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無名人インタビュー:10年間ホームレスだった人

人間生きていれば、大なり小なり事件があります。嬉しいことも楽しいことも悲しいことも。だけど程度ってもんがあるじゃん?って思えるのは、恵まれてるんだと感じた今回のインタビュー。私がここでゴチャゴチャ言うよりも、読んでもらったほうが早い。ということで、今週も楽しんでいただけると幸いです。

本日ご参加いただいたのは、小坂保行さんです!
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▼イントロ

そんり:今日はよろしくお願いいたします。

小坂保行(以下、小坂):はい、よろしくお願いします。

そんり:今日はどういったインタビューにしていきましょう。

小坂:話の流れのままにって感じで、何でも聞いてもらえれば。

そんり:はい、分かりました。現在のご職業は?

小坂:福祉送迎車両の有償ボランティアと、ライターというか書き仕事​だったり​、チラシとかのデザイン仕事がきたり。あと『ビッグイシュー』という雑誌がありまして、それの委託販売ですね。まあ、主にはそんな感じですかね。それ以外だと、時々スポットで仕事を請け負うっていう感じですけれども。

そんり:フリーで色んな仕事をされてるって感じですね。

小坂:そうですね、フリーですね。

そんり:今の一番大きな収入源、メインにされてるお仕事は。

小坂:収入がメインになるのは…どれだろう?どれもなんか似たり寄ったりなので、特にメインっていうのは今のところないんですけれども。

そんり:有償ボランティアって、介護・介助施設の送迎車両の運転手みたいな?

小坂:そうですそうです。あと透析患者さんとか、もちろん介護とか介助施設もあるんですけど。えっと…病院に自力で行けない人達の送迎ですね。

そんり:有償ボランティアと無償のボランティアって、何が違うんですか。

小坂:おそらく僕の推測だと、アルバイトにすると最低賃金が発生するんですよ。そうではなくて、もっと最低賃金以下での人件費で動いてくれる人っていうのが、有償ボランティアなんじゃないかなと。

そんり:ああ、なるほど。でも、それだったら普通に運転手として労働した方がよくないですか?

小坂:ただね、僕が思ったのは普通の求人で応募すると仕事になるから、自由気ままに振る舞えない。ボランティアだと、極端な話、今日は気が向かないから行かないとかね。割と自由でいられるという。

そんり:仕事に縛られずに済む?

小坂:そうですね。で、実際にちょっと見学した時に、従業員と身を置くよりも、もうちょっと距離を取った関わり方の方が、自分には合ってる場所だなと思ったんですよ。で、丁度その時に有償ボランティアどう?って話があったので、それなら関われるかなと思って、引き受けたって感じですね。

そんり:週に何回ぐらいですか。

小坂:えっとね、今は週3回。早朝2時間と夕方1時間で、一日3時間ですね。

そんり:会社や仕事に縛られたくないってお気持ちがおありなんですか?

小坂:自分に合うところなら、会社でも何でも良いと思うんだけれど、ちょっと自分の世界っていうか、思ってるのと違うところであれば、離れて関わりたいっていうのはありますよね。まあだから、すごく姑息なポジションなんだけど(笑)オイシイとこ取りだけしていこっていう感じですかね。有償ボランティアとしての、働き方として。

そんり:それ以外にはライター?

小坂:そうですね。基本的には、新商品のプレスリリースとか。ポータルサイトが面白いと思ったネタを、記事にしてくっていう感じですかね。

そんり:ガジェット通信みたいな?

小坂:そうそう、そんな感じの。

▼脊髄梗塞、車上生活、ホームレス

そんり:で、『ビッグイシュー』の委託販売もされてると。

小坂:はい。でも『ビッグイシュー』は去年の3月で、販売資格者としての立場は終わってるんですよ。

そんり:『ビッグイシュー』ってホームレスの方が売ってる本ですよね。

小坂:そうです。

そんり:販売者と委託販売者って違うんですか?

