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プロレスラー・SAISOの証言 【小説】どの顔もあの女#10

 高梨さんにはお世話になりました。僕、隔週でWebに連載してるんです。「SAISOのここまで言うぜ!」っていう、時事ニュースや気になった話題をギリギリのラインまで辛口で語るみたいな企画で。
 元はと言うと高梨さんがその企画を作って、編集部に提案してくれて、形になったんですよね。時間が合えば会って話して、なければ電話で話して、それを原稿にしてもらっていました。
 仕事が早いし、丁寧だなって思ったのを覚えています。プロレスラーという仕事柄、いろいろなインタビューや対談を受けて、ライターさんが原稿にしてくれるんですけど、高梨さんの原稿が一番直しが少なくて。ちゃんとした仕事をしてくれる人、という印象しかないです。
 基本的に真面目ですよね。僕が冗談を言ってもスルーすることもあった(笑)。冗談に気づいてないのか、反応に困るから流しているのかわかんないですけど、でもそれが高梨さんっぽいというか、僕は嫌いじゃなかったですね。

 プロレスは大学生のときに好きになったって言ってました。学祭で学生プロレスを見てハマったらしいです。「初めて好きな選手はチェリーボーイ民生」って言ってました。10年以上前に学プロで有名だった、下ネタ系のレスラーです。僕も存在は知ってましたよ。それもあって、いつかはプロレス関係の仕事をしたいと話してて。
 で、僕の出る興行なんかも見にきてくれたり、僕のインタビューなんかも読んでくれたりして、あるときツイッターのダイレクトメッセージに連絡が来たんです。「プロレスメディアではないWeb媒体で連載しませんか?」って。タイムラインを見るとけっこうプロレスを見ている人だと思ったし、添えられていた企画概要もちゃんと練られたものだったので、すぐに上の者に相談して許可をもらいました。
 僕にとっても、団体にとっても、「プロレス外」に認知を広げるチャンスだったので、とてもありがたい露出でしたよ。連載の評判も良かったです。記事がランキングに入ることもありました。
 取材を受けるのも楽しい時間でした。高梨さんって、すごいよく笑うんですよ。僕が言うことをいちいち真に受けて、本気で笑うんです。だから、僕まで自分で言った言葉に笑っちゃって。良くも悪くも、根が真面目な人なんだと思います。
 でも、もう高梨さんと一緒に仕事することはないんですね……。悲しいです。なんでこんなことに……。


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