漱石の小説がもつ倫理的な位相と存在論的な位相の二重構造——柄谷行人『意識と自然』より
柄谷行人の出発点、漱石論の第一の論文『意識と自然』(1969年)よりの引用。柄谷は「今ふり返ってみても、夏目漱石論は私にとって、最初で且つ最も核心的な仕事であったと思う。特に1969年に群像新人賞を受賞した「意識と自然——漱石試論」には、10代から20代にかけて考えていたことが凝縮されている」と語っている。柄谷は、漱石の長編小説を読むと、なにか小説の主題が二重に分裂しており、はなはだしい場合には、それらが別個に無関係に展開されている、といった感をおぼえるという。『門』の宗助の