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大学同期・近藤知沙の証言 【小説】どの顔もあの女#25

 真矢さんのニュース、聞きました。正直、言葉が出ません……。はい、大学時代、同じサークルに入ってました。私にとって真矢さんは、今まで出会ったことがないタイプの人だったと思います。つかみづらい部分もところどころあったので。
 最初にびっくりしたのは、ミクシィで「友達」になって、真矢さんの日記を見たときです。スナックでバイトを始めたと書かれていて驚きました。周りに水商売バイトをする子がいなかったので、けっこう衝撃を受けたというのが正直な感想です。
 スナックで働く前はお弁当屋さんとか塾講師とか、一般的なバイトをしていたんです、真矢さん。そこからいきなりなぜ? と思いました。さらに今度はスナックをやめて、もっと時給がいいキャバクラで働き始めた、と書いているのを読んだときもびっくりしましたね。
 会ったときに直接聞いてみると、「親が学費を払えなくなったから、残り2年分を自分で払うことになった」と話していました。そうなると、それ以上深くは聞けないですよね。経済的な事情があるんだな、と思いました。

 真矢さんの大学以外の生活は、主にミクシィで知ることが多かったです。サークルで会うと話しますが、たいてい話題は恋愛関連で、それ以外はあまり話さなかったんですよね。真矢さんが好きになる相手は同じサークルの男子の先輩が多かったです。多かった、というのは、けっこうすぐ心変わりしていたので……。何か少し優しくされると好きになる、みたいな惚れっぽさがありました。そこは可愛いですよね。一時期はサークル関係で出会った別の大学の男子と付き合っていたみたいです。でも、それ以降はあまりうまくいってなかった印象があります。
 サークルの同期、とは言っても浪人しているので1歳年上の男子に告白してフラれたときは、同期女子全員で真矢さんを慰めました。真矢さんの部屋に集まって、みんなで夜通し飲みながら「彼よりいい男はたくさんいる」とか「彼はやめといたほうがいいよ。フラれてむしろ良かった」とか励ましてました(笑)。
 それにしても、「絶対フラれるけどぶつかってきたい」と言って玉砕していたんですよね。OKをもらえる確信が全然ないのに突進していく姿勢はすごいというか、私には真似できないことだなと思って見ていました。変わっていますよね。でも気持ち的にケリをつけたかったんだと思います。今考えると、それって自分勝手だし、相手の気持ちに配慮しない行動ですけどね……。

 4年生になってからは、妙に病んでいた印象があります。第一志望の企業から内定をもらっていたのに、キャバクラのバイトで疲れていたみたいです。やっぱりストレスが溜まる仕事なんでしょうね。お客さんに何を買ってもらったとか、私はこれだけお金を使ってもらっているから女としてまだ価値があるとか、そんなことを書いていました。お金にまつわる日記が多かったです。みんなも「病んでるな」とか「大丈夫かな」とか心配しながらコメントしていたと思います。
 そんな矢先に今度は真矢さん、ホストにハマったんです。歌舞伎町のホストです。今でも覚えていますが、歌手のGacktさんに似ていました。初回千円飲み放題で来店した後、すっかりそのホストにハマってしまって、毎回2万円は落としている、と書いていました。その金額はホスト業界で多いのか少ないのかはわからないですが、普通の大学生が使う金額ではないのは確か。金銭感覚がおかしいです。それよりも学費は大丈夫なの? とも思いました。
 店に行くだけでなく、そのホストの写真、ホームページとか名刺に使う用の写真を一新してあげたいからと、写真スタジオに行ったとも書いていました。すごいですよね……。結局それも真矢さんが支払うわけですから。「彼がお礼に、とパフェを奢ってくれた」と書いていましたが、数万円する撮影料と比べると、パフェなんて安いもんじゃないですか。キャバクラのお客さんには「使うお金が少ない」とか「ケチ」とか、さんざんな言い分なのに対して、ホストには進んでお金を使っている。その歪さを不思議な気持ちで眺めていました。

 卒業してからは1年に一、二度会うくらいでした。ふたりきりではなくて、サークルの同期女子数人ですね。最近はみんなで大相撲を見に行きました。真矢さんがいつからか相撲好きになっていて、チケットを手配してくれたんですよね。後援会に入っているから、その関係で取りやいんだと言っていました。
 最後に聞いた恋愛話ですか? 若い力士と40代男性、どちらと付き合うか迷っている、と話してました。華やかですよね。結婚して子どもがいる私には縁のない話です。その40代男性って……やっぱりそうですよね。結局、そうなりますよね。
 話していて思い出すことがいろいろあって、悲しくなりました。絶対に犯人を見つけてください。じゃないと真矢さん、成仏できないと思います。


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