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そんそんの教養文庫(今日の一冊)

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一日一冊、そんそん文庫から書籍をとりあげ、その中の印象的な言葉を紹介します。哲学、社会学、文学、物理学、美学・詩学、さまざまなジャンルの本をとりあげます。
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#マルクス

「強い視差」からくる超越論的な反省——柄谷行人『トランスクリティーク:カントとマルクス』を読む

柄谷行人による2000年代の著書『トランスクリティーク——カントとマルクス』からの引用。本書で柄谷は、カントによってマルクスを読み,マルクスによってカントを読むという試みに挑戦する。そして、コミュニズムの倫理的根源としてカントの哲学があることを明らかにする。「トランスクリティーク」とは、絶えざる「移動」による視差の獲得とそこからなされる批評作業の実践のことである。そして、新しい運動としての「アソシーエション」についても語られている。 カントの哲学は超越論的(超越的とは区別さ

「まだ思惟されていないもの」としての価値形態論——柄谷行人『マルクスその可能性の中心』を読む

柄谷行人については昨日の記事でも取り上げた。本書『マルクスその可能性の中心』は、文芸誌「群像」(講談社)で1974年4~9月号に連載した後、1978年に単行本になった本で、亀井勝一郎賞を受賞している。 本書が書かれた1970年代半ばというのは、70年代初期に新左翼が崩壊し「マルクスはだめだ」といわれた時期だった。さらに遡ると、柄谷がマルクスを本気で読み出したのは1960年代初期に、「イデオロギーの終焉」が唱えられ、「マルクスは終わった」といわれた時期からだったという。つまり

"向こうから"到来する交換様式D——柄谷行人『ニュー・アソシエーショニスト宣言』を読む

柄谷行人(からたに こうじん)は、1941年生まれの思想家。東京大学経済学部卒業。同大学大学院英文学修士課程修了。法政大学教授、近畿大学教授、コロンビア大学客員教授を歴任。1991年から2002年まで季刊誌『批評空間』を編集。 New Associationist Movement(ニュー・アソシエーショニスト・ムーブメント、NAM)は、日本発の資本と国家への対抗運動。柄谷行人が「当時雑誌(『群像』)に連載した『トランスクリティークーカントとマルクス』で提示した、カントとマ

マルクスのエコロジーと「物質代謝の亀裂」——斎藤幸平氏『大洪水の前に』を読む

著者の斎藤幸平(さいとう こうへい、1987 - )氏は、日本の哲学者、経済思想家、マルクス主義研究者。東京大学大学院総合文化研究科・教養学部准教授。フンボルト大学哲学博士。本書『大洪水の前に:マルクスと惑星の物質代謝』は彼の博士論文(ドイツ語)の英語訳『Karl Marx's Ecosocialism(カール・マルクスのエコ社会主義)』を元にしたものであり、これにより権威あるドイッチャー記念賞を日本人初、歴代最年少で受賞している。本書は世界9カ国語で翻訳刊行されている。日本

マルクスが指摘した労働者の「二重の自由」とは

誰もが知っているカール・マルクスである。資本主義社会の限界や、新しい資本主義といったことが唱えられるようになった今日、また新たなマルクスが求められているかのような感もある。1989〜91年にソ連や社会主義東欧諸国が次々に崩壊した。共産主義という大きな社会実験が終わり、マルクス主義は一旦「オワコン」化したかに見えたが、決してそうではなかった。マルクスの書を読むと、まるで現在の資本主義社会の最終的な状態を予言しているかのようなことが多く書かれているのである。マルクスはまだ終わって