小坂:はい。委託販売っていうのは、『ビッグイシュー』の理念に賛同した人が、ホームレスに代わって売るっていうシステムですね。ホームレス当事者としての販売ではないので、販売者ほどの利益はないんだけれど、普通の商店だったり団体だったり個人だったりが、販売者のいない地域で代わりに販売するって感じで。

そんり:『ビッグイシュー』は基本、路上販売だと思うんですけど、あれはホームレスじゃないと出来ないんですか。例えば、私が販売したいって言ったら、販売させてもらえるもの?

小坂:例えばそんりさんが、「あなた、ホームレスですか?」って話になりますよね。ホームレスだって言い切っちゃえば、それはそれまでなんですけれど。基本的には、ホームレスで収入の口もないっていう人を、支援するっていうシステムなんで。

そんり:なるほど。で、去年まで小坂さんは販売当事者だったと。

小坂:そうなんですけど、そこがちょっと微妙で。ホームレスとして売ってた期間と、住居を確保した後にも収入源が『ビッグイシュー』以外に無いっていう期間があったんですよ。で、そろそろ、それ以外にも収入源があるかなって見えてきた段階が、去年の3月あたり。その時期に販売から委託販売になったって感じですかね。

そんり:『ビッグイシュー』を売ってたってことは、小坂さんはホームレスだったってことですか?

小坂:もちろん、そうですよ(笑)

そんり:笑ったらダメなんだろうけど、そんなにサクッと「そうですよ」って言われてるこの状況に笑えてしまって…本当にごめんなさい。

小坂:いえいえ、全然良いですよ(笑)

そんり:そのホームレスになる前、正確には“なっちゃった”ってことなんでしょうけど。その前のお仕事は、何をされたんですか。

小坂:普通に会社員やってました。

そんり:会社員からどういった経緯でホームレスになっちゃったんですか?

小坂:なったのは段階的になんだけど、先ずは親の問題があって。両親共、かなり高齢な時に生まれた子供なんですね。父親は大正生まれで。

そんり:大正生まれ!

小坂:そうそう、なんだったら手塚治虫よりもっと年上ですよ。

そんり:うちの死んだお婆ちゃんでも昭和一桁だから。

小坂:マジで!?(笑)うちの母も昭和一桁。

そんり:え?小坂さんのご年齢は?

小坂:54歳です。

そんり:それでもかなりのご高齢ですよね、ご兄弟が多いんですか?

小坂:10歳くらい上に姉が一人いるハズだったんですけど、死産してるんですね。で、その後に生まれたのが僕。だから20代で、両親の介護問題にぶち当たってるんで。それで実際に、父親の介護もしてたんだけれど、父親はほぼ老衰に近い感じで亡くなって、あとは母親もそろそろってところで、老人ホームに入所しようってなって、その入所費用とかでかなりのお金を使っちゃったんです。まあその後は、自分だけ生活すれば良いって感じでいたんだけれども、そのタイミングで自分も病気になっちゃって。

そんり:どういった病気なんですか?

小坂:脊髄梗塞症って言って神経系統の脊髄関連が壊死する病気なんですね。要は、神経がもうダメになるっていう。だから下半身不随で。

そんり:今もですか?

小坂:自分の感覚では40%くらいは復活してるんだけれど、階段の上り下りとか、後ろに下がったりとか、走ったりとかは出来ないですね。

そんり:その脊髄梗塞症になって、入院治療せざる得なくなったと。それって急になる病気なんですか?

小坂:えっとね、前兆はあるらしんだけど、僕自身は全くそれに気付かなった。具体的には、正座をした後の痺れる感覚みたいなのが、慢性的に続いていたんだけど一過性のものだと思ってて。で、しばらく様子見してたら、いよいよ足が立たなくなって、起き上がれなくなって。その時に即、救急車を呼んで入院してたら何とかなったかもしれないんだけれど、これも2~3日様子を見れば、何とかなるんじゃないかっていうふうに判断したんですね。で、そんな呑気なことをやってるうちに、一週間が過ぎて。

そんり:その時、仕事は?

