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「御料理」の奥行きと味わいに満たされて。

京都・出町柳にある日本料理店「弧玖(こきゅう)」で食事をしてきました。京都で日本料理をいただいたのは初めてで、ここではその体験を綴ります。

私が「明日は京都に泊まるよ」と言うと、日本料理を食べ歩くのが趣味のひとつというパートナーが、「それなら夕食は日本料理を食べてきなよ。僕が行ったお店でおすすめがいくつかある」と言い、2万円を握らせてくれたのです。

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そう、決して気軽に入れる価格帯ではないお店。とても大きなカンパに感謝しつつ、彼が勧めてくれた中で夜の予約が取れたのが、弧玖でした。大将は前田翔さん。

19歳で入社したリゾートホテルの和食店でキャリアをスタートし、京都の名割烹「桜田」で9年修業し、2015年に桜田が閉店した後、30代前半で弧玖をオープンしたお方。なので、弧玖の歴史は5年以上になるのですね。

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訪れた際、暖簾には菖蒲が吊り下げられていました。時期は5月。ホームページにある「御料理を通して季節を感じ、日本の文化に触れて頂ける時間を提供させていただきます(中略)旬の食材を用い、移りゆく四季を楽しんでいただけるよう……」を体現しています。

ひとりでそろりそろりと店へ入ると、無駄なものが何ひとつ置かれていない美しいカウンター席の向こう側から、素敵な女将さんが笑顔で出迎えてくれました。大将は調理場にいるようでした。

お客さんは3名と2名でいらしている、常連さんと思しき方々。ひとりで最後に到着した私は、端の席に腰を下ろします。

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御料理の献立はなく、その日仕入れた旬の食材が、季節感を大事にした組み合わせや盛り付けで提供されました。

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最初のお碗から、締めのお茶まで14品もの御料理をいただいたことに。すべての御料理で、使用した食材や調理法、何をイメージして作ったかなどを若い板前さんや女将、大将が説明してくれます。

自国独自の料理なのに知らない食材があったり、季節に関する知識に疎いなと感じたりして、「うーん。これは後で調べる必要があるな」とこっそりメモしたことも。

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特に「え〜っ」と感嘆したのは、特徴的な立体感と作り込みに目を見張った、中盤に登場した御料理でした。5月という時期を表現するために、「しょうぶ」と「あやめ」(どちらも漢字で書くと「菖蒲」になるって知らなかった……!)を、池を模した氷に立てているのです。箱庭みたいだ、とも思いました。

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「ちまき」を井草で巻くのがいかに難しいか、時間がかかるかも、聞いて驚いたことのひとつです。私なんて食べるのがとても早く(一口15回くらい噛んだら飲み込んでしまう)、ちまきを食べ終わるのは一瞬ですが、井草になる前の素材をどこで入手するか、それをどう染めるか、なんてお話まで特別に教えてもらううちに、御料理がここに並ぶ前のこと、厨房でどんなプロセスがあったのかを知るのはなんと面白いことだろうか、と身震いしたのでした。

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食事をする際の店選びでは、敷居が高いと感じて、選択肢になかった日本料理。だけど四季のある日本で、それぞれの季節を味わい尽くす喜びを感じられる料理は、日本料理なのかもしれません。

目と舌で四季に触れられる日本料理は豊かです。旬の食材をいただくことで、自分自身を潤わせ、満たすこともできる、なんとも贅沢なもの。そんな楽しみを知れたことが、生活にまたひとつ彩りをもたらしてくれました。

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