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大失敗のフリーアドレス、ABW――“見せかけ”オフィス改革の落とし穴はいったい、どこにあったのか?

「オフィスで働く」ことが常識ではなくなった今、固定席を設けない「フリーアドレス」や、フレキシブルに場所を選んで働く「ABW(Activity Based Working)」の導入によるオフィス改革も、もはや珍しいものではなくなってきた。しかし、ただ固定席を廃止するだけで“改革”を果たせたといえるのか? フリーアドレス、ABW成功のカギを探る。

「あれ? もしかして座る席がない?」

フリーアドレスを導入している企業で働いていると、時々そんなことがある。特に昨今では、リモートワークが定着していることもありオフィスの状況が分かりづらい。久しぶりに出社したら想像以上に混み合っていた。そのことに“行って初めて”気付くケースも珍しくない。

 フロア面積が広かったり、階数が分かれていたりするオフィスでフリーアドレスを導入していると「あの人はどこ?」問題も発生しがちだ。同じ空間にいるのに、連絡は全て必要最低限のチャットで終了。フィジカルなコミュニケーション機会が失われ、コラボレーションも生まれない。

このように、固定席を設けず、社員の柔軟な働き方を促すフリーアドレスやABWは、時代に適した先進的な制度である反面、課題も多い。せっかくの働き方改革がマイナスに作用する、そんな「失敗」を防ぐためにはどうすればいいのか。

導入前には見えない「位置情報・座席管理ツール」の課題点

先述したような課題解決のために、最近増えているのが「位置情報・座席管理ツール」だ。しかし、実はそこにもまた、落とし穴が潜んでいる。自社でも在席管理システム「Nimway」を提供するソニーネットワークコミュニケーションズの井町友香氏は、「ツールを介して、リモートでもオフィス内の状況が可視化できるのは大きなメリット」とした上で、課題点を以下のように指摘する。

スクリーンショット (1006)
事業開発部 事業開発1課 Nimwayサービス企画 リーダーを務める
井町友香氏

「空席状況を可視化するために、多くのツールでは利用者のアクションが必要になります。例えば、QRコードが印刷されたシールを座席に貼って、利用者が着席時にアプリで読み込むといった作業が該当しますが、このひと手間を社員に徹底させるのは至難の業です」

 QRコードを読み取るだけ、アプリを操作するだけでも、毎日続けば面倒であり、たまにしか出社しないリモートワーク中ならなおさら忘れてしまう。その他、ツールの使い方が複雑であることが原因で、活用できる社員とできない社員に分かれるという失敗談も多いという。利用者による登録のヌケモレが発生すると、可視化できるデータにムラが出るためフリーアドレス下の課題解決は難しい。また、多くのツールでは、利用状況のデータを分析してオフィス改善に生かせることも利点とされているが、データが不完全であれば改善策も空転するというものだ。

利用者の操作は一切不要 人感センサーで自動・正確にステータスを更新

Nimwayは、このような課題を「人感センサー」により解決するという。最大の特徴は、「利用者の操作ゼロ」でワークスペースの空席状況を可視化できること。Nimwayの営業担当を務める勝村智子氏は、「センサーをデスクや会議室に設置することで、空席なのか利用中なのかを自動的かつ正確に判断できる」と説明する。

一般的なフリーアドレス支援ツールとNimwayの機能比較。前者の場合、席利用を開始する際、QRコードを読み込んだり、ビーコンにタッチしたりといった操作が必要

下の画像は、NimwayのマップUIイメージだ。「利用可能」が緑、「予約中だが空室/最近使用されたデスク」が黄色、「利用中」が赤で表示される。このようなマップは他ツールでもよく見られ、特別目新しくはない。しかし、空席か利用中かを判断するのは全てセンサー。アプリから行える座席・会議室の予約情報とセンサー情報を組み合わせて、マップに状況が反映される点はNimway独自の優位性となる。

Nimwayは、Microsoft 365やGoogle Workspaceといった外部ツールと連携することも可能。OutlookやGoogleカレンダー上の予約状況を、Nimway上に反映するといったこともできるため、データ管理効率化も図れるという

「座席の場合、黄色は『最近使用されたデスク』というステータスになりますが、これは離席後5分経つとセンサーが“人がしばらく座っていない”と判断し、マップに反映することで可視化しています(離席後5分間は赤の『利用中』表示)。

 この『最近使用されたデスク』の黄色のステータスを表示する時間をユースケースに合わせて調整することで、「空いていると思ったら離席中だった」というトラブルが発生しにくくなったり、感染防止の観点で人が利用した直後の席を避けることができたりします。

