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"Stay Home"プレイリスト (ポップス編)

はじめに
 コロナウイルスがいよいよ大変なことになってきた。僕はライブはおろか、ついにテレビの収録まで中止になったりして、いよいよどうなってしまうんだろうかという感じだ。出口の見えない真っ暗なトンネルの中を、懐中電灯も点けずに歩いているような気がする。
 だが一つ、この不安な生活が続く中で僕に変化が起こった。かつて大好きだった曲を思い出して家で聴き直すことが増えたのだ。それらは僕の予想通り――時には僕の予想を超えて――皆等しく僕の心を慰めてくれた。本当は僕もいち音楽家として皆さんに生の音をお届けしたいのだけれど、今の状況がそれを許してはくれないので、先日、生配信ホームコンサートみたいなこともやってみたが、今回はそれとは違う視点で、この自粛ムードが続く中、僕が家で聴き返した音楽を皆さんにお伝えできれば、と思った。
 今回、ポップスと、ジャズ・クラシックから5曲ずつを選んで、文章を書くことにした。音楽的にはほとんど共通点のようなものはないけれど、10曲が10曲とも「僕の心を慰めてくれた」曲で、付け加えるならば「僕が今家にいてお酒を飲むときに鳴っていてほしい」曲であることは自信を持って言える。実際、久しぶりにこの10曲をアイリッシュ・ウイスキーの水割りを飲みながら聴いたけれど、とても素敵な時間になった(お酒が飲めない人は、ホットコーヒーでも、梅昆布茶でも何の問題もありません)。
 「ステイ・ホーム・プレイリスト」とでも名付けて、計10曲を紹介しながら、各曲についての文章を書いてみます。もし皆さんにとって知らなかった曲との出会いになれば嬉しいし、「この曲私も好きだったんだよね」と共感してくださっても嬉しい。1曲自分の曲を入れてしまったけれど、これは自我の強いミュージシャンの悪い癖だと思って笑ってやってください。
 まずは10曲のタイトルとアーティストをご紹介します。 

Spotify上でもプレイリストを作ってみました。

https://open.spotify.com/playlist/5qh1pUz37Uh2RbpZIcThFa?si=eqRBj-5_TQyh1CcZ_-TYnw


(ポップス編) 
 Weasel And The White Boys Cool / Rickie Lee Jones
 Adventure Of A Lifetime / Marcell
 Devotion / Jessie Ware 
 Young And Beautiful / Rana Del Rey
 Man In The Mirror / Michael Jackson 
(ジャズ・クラシック編)
 But Beautiful / Tony Benett and Bill Evans
 Lush Life / Phineas Newborn Jr.
 ピアノ協奏曲 ト長調 第2楽章(ラヴェル)/ Monique Haas and Orchestre National De France
 子守歌 (ショパン)/ Maurizio Pollini
 Spotlight / 園田涼

 では、各曲に文章を付けていきましょう。
 
Weasel And The White Boys Cool / Rickie Lee Jones

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 世の中には何度聴いても飽きないアルバムというのがある。僕にとってビートルズの「ラバー・ソウル」がそうだし、エリカ・バドゥの「ママズ・ガン」がそうだし、この曲を収録しているリッキー・リー・ジョーンズの「浪漫」だってそうだ。
 彼女の歌を初めて聴いたのは大学一年生の時だった。バンドサークルの先輩で、ドラマーのスティーブ・ガッドのファン、というかスティーブ・ガッド原理主義者と言えるくらいの熱烈なガッド・マニアがいて、彼が好きなガッドが参加した楽曲のコピーバンドを一緒にやった。そしてそのセットリストにこの曲も含まれていたのだが、彼女の力の抜けているんだけど、一本確かな筋が通ったボーカルに惚れ惚れすると共に、その後ろで演奏しているミュージシャンがとにかく気持ちよさそうに音を出していて、僕は強烈な憧れを覚えた(実際、とんでもないミュージシャンたちが彼女の歌を支えている)。このアルバムからは、1曲目に収録された「恋するチャック」が最大のヒットとなったが、本当にそれ以外の曲も、ジャケットも、全てきらきら輝いている。いいアルバムってこういうのを言うんだよなぁ、と思う。40年以上前の作品だとはちょっと信じられない。そして僕はこのアルバムの中でも、「ホワイト・ボーイズ・クール」…気だるくてクールなアコースティック・ギターのバッキングから始まり、エレキギターとピアノとベースがちょっと遠慮がちに音楽の輪郭を形作り、しっかりと最後にガッドのドラムがイントロをドライブさせる、この曲が大好きだ。こんなイントロを奏でられたら、アマチュア・シンガーだっていつもの5倍くらい上手に歌い出せてしまうんじゃないかと思う。
 僕はリッキーの歌声を聞くたびに、僕がバンドマン時代に2回出演した「SXSW(サウス・バイ・サウス・ウエスト)」というテキサスの音楽フェスを思い出す。一週間、オースティンのあらゆる場所や店――音楽ホールは勿論、バーからバーベキュー屋まで――の全てがコンサート会場になる。特にメイン・ストリートの猥雑なバーが全てライブハウスと化す光景は衝撃的で、それらの店でこれから売り出されるであろう新人のカントリー・シンガーのパフォーマンスを観ながら、濃すぎるウイスキーのソーダ割りを飲んでいると、五感全てでアメリカという国の一部を理解出来た気がした。
 僕はリッキー・リー・ジョーンズをこのフェスで観たわけではないし、彼女がこのフェスに出演したことがあるかどうかさえ知らない。でも、ああしたバーの中で彼女のパフォーマンスを観られたらそれはちょっと形容しがたく幸福な空間になっただろうし、なぜかはっきりと僕はその光景を想像することができるのだ。

(以下有料になりますが、この後2曲目のエッセイを書いています。順次エッセイをアップしてゆきます!)

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