奴もおった。今日は話しが長いだけや。なんやこれは。」花守と神様がスーパーカブで走りだしてから、すぐにアスファルトを敷く工事をしている現場に遭遇した。花守は、敷いたばかりの熱々の柔らかいアスファルトの上にバイクのまま突入した。アスファルトにバイクのタイヤ後が凹んで残る。現場の作業員達は大声で叫んだ。「何しとんや、出んかい、ネコの足跡ちゃうどら」「ワレ何しとんねんこら、叩き出せ。」その声を聞いた花守はカブを降りて作業員達に向かって走りこんだ。トンボを持っている男を吹っ飛ばし、蹴飛ばし、三人ほどがあっと言う間に地面に転がった。アスファルトを平にならすロードローラー車が、轟音を上げながらバックで走ってきた。操縦者が「ワレ何してくれとんねん、ペシャンコにしたろかい」と叫んでいる。

 花守はロードローラー車に向かいながらも、ロードロード車を避けながら走る。ロードローラー車の横につけると上に登り、操縦者にヒジ打ちをくらわす。ガツン、一発、二発。操縦者が抵抗する間もなく、グロッキーになると花守はロードローラー車を降りる。お腹がでっぷりした男が竹ボウキを振り回してくるが、竹ボウキを掴んで相手の手から引っこ抜く。そして靴の裏で蹴っとばすと、お腹が大きな男の両足が宙に浮き二メートルは宙に飛んだ。花守は作業員が固まって数人いるところに、竹ボウキをポーンと放り投げると「ウワー」と声を上げて作業員が逃げ出した。ここで神様の拡声器が鳴った。
「静かにするんや、街に子供の音を鳴り響かせるんや。大人の出す音は邪魔なんや。静かに工事せい。」
神様は手短かに話すと、花守とともにスーパーカブで走り去った。体のゴツイ花守が運転するカブは決して速くはないが、誰も追いかけようとはしなかった。
 少し離れた所から、花守の戦いを見ている二人の若い男達がいた。垂水の拳法サークルの仲間が日雇い仕事に来ていたのだった。花守の戦いを見ながら、
「あれは無茶苦茶な強さやな。バイクで突っ込んで来て、あっと言う間やったな。」
「強いわ、あれは。垂水でも勝てんな、」
「ああ、垂水には悪いけど強さのレベルが違うな。竹ボウキ持ってたやつ、派手に飛んだけどデカかったで充分。」
「ああ、あんな重そうな奴が吹っ飛ぶか、」遠くけら見ていても、ヒジ打ち男の強さを目の当たりにして若い男達は元気をなくしていた。若い二人は話しながら、今日見たことを垂水に話すかどうか悩みながら一日の仕事を終えた。仕事帰りは大雨が降って来たので、いつもは途中まで走って帰るが今日は乗り合いの車に乗った。帰りながらも、「強かったなあ、」「ああ、強いなあ。」と二人で百回くらい口にしながら帰った。

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