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妹・高梨葵の証言 【小説】どの顔もあの女#28

 実家にいた頃の姉との思い出ですか? ……正直、そんなにないんです。4歳離れてるとあまり交わる機会がないんですよね。
 小学生時代の姉がどんな子だったか、ですか。覚えてることを何でもと言われても、意外と難しいですね。なんとか思い出します。

 あ、ありました! 妙にケチだったというか、変わったところでケチでした。今でも覚えてるのは、電気をつけずにトイレに入るクセですね。「電気がもったいないから」「つけなくても事足りるから」という姉なりの考えで、電気をつけないんですよ。
 だから、誰も入ってないと思ってトイレのドア開けるじゃないですか。そしたら姉がいて「うわ!」みたいな……。家だから鍵もかけないんですよね。開けたらいてお互い「うわ!」と叫ぶことが何度もありましたけど、そのクセはまったく直らなかったですね。学習しない人だなって思ってました。
 さすがに“大”のときは電気つけてたと思いますよ。“小”だと電気がなくても何とかなる、というのはわかる気がしますけど。でも、私には理解できない行動でした。今でも理解に苦しみます。

 働いていた母の代わりに、姉が夕食を作ることもありました。でも、すごく大雑把というか雑な人で、料理は私の方が上手いと自覚してましたね。野菜炒めとか肉が焦げてるのは日常茶飯事でした。まあ、料理の内容以前に、後片付けに関して母からよく怒られていた記憶があります。
 ここでも変なケチっぷりが発揮されていて、洗い物のときに水をごく少量でしか流さないんです。「アンタ、そんなんで汚れ落ちるわけないやろ!」と母からいつも怒鳴られていました。でも、自分のやり方を変えないんです。頑固ですよね。「水がもったいないし」とか「これで十分流せてるし」とか言ってました。

 大人になってからはさすがに、そんなおかしいクセはなくなったみたいですけど。姉が結婚した後、家に遊びに行って料理を振る舞ってもらったときは、普通の量の水を流してました。
 それにしても、不思議なんです。お金に困ってないからなのか、姉って基本的に気前がいいんですよ。昔はものすごくケチだったのに。

 姉が大学生のとき、私が東京に遊びに行ったんです。そしたら何でも奢ってくれて。「いろいろバイトをしているから、それなりにお金はある」と言ってました。バイトは水商売をしてましたね。スナックとキャバクラです。姉の影響で私も大学に入ってからやりましたよ。稼げるときに稼ぎたいですし、抵抗は全然ありませんでした。姉の姿を見ているから、別に悪いバイトじゃないなと思えました。上を見て行動を決められるのは下の特権ですよね。
 姉は社会人になってからも、私と会ってご飯を食べるときは、毎回奢ってくれました。そんな感じなので、昔のびっくりするくらいケチな印象はしばらく消えてました。ケチな姉を久しぶりに思い出しましたね。

 子どものときの姉の顔ですか? そりゃ、違いますよ。ネットに卒業アルバムの写真と最近の写真が並べられて「整形」とか言われてますよね。普通に考えて一重からあんなくっきり二重にはならないでしょう。だから「整形」って書いてる人には「はい。だから何?」って言いたい(笑)。整形の何が悪いんですか? 母が整形させたんですよ。姉が自分の顔に悩んでたので。「私はブスすぎる」とよく悲観してました。私の二重を見て「うらやましい。ずるい」と言っていたこともありますよ。「どうして葵だけ二重に生まれたの? 私が捨て子だったのかな」とか、狂った発言をしていたこともありました。

 姉が初めて二重にしたのは高校卒業後のタイミングです。地元の美容外科で埋没法を受けてました。びっくりしましたね。目に1本線が入るだけで人って変わるんです。すごく自信を獲得したみたいでした。
 でも、数年経って系が取れて、切開法を受けたんです。本格派の整形というと伝わりますかね。大学2年か3年のときだったと思います。自分で貯めたバイト代で手術を受けた、と言ってました。お姉ちゃんエラいなと思ったのを覚えています。
 姉がきれいになるのはいいことだと思って見ていました。そのおかげで得したこともあったみたいです。ただ、姉は「やっと人並みの容姿を手に入れた。元々二重の人はお金がかからなくてうらやましい。人並みになるだけで、私はすごくお金をかけているのに」とも話してましたね。
 メスを入れる整形自体は目しかしてないみたいですけど、プチ整形と言われるようなものはいろいろやってたみたいです。脱毛とか歯列矯正もやってましたよ。美意識は高めでした。諸々で300〜400万円はかかってるんじゃないですか。

 えっ、私が悲しそうに見えない、ですか? いや、普通に悲しいですけど。姉が死んだんですから。大人になってからは仲良くしてましたし。でも、どこかで姉は早く死ぬんだろうなっていう気もしていました。「40歳より前に死にたい」って、1年に1回くらい言ってましたから。


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