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戦争と薬物

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疲労、飢餓、恐怖、睡眠不足、これらが戦争のもっとも基本的な要素である。薬物はこれらの問題を中和する手段である。個人の戦闘行動も、集団の戦闘行動も、すべてその当時の文化規範や道徳規…
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#アルコール

ベトナムでは兵士がビールを薬のように浴びた

ベトナム戦争(1965-1973)は、おそらく軍隊が毎日大量のアルコールを供給していた最後の戦争だった。ベトナムの戦場でアメリカ軍の規律に深刻な脅威を与えたのはヘロインやマリファナだったが、アルコールの問題もそれらに劣らず深刻だった。当時の国防総省の調査によると、9割弱の兵士が勤務中に飲酒しており、しかもその量も半端な量ではなかった。下士官の7割、将校の3割が、飲酒に関して何らかの問題を抱えていた。 ベトナムでは、兵士に1日1人当たり缶ビール2缶が支給されていたが、基地内の

ヨーロッパ戦線 銃後の乱痴気

かつて酩酊薬物がこれほど象徴的な重要性をもったことはなかった。 第二次世界大戦では、アメリカ政府は、戦地に赴く兵士の喉が渇いていることは許されないと、醸造業界に対し生産量の15%を軍用に割り当てるよう指示した。ビールメーカーは喜んでこれに応じ、戦争への貢献をアピールした。ビールは愛国心や士気を高める飲み物として描かれ、ビール酵母に含まれるビタミンBの栄養価の高さまで誇らしげに強調された。もちろん、国防省の職員にもビールは配給された。 イギリスも同じだった。食品大臣ウールト

戦場に酒は欠かせない

古くからアルコール(酒)は、戦場において重要な役割を担ってきた。 第一は医学的効能で、アルコールは負傷者の麻酔、感染症の予防などに使われてきた。第二は興奮剤であり、適量のアルコールは戦闘のストレスを緩和し、戦闘に勇気と自信を与えてくれた。第三は精神的な効能であり、眠りを誘い、感情を麻痺させてくれた。第四は生理学的な効能であり、アルコールがかなりのカロリーを補給してくれた。 司馬遼太郎の『坂の上の雲』では、奉天の会戦で、秋山好古が腰にぶら下げた水筒から度数の強い「シナ酒」を