 また、会議室については空予約(予約しているのに使われていない状態)がしばしば発生します。しかし、空予約なのか利用中なのかを、予約画面だけで判断するのは難しいものです。Nimwayは、センサーを使い空予約の状態も可視化できるので、会議室利用状況の可視化や改善にも効果的です」(井町氏)

 Nimwayでは空予約対策として、予約中の場所が一定時間以上未使用であることをセンサーで検知すると、予約者に予約解除を促す通知を出すこともできるというから驚きだ。また、空予約に見えても「終日、席を確保したい」というケースを考慮して、利用者が終日赤色(利用中)にステータスを変更することもできるといい、あらゆる利用シーンを想定した仕様になっている。

同僚の位置検索だけじゃない ビーコンにより移動がスムーズ、回遊性もアップ

また、Nimwayでは天井にビーコンを取り付けることで位置情報を取得し、社員間で検索し合える。これにより「あの人はどこ?」問題を解決できるわけだが、それだけでは終わらないのが興味深い。

 例えば、オフィスで会議室を予約していたのに、到着がギリギリになって『会議に遅れた』という経験はないだろうか。OutlookカレンダーやGoogleカレンダーを使っていると、15分前などに通知は飛ばせるが、当然、現在地と会議室までの距離は考慮されていないため、頭の中で計算した移動時間で「間に合わなかった」ということもある。

インキュベーション室 ビジネス推進課 Nimway営業担当を務める
勝村智子氏

「Nimwayでは、ビーコンで取得した自分の現在地から、会議室など移動先までの距離、徒歩でかかる時間を自動で計算し、出発時間に通知を受け取れます。遅刻して人を待たせてしまう、または早く着いて会議室が空くまでの待ち時間が発生してしまうということがなく、時間ピッタリまで業務に集中できます」(勝村氏)

よくある失敗「席の固定化」にどう対応? 社員の“能動的な”席移動を支援

ビーコンは、「現在地周辺にある、希望に適したワークスペースはどこか」を検索する際にも活躍する。これは、ABWで多様なワークスペースが用意されているにも関わらず、探しに行く手間を惜しんで利用が進まない、という課題解決に役立つものだ。

Nimwayを使い、ワークスペースを検索した画面(スマートフォン表示)。左が会議室、右が座席の検索結果になる

「席を探す手間をかけたくない」という利用者の心理が働くと、結局は「席の固定化」という失敗ルートをたどることになる。その解決策として、「座席のランダム指定」機能を搭載するツールも多いが、本来フリーアドレスやABWはそのときどきの仕事に合わせて、最もはかどるワークスペースを自ら選び、生産性を高めることが目的のはず。ツールにより強制的に回遊性を高めることが最適解なのかというと、疑問が残る。そのためNimwayでは、「社員の能動的な回遊を促す、そのための支援機能を重視した」(勝村氏)のだという。

事例で紹介 Nimwayで実現するオフィスの改善施策

Nimwayで蓄積したデータは、簡単操作によりダッシュボード上で管理でき、スペースごとの利用率、予約率を継続的に把握することでワークスペースの運用改善に役立てられる。具体的には、どのような改善に生かされているのだろうか。

 例えばA社では、試験的に一部のスペースにのみ外部モニターを設置。その座席の利用率をNimwayで可視化することで、要否を検討した。結果、外部モニターを設置したスペースに利用者や予約が集中していることが分かり、導入台数を予定より増やすことにしたという。

 またB社では、人目を避けられる個人用ブースの利用率がひっ迫、その他の開放スペースが活用されていないことがNimwayにより判明。そのため、開放スペースを縮小、個人用ブースを拡大というレイアウト変更を予定している。

A社のデータ分析結果

両社で共通していることは、しっかりとしたエビデンスに基づきワークスペースの運用改善を図れているという点だ。井町氏は「A社の場合、モニター台数を増やしたことで数百万円の費用が発生したが、決裁資料にNimwayのデータ画像を載せることで説得力が増し『決裁が通りやすかった』と喜んでいただけた」と、ユーザーの声を紹介する。

 他にも、「オンライン会議ブースが足りないという声が一部から寄せられたため増設を検討したが、利用率を見るとさほど高くないことが分かり見送った」例や、「会議室の利用実績と予約率を比較したところ、空予約が増加傾向にあったため、削減に向けて施策を打った」例など、Nimwayのデータを軸に各社が回す仮説検証はさまざまだ。