小坂:会社員だったんですけど、丁度ね、幸か不幸か正月休みだったんですよ。で、正月休みが明けたら病院に行こうと思ってたんだけど、いよいよマズイってので救急車を呼んで、即日入院って感じですよね。

そんり:退院まではどれくらいかかったんですか。

小坂:治療で2ヶ月、リハビリ転院で1ヶ月で、計3ヶ月ですね。

そんり:その時はもう会社を退職されてたんですか?

小坂:えっとね、3ヶ月ぐらいは様子を見てたんですけれど、有給も殆ど消化してて。それと主治医からの説明で、今までの業務に戻れる見込みはないってので、会社に事情を話したら、そういう状態で働けるポストがウチにはないと。それはもう退職しかないよねっていう話になって。で、退職金は出せるって事だったんで、退職を選びました。

そんり:ああ、なるほど。そういう場合って、障がい者申請とか出来ないんですか?

小坂:それを申請したんだけれど、その時は等級をつけられるレベルではないって言われて。

そんり:え?下半身動かないのに?

小坂:そうそう。後で聞いたところによると、あれなんだっけ…ソーシャルワーカーの判断次第らしんですよね。

そんり:ええ!?

小坂:その時、ソーシャルワーカーの判断で医者に見せなかったんですよ。だからその時に医者に見せてたら、また違ったのかもしれないなって。

そんり:それはお幾つの時ですか?

小坂:37,8歳くらいだったかな。で、それから退院したと同時に退職して、家賃も払えなくなったので、先ずアパート退去手続きをして。

そんり:退職金でも間に合わなかったんですか。

小坂:そうそう、母親の老人ホーム費用と自分の入院治療費で飛んじゃって。だから督促が来る前に、大家さんに話にして退去して。とりあえず車は持ってたんで、次の仕事が見つかるまでは何とかなるだろうってことで。で、もうその日からもホームレス生活ですね。

そんり:車で生活してたってことですね。

小坂:そうですそうです。

そんり:生活保護の申請はされなかったんですか?

小坂:一度してるんですけれど、先ずは住居確保してくれって言われて。え?でもホームレスなんだけど?って思いながらね。

そんり:一時期、医療事務の仕事してる時あったんですけど。ホームレスの方が救急車で運ばれて来た時、生活保護を受けてる方だったら、治療費はそれでまかなえるんだけど、ホームレスはそもそも住所がないから、それ以前の問題で、どこの地域で対応するのかっていうのをソーシャルワーカーが出てきて、色々手続きしてた気がするわ。

小坂:はい、そうなんですね。

そんり:家がないんだっつーの!って話ですよね。そもそも。

小坂:その“家がない”って状況が、理解出来ないって時代だったんですよ。まだ。

そんり:ええ?わかるでしょ?

小坂:それは都会だからですよ。金沢的とか、そういうちょっとした地方都市でいうと、ホームレスって言葉は知ってるけど、ホームレスって何?家が無いって何?っていう。実態として分かってないから。それちょっと理解の範囲を超えてるんだけど、みたいな感じになるんですよ。

そんり:それは役所の人達もってこと?

小坂:そうそう。

そんり:え?それダメじゃん。不勉強にも程がありますよね、マジでありえんのだけど。

小坂:でまあ、丁度それがね…あのなんだっけ、リーマンショックの前だったんですよ。リーマンショックの問題が出てきて、年越し派遣村とかそういうのが全国ニュースで駆け巡ってから、ホームレスっていうのがどういう状態の人達なのかってのが分かってきた、みたいな感じみたいですよ。僕自身、大阪に遊びに行った時に、具体的に言うと、ブライアン・セッツァーのライブに行ったんですけど(笑)

そんり:はいはい(笑)

