漱石の多様性と『こころ』——柄谷行人『言葉と悲劇』を読む
柄谷行人(からたに こうじん, 1941 - )氏は哲学者・文学者・文芸批評家。過去の記事においても紹介しているので合わせて参照してほしい(小林敏明『柄谷行人論』、合田正人『吉本隆明と柄谷行人』)。柄谷の関心と射程は哲学、数学、経済学、歴史学など実に幅広いが、その出発点は、夏目漱石研究である。彼のペンネーム「行人」が、漱石の小説『行人』から来ているのも有名な話だ。本書『言葉と悲劇』は1984年から88年にかけてさまざまな場所で行われた講演を集めたもので、そのタイトルだけをみて