八十四話 はじめての出勤??

翼さんの部屋に泊まり、一夜を過ごした私(語弊があるが…)
朝着替えをしたが、替えの衣服を持っていなかった。
致し方なく、家出してきた時の服を着る。
下着は少し汚れてしまったので、替えることができない。
モジモジしていると、翼さんは自分の下着を貸してくれた。
派手な感じの下着だけど、翼さんの優しさが嬉しい。

そして着替えを終えたら、翼さんが朝食を作ってくれた。
半熟卵の目玉焼きだった。
翼さんはそれを食パンに挟み、食べている。
私もそれに倣って、食べてみた。
美味しい!半熟卵の黄身がとろりとした食感と、パンサクッとした食感が合わさりすごい美味しい。
私は口の端から黄身が飛び出しそうになるのを、気をつけながら食べた。
その様子を翼さんが見ている。
そんなに見つめられると、すごい恥ずかしい…。

朝食を終え、翼さんの部屋を二人は出た。
今日から新しい(というか初めての)仕事だ。
考えるとすごい緊張するが、隣には愛しい翼さんがいる。
それだけで、緊張がどこか行ってしまいそうだった。
秋も深まってきて、落ち葉が舞っている。
その中を白いロングコートをかっこよく着こなしている翼さんが歩いている。
長いヒールの靴のコツコツという音すらカッコいい。
こんな大人になりたいなーと思いつつ、私は隣の翼さんを見つめた。
ともすると、隣の翼さんに肩が触れそうだった…。
欲をいえば翼さんと腕を組んで歩きたい…。
「どうしたの?寒いの?」
あまりに私が翼さんをガン見するので、翼さんが怪訝な顔をして聞いてきた。
「いえ、なんでもないです…」
私は恥ずかしくなり、うつむいて答えた。
翼さんは白いコートの前を開けて、翼のように広げて私を包んでくれた。
そして、翼さんは腕で私の腰を掴み、グッと引き寄せてくれた。
確かにこれは温かいし、翼さんのそばに寄れて嬉しいけれど。
人に見られると、ちょっと恥ずかしい。
ちょっとというかだいぶ恥ずかしいか…。
「翼さん…」
私は色々な感情を込めて、愛しい人の名前を呼んでみた。
翼さんはこちらを優しげに見て、もっと抱き寄せてくれた…。
違う、そうじゃない…。
でも、嬉しい…。
相反する感情に流されて、私の心は秋風のように乱れた。
「翼さん…私…」
私は自分の感情をうまく言い表せなくて、言葉が途中で途切れてしまった。
もう恥ずかしいなんて言ってられない。
私も翼さんの身体に腕を回して抱きついてしまった。
「もうノアちゃんたら…。甘えん坊さんなんだから…」
いいですよ。私は甘えん坊なんですよ。
私は翼さんの問いに、心の中でそう答えた。

よろしければサポートお願いします❗ たいへん励みになります。