携帯小説
まずは、お仕事の宣伝を。
6月14日発売の、東京創元社『ミステリーズ! Vol.95』に短編が掲載されます。
『春待ちの家』というタイトルで、同誌に不定期に掲載されている家シリーズの三話目です。ミステリーではないのに混じっていることに未だ慣れず、そわそわしております。よろしければぜひ!
さて、本題。
わたしは数年前、携帯小説を書いていた。当時は、出版社に自分の書いたものを送るなんてとんでもないと思っていて、出版社よりも敷居の低そうな携帯小説界で頑張っていたのである。敷居が低い、というのは携帯小説のシステムのことでもある。サイトに登録さえすれば、自分の小説を誰かに読んでもらい、感想までもらえるのだ。これって、本当にすごい。九州のど田舎でひっそりと書いたものが、世界に向けて開かれるってすばらしすぎる。誰にも読まれることのない小説をノートに書き散らしていた青春を送った者としては、こんなものを発明してくれてありがとうとしか言えない。そんなわたしが携帯小説のサイトに登録したのは、恋空が流行っていたころだった。
携帯小説といえば、やはり恋愛が主軸だろう。きゅんきゅんする恋とか、切ない恋とか、そういうやつ。わたしはそれが、とにかく苦手だった。いや、読むのは好きなのだけれど、全くと言っていいほど、書けなかった。王道のときめく恋って、どう書くの。
昔を思い出せばいい、と思われる方もいるだろう。たしかに、わたしだってかつては純粋な女の子だったわけだし、きゅんきゅんしたことだって多々ある。思春期のころは好きな小説で妄想したことだって……、というか妄想ばかりはかどらせていた。わたしは氷室冴子さんの『銀の海金の大地』がとにかく好きで、その中でも美知主が最愛だった。御影を想うあまり、美知主がむりやり御影を押し倒すくだりがあるのだが、そこがもうエロすぎる。エロ切ない。知らない方のためにちょっと補足なのだが、御影は美知主の実父が捨てた憐れな女性で、そのとき背中に深い太刀傷を負っている。傷のせいで熱にうかされた御影は美知主を愛する男と勘違いして、乱暴に自分を抱く美知主にも喜んで体を開くのだ。愛と罪悪感と嫉妬が入り混じり、もう、めちゃくちゃ興奮した。何なら、簡素に説明しているいまもちょっとどきどきしている。もしかしたら、わたしの性癖の扉はこのシーンで開いたかもしれない。いま気付いたけど。
そのシーンに自分なりにアレンジを加え、わたしが誘拐されていたり、他の男に寝所にむりやり連れ込まれたりして、そこに美知主が助けに来てくれてそしてそのまま……なんてことをしょっちゅう脳内採精(どうでもいいけどわたしのパソコンはわりと変な変換をしがちで、しかしこういうときは有能)したものだ。想像上では何度美知主の子を孕んだことか。え、純粋じゃない……?
話を戻すが、携帯小説のメインユーザーである十代女子の心を鷲掴むようなときめく恋をどうしても描けなかったわたしは、不人気作家もいいところだった。読んでもらえないし、感想ももらえない。たまに感想を頂けたと思ったら、『文字がつまっていて読めないです』『わたしの小説も読んでください!』というものばかり。読まれる以前の問題っていうか。自分ではきちんと書いているつもりだけれど、もしかして小説の体をなしていないのではないか、と思ったこともあった。
しかし、書き続けるにつれて、すこしずつ『読みやすさ』とか『人を引き付ける台詞回し』だとかが何となくわかるようになり、それにつれて読者も増えてきた。作家のお友達もできて、作家活動がとにかく楽しくなってきた。だけど、『人気』となると微妙だった。
携帯小説のサイトでは、ランキング形式で人気小説が発表される。わたしはどうしてもランキングに入ってみたかった。一位とまではいかないけれど、せめて十位以内……!
そこで、リサーチをすることにした。携帯小説の人気作を読んだり、人気漫画を読んだり。流行りを知って、自分の中に落とし込もうとした。そしてその中で手を出したのが、かの有名な『ときめきメモリアル Girl’s Side』であった――。
というわけで次回は、ときめきメモリアルでお話をします。わたしが設楽先輩にめちゃくちゃ狂ったという内容になる予定です。