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「御料理」の奥行きと味わいに満たされて(2)名店/佳肴 岡もと

京都・東山にある日本料理店「佳肴 岡もと(かこう おかもと)」で食事をしてきました。京都で日本料理をいただいたのは、出町柳の「弧玖」に続いて2回目で、ここではその体験を綴ります。

この日はパートナーとふたりで。日本料理を食べ歩くのが趣味のひとつという彼は、佳肴 岡もとを何度も訪れています。「夏の京都デートをしよう」と計画したタイミングで、佳肴 岡もとの予約が取れました。なんて幸運なんでしょう。

大将は岡本良太さん。「京都吉兆」「京 上賀茂 御料理秋山」などの有名店で修業し、2013年に独立したというので、佳肴 岡もとはこの地で8年以上も愛されているのですね。

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河原町からゆっくり歩いて25分ほど。到着すると先客がいました。素敵な家族連れです。私たちはL字型カウンターの奥に着席。大将の動きを間近で見られる、素晴らしい眺めの席です。

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まずは、お酒をオーダーします。お酒を愛する大将が全国から選りすぐった日本酒が揃うと聞き、御料理とのペアリングが楽しみでした。

食前酒的にさっぱりと飲める「仙禽 かぶとむし 2021」をいただきます。先付は、雲丹と鮑。のっけから華やか食材が登場です。

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お碗には珍しい野菜が使われています。一瞬「つくし?」と思いましたが、この時期につくしは採れない。はて……? と眺めていると、大将が全員に対して、その謎野菜を「アスパラソバージュ」だと説明してくれました。栽培はされておらず、野生なのだとか。とても綺麗な頭をした野菜でした。

八寸が提供される前、目の前に細長い皿が置かれました。そこへ次々と魅力的な御料理が置かれていきます。鰹の粉をまぶした鰯が香ばしくて、顔がほころびます。よくもまぁこんな美味しい発想ができるものだなあと感心しました。

日本酒を追加しながら御料理をいただいていると、鮑のキモが登場しました。御料理を同じ空間・時間に味わう、「佳肴 岡もと、という舞台」にその日集まったメンバーである家族の掛け合いやトークが愉快すぎて、途中で何度も私はくすくす、にこにこと、密かに笑っていたのですが、ここでもう大爆笑。パートナーもお腹を抱えて笑っていました。

家族のひとりが

「最初に鮑が出てきたのに、鮑のキモが出てこないのおかしいと思ってて。大将が鮑のキモ好きすぎて、7人分(家族+私たち)食べるつもりなんちゃうって思ってました(笑)!」

と、疑念を吐露したタイミングで、笑いを堪えきれなくなったんです。

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それからは時折、家族と言葉を掛け合うようになりました。それまでも大将が「総合演出」として、全体の様子を見ながら言葉を選び、話を振って、舞台全体の雰囲気を朗らかで、温かく、自然と笑顔があふれる空間にしてくれていたのですけどね。

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続いて、印象的だったのは焼き物。甘鯛を鱗揚げに。鱗揚げは初めていただきました。後で調べてみると、鱗をつけたまま高温で素早く揚げることが、鱗を立たせてカリカリした食感にする秘訣のよう。知らないことが多すぎて、勉強になります。日本料理って楽しいです。広がっていくのを感じます。

お待ちかねのご飯は鯖鮨が2種類と、フカヒレで出汁をとった蕎麦。炭水化物愛の強い人間にはたまらない流れでした。

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締めに出てきた甘味は黒糖饅頭。その場で形成して、蒸してくれたのには驚いたものです。こじんまりしていた饅頭が、ふっくらと大きく膨らんで登場したことにもびっくり。

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今回、佳肴 岡もとに連れて行ってもらい、改めて感じました。お店は舞台なのだなあと。

私は時々、舞台を観にいきます。好きな俳優が出演する作品や好きな劇団の作品はなるべく。例えば2020年から今年にかけては、氷川きよしさんのコンサートツアー、長澤まさみさんの『フリムンシスターズ』、大竹しのぶさんの『フェードル』、劇団フルタ丸さんの作品など。

映画ともドラマとも違う、同じモノは二度と観られないのが舞台。同じ舞台を2回以上観に行ったことはありませんが、舞台は生ものです。観客やその場の雰囲気、空気感を含めて、すべての公演は一回きり。まったく同一の作品は成立しないのです。

好きな人を目の前で見られる。好きな人の生の声を聴ける。好きな人が動き回る気配を目でも耳でも感じられる。遠くて、近い。近くて、遠い。唯一無二の幸福な時間を過ごせるから、舞台に足を運びます。

佳肴 岡もとも舞台でした。あの日、あの場で、偶然にもご一緒した家族。あの日、仕入れた食材で提供された御料理。あの日、舞台を生き生きと、自然体で動かしていた大将のテンション。これらがすべて同じ組み合わせで展開される舞台はないでしょう。

そう考えると、あの日、あの場にいられて、3時間近くの舞台を堪能できたのは、なんて幸せなことだったんだろうと、今でも頬が緩んでしまうほど。ありがとう。いい経験をさせてもらいました。

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