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そんそんの教養文庫(今日の一冊)

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一日一冊、そんそん文庫から書籍をとりあげ、その中の印象的な言葉を紹介します。哲学、社会学、文学、物理学、美学・詩学、さまざまなジャンルの本をとりあげます。
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#死

死の長所と短所について——エーコ『歴史が後ずさりするとき』を読む

イタリアの思想家・作家ウンベルト・エーコの著作『歴史が後ずさりするとき』(2006年)よりの引用。エーコについての過去記事「はじめにことばありき—エーコの『薔薇の名前』を読む」、「カフカをどう読むか——エーコの『開かれた作品』より」も参照のこと。本書は、エーコが2000年から2005年にかけて発表されたエッセイ、論文、講演などをまとめたものである。 本書の最後を飾るエッセイが「死の長所と短所について」である。エーコは、哲学者とは「すべての人間は死をまぬがれない」ことを分かっ

愛知者は死にどのように臨むべきか——プラトン『ソクラテスの弁明』を読む

ソクラテスの「無知の知」は有名な言葉であるが、少し誤解されているところもある。「無知の知」とは、「自分が何も知らないということを知っている」というよりは「自分が知らないことを知っているとは思っていない」ことである。「不知の自覚」という言葉でそれを区別する人もいる。ソクラテスの実際の言葉を引いてみよう。 そして、この不知の自覚のソクラテスの態度は、「死」に対しても向けられている。冒頭の引用がそれである。「愛知者」すなわち知を愛する者としての責務は「不知の自覚」の態度を徹底する

精神は自己に不安として関係する——キルケゴールの『不安の概念』を読む

セーレン・キルケゴール(Søren Aabye Kierkegaard、1813 - 1855)は、デンマークの哲学者、思想家。今日では一般に実存主義の創始者、ないしはその先駆けと評価されている。キルケゴールは当時とても影響力が強かったヘーゲル学派の哲学、また(彼から見て)内容を伴わず形式ばかりにこだわる当時のデンマーク教会に対する痛烈な批判者であった。キルケゴールの哲学がそれまでの哲学者が求めてきたものと違い、また彼が実存主義の先駆けないし創始者と一般的に評価されているのも

哲学者と「死」——ハイデガーとレヴィナスの違い

著者のサイモン・クリッチリー氏は、1960年生まれのイギリスの哲学者である。専門は現象学、大陸哲学、フランス現代思想。本書『哲学者190人の死に方(The Book of Dead Philosphers)』は古代から現代までの190人の哲学者について、死をどう捉えていてか、どのように最期を迎えたかについて、それぞれの哲学者の思想とともに紹介しているものである。しかし、ただ単に哲学者の死に方を面白おかしく紹介した本ではない。一流の哲学の考え方についても学べる骨のある一冊となっ

哲学者とは死ぬことを心がけている者である——プラトンの『パイドン』を読む

『パイドン』(パイドーン、古代ギリシャ語: Phaídōn、英: Phaedo)は、プラトンの中期対話篇。副題は「魂(の不死)について」。『ファイドン』とも。ソクラテスの死刑当日を舞台とした作品であり、イデア論が初めて(理論として明確な形で)登場する重要な哲学書である。師ソクラテス死刑の日に獄中で弟子達が集まり、死について議論を行う舞台設定で、ソクラテスが死をどのように考えていたか、そして魂の不滅について話し合っている。 ソクラテスは「人間にとって死ぬことは生きることよりも