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ものを捨てたら見えてきた

今の部屋に越してきた時は、てんやわんやだった。7年間生活を共にしたパートナーとのカップル解消。そのショックの中、大急ぎで部屋決めと引越し。せっせと荷造りをして友達に引越しを手伝ってもらった。突然のお願いを快く引き受けてくれた事を今でも感謝している。

ものの取捨をする時間はなかった。ウォーターサーバの補充用の水の空き段ボールと、イケアの袋にガンガンものを詰めて荷造りをした。3LDKから1Kへ間取りが変わるのだが私物は減っていない。当然、新居は荷物で溢れかえってしまっていた。

新しい場所での生活が始まる中で、新しい友達もできた。そのうちの一人とよく掃除の話をしていて、断捨離の話が出た。もので溢れかえった部屋で生活するのに疲弊していたので、捨てるということに集中してみようと決心した。つまりは、断捨離なるものを私もやってみることにした。

出ないペンやいくつもある使いかけの消しゴム。次から次に出てくる付箋。ボロボロになった絵筆や期限の切れた世界堂の割引券、レシート。いつか使うかもしれないとか、いくつあっても困らないだろうと、必要ないものや消費できないものをたくさん所持していた。人様にあげることのできないものや明らかにゴミとなってしまったものは容赦なく分別していく。小ものが終われば次は大ものだ。収納棚として使っているIKEAの作業台に目をつけた。この作業台はこの部屋には大きかった。高さも収納力も相性が悪く、これは手放すことにした。テーブルも天板が大きすぎて部屋をかなり圧迫していたので手放す。そうなってくるとベッドもかなりの床面積を占めていることに気づいてしまった。ええいままよ!と、思い切ってこれも手放すことにした。

他にも断捨離したものがある。それは本やゲーム達から成るエンタメ系のもの達だ。なんとなく捨てるには罪悪感もあって、中には思い出があって手離すには躊躇するものもあった。しかし、思い出だからといって10年以上も開いてすらいない数十冊の技法書を、今後も一生持ちつづけるのかと言えばそんな事はしたくない。友人にアドバイスをもらい思い出の数冊を残してあとは手放すことにした。いつか全巻集めようと思っていた漫画も、いつかクリアしようと思っていたゲームも、いつか読むだろうと思っていたビジネス書も小説も手放すことにした。その時の気持ちは「もういい加減すっきりしたい!」の一心だった。棚を見つめては、抜けている巻数やまだ買えていない末尾の巻が目に入る。箱を開ければ、やらなければいけない未プレイのゲームや、まだ使えるコンソールが出てくる。エンタメのために購入した本やゲーム達。そこにはたくさんの「やらなければいけないこと」が存在していた。本来楽しむために購入したものがタスクのように積み重なっていた。そこに断捨離という解決策がやってきた。不思議と目に見えなくなると漫画の続きもゲームにも全く意識がいかなくなった。興味はずっと前に失っていたのに、ものだけがそこにあったのだ。今読みたい本を買い、今読む時間ができた。

3LDKから1Kに引っ越してみて気がついたのが、自分のものの所持の仕方と廃棄の感覚が、変わらず3LDKの感覚だったということ。ベッドも、作業台もテーブルも、3LDKの1室だと考えればぴったりだった。1Kの部屋にマスキングテープを貼って目張りして採寸もした。しかし部屋に収まるからといって、ぴったりという事ではないらしい。

作業台がなくなったのでパインラックをいくつか買った。組み立てたり崩したりを数ヶ月に一回繰り返しながらベストな数と配置を試行錯誤している。ベッドがなくなったのでマットレスを敷いたり畳んだりして毎日を過ごしている。テーブルの代わりに買った無印良品のデスクはスタンドの位置を右にしたり左にしたり、ディスプレイの配線をあっちにこっちにやって、どの配置が良いのか試行錯誤している。もう1年近くこれを繰り返している。今は条件のいい仕事も見つかったので、予算を考えればもう少し広い部屋に引っ越せる。しかし、今はまだここでいいのかなと思っている。この部屋に住んでもうすぐ3年。洗濯洗剤や食器のもっと良い収納の仕方を思いついた。買い置きのパスタやソースは、あの備えつきの棚の収納方法を変えれば、購入した棚が一つ解体できることに気がついた。そんなことが楽しくなってくる。住めば都とはよく言ったものだ。強いて言えば、少し日が射す窓と景色が欲しいところ。そればかりはこの部屋にいる限り手に入らない。ものを持てばそれらを消費しなければならないという責任が増えるという事を、今のささやかな生活を通して知った。今後は、そのリスクを負ってでも部屋に迎えたいなと思うものを身の回りに集めていきたいと思っている。


その胸オレに貸してくれ 第13回 ものを捨てたら見えてきた

おねがい

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