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『お盆のお客さん』ショートショート

老いた男性が葬儀屋にやってきた。
「ご要件はなんでしょうか?」
制服を着た若い女性が対応した。
「新盆の手配を頼みたいんだが」
「かしこまりました、ただ、今日からお盆に入っておりますので、準備させて頂く者が出払っておりまして、明日の手配になりますがよろしいでしょうか?」
男性は一瞬、曇った表情になったが、小声で仕方ないかと呟き、了承した。
「では、こちらの書類に必要事項のご記入をお願いいたします」
女性はマニュアルに従い、手続きを始めた。
「それにしても、お盆に入ってから頼まれに来られるのは珍しいですね、お忙しかったんですか?」
女性は、単純な疑問と世間話のつもりで聞いた。
すると男性はペンを止め、
「なにやってんだかうちの息子は、久しぶりに帰ったと思ったら、準備も何もせんで、だから、自分で手配しに来たんだ」 

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