 「分析したい内容に合わせ、簡単なボタン操作で条件を指定するだけでグラフィカルなダッシュボード表示が可能です。総務部門の方であっても、専門知識なくデータを活用いただける、Nimwayでそのような環境構築をご支援するため、直感的な操作が可能なUI、UXには開発メンバーやデザイナーのこだわりが詰まっています」。井町氏はそう話し、笑顔を見せる。

個人情報保護にも配慮 先進的な仕様とハードウェア技術への自信

ハードに強いソニー製であることも強みだ。センサーもビーコンもソニーの技術が凝縮されているといい、井町氏は「実機見学に来ていただいたお客さまに、検知のスピードや検出結果の正確性をお褒めいただく機会も多い」と、精度の高さに自信を見せる。また、Nimwayには「デジタルフロアプラン」という、フロア入り口などに設置するデジタルサイネージも用意されている。「導入を希望される場合は、システム構成の一環としてソニーのブラビアをご提供することもできる」(勝村氏)というから、サポート範囲は広い。

Nimwayシステムの全体図。基本となるのは、空席確認や予約を行える「モバイルアプリ、Webアプリ」と「検知(人感)センサー」で、例えば社員間の検索機能が不要であればビーコンは省くなど、個社の要望に合わせて構成できるという

加えて、Nimwayはもともとソニーネットワークコミュニケーションズヨーロッパ(スウェーデン)が欧州を中心に展開していたソリューションであるため、GDPR※や厳しいコンプライアンスにも配慮された仕様になっているという。ビーコンで位置情報を取得するのも、検索時のみに限定。またトラッキングはオンオフを社員が任意で選べるようになっているといい、個人の特定をセンシティブな領域として気にしている企業には「最大限にご安心いただける」(井町氏)。

※欧州連合(EU)の個人情報保護法に当たる「EU一般データ保護規則」のこと。「EU域外の事業者にも適用される」規則であり、日本企業であっても、EU域内に拠点を持つ企業や、製品を輸出している企業は理解を深める必要がある

「固定席を廃止しただけ」 “見せかけ”オフィス改革からの脱却を

コロナ禍に突入し、強制的にリモートワークが導入された2年前、オフィスががらんどうになったタイミングを契機とし、フリーアドレスやABWの導入に踏み切った企業は一定数見られた。そして21年後半、オミクロン株感染が広がる前には、徐々に出社を促すことも視野に入れ「在宅とオフィスを組み合わせたハイブリッドワークを実現するため、Nimway導入を検討したいというお客さまが増えた」(勝村氏)という。

 同社でNimwayのマーケティング・宣伝業務を担う池垣玲雄氏は、「この半年で、Web経由では『フリーアドレス』『座席管理、予約』『働き方改革』などといった検索キーワードでの流入が増えた」と話し、今後の展望を次のように話す。

インキュベーション室 ビジネス推進課 コミュニケーション戦略ディレクターを務める池垣玲雄氏(左)と、インキュベーション室 事業推進課 サービス企画・マーケティング担当を務める中田京吾氏(右)

 「ハイブリッドワークへの移行に伴い、Nimwayのような支援ツールのニーズは高まっていくはずです。サービスのローンチ以降、Web広告への展開を中心に、広告施策を戦略的に行っていました。今後はWeb以外にも目を向け広告施策を行いつつNimwayを通じてより多くのお客さまの課題解決に貢献できれば、と考えています」

 認知施策の一つとして、「今年から公式noteもスタートした」と話すのは、同じくマーケティング担当の中田京吾氏だ。

 「Nimwayの機能やサービス詳細、開発者インタビューを読み物として発信することで、一種のオウンドメディアのように運用していきたいと考えています。Nimwayはリリースからまだ1年弱であり、われわれサービス提供者の想いを含め、お客さまに知っていただきたい有用な情報が数多く存在します。広告を通しての発信だけではなく、お役立てできるような情報を幅広くお届けしていきたいですね」(中田氏)

 今後、標準化していくであろうハイブリッドワークを定着させるためには、「行きたくなるオフィス」づくりに注力し、従業員体験(EX)の向上を図ることが欠かせない。そのためにも、まずは「固定席を廃止しただけ」の見せかけオフィス改革を回避、脱却する策を講じることが肝要だ。Nimwayは、個社の希望に合わせて柔軟にシステム構成を変更できるため、ハードウェア提供型サービスとしては価格面も検討しやすい。ぜひ一度、問い合わせてみてはいかがだろうか。

~出典元~
転載元:ITmedia ビジネスオンライン
ITmedia ビジネスオンライン 2022年3月29日掲載記事より転載
本記事はITmedia ビジネスオンラインより許諾を得て掲載しています
記事URL:https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2203/31/news005.html