小坂:その時、今から思うとブルーシートの列があったんですね。そこにオジサン達が寝てるのを見かけたんだけど、それがホームレスだっていう認識なかったですもんね。宵越しで酔っ払った人達が、臨時的にこういう所で寝てるんだな、くらいにしか思わなかったですもん。

そんり:なるほど。で、その時は生活保護の申請も出来ずに、そこから本格的なホームレス…って表現が合ってるかどうか…。

小坂:合ってますよ、本格的ですよ(笑)もう車も手放して、家があるわけでもなく。だから公園で寝泊まりしたり。一度、当時よく時間潰してた大型書店があって、そこは23時くらいに営業が終わるんですよ。そこで寝過ごして、書店に朝まで閉じ込められたことありますもん(笑)

そんり:え!店内チェックしないの?

小坂:人が寝てるなんて思ってないんじゃない?

▼同情するなら日銭をくれ

そんり:で、どこで『ビッグイシュー』の存在を知ったんですか。

小坂:先ずね、地方には『ビッグイシュー』のサポート団体があるんですよ。で、ちょうど金沢でも、サポート団体が立ち上がった時期があったんですね。

そんり:はいはい。

小坂:当時、公共施設の無料で貸してくれるパソコンで「貧困、ホームレス、相談」っていうキーワードで検索してた時に、貧困問題に取り組んでる市会議員のホームページに辿り着いて。もう単刀直入に、「ホームレスやってるんですけど、どうにかなりませんかね?せめて働き口とかないんですかね?」って、メールを送ったワケですよ。

そんり:ホームレスの人って働く意思があっても、住民票がなくて就職させてもらえないってありますもんね。

小坂:そうそう!あと保証人もいるしね。で、先ずそんな感じで相談のメールを送ったら、市会議員から「今すぐ来い」と。いや、今すぐ来いって言われても、そこまで僕は歩いて行けませんよって。足も悪いし、電車賃もないしって(笑)だから迎えに来てもらって、丁度お昼時だったので昼御飯を御馳走になりながら、「今ホームレスなんで、とりあえず日銭を稼ぐ何かを世話してもらいたいんですよ」って話をしたら、その市会議員の知り合いで、『ビッグイシュー』のサポートを引き受ける団体をやってる人がいるからって、紹介してもらって。で、販売を始めたんですよね。

そんり:販売は何年してたんですか。

小坂:10年くらいですね。

そんり:1日何冊くらい売れるんですか。

小坂:えっとね、一番売れる時は3~40冊売れるんだけど、だいたい平均は20冊程度じゃないですかね。

そんり:あれって買取なんですか?

小坂:そうです、買取です。

そんり:じゃあそもそも、『ビッグイシュー』を買取るお金すらない人は、どうするんですか?

小坂:先ず、始める時に10冊を無料でくれるんですよ。で、利益は全部自分のものにしなさいと。それから買取数を自分で指定しなさいと。そうやっていくと理屈としては、雪だるま式に利益が増えていくっていうシステムですね。

そんり:値段は一冊いくらなんですか。

小坂:かなり値段が変動していて、僕が始めた時の販売価格は一冊300円。今は販売価格450円で利益が230円だったかな。ただ、今は販売者じゃなくて委託なので、かなり利益率が下がってるわけですよ。ボランティア価格っていうか。だから僕は一冊につき、利益が100円。

そんり:販売者だと一冊の利益が230円で、10冊売っても2,300円か。

小坂:そうそう。

そんり:それで自立していくのは、ちょっと厳しいですね。よっぽど頑張らないと。でも話を聞いててスゴイなって思ったのが、働くことを諦めなかったんだなって。最悪、炊き出しだってあるし。私だったら諦めちゃうかも。

小坂:だって炊き出しだったら、空腹を満たすだけで終わっちゃうじゃないですか(笑)例えば現金収入が欲しいと思ったら、『ビッグイシュー』の販売が一番手っ取り早いわけですよ。食べ物以外の何かにありつきたいと思ったら、自然なのかなって気もしますけどね。

そんり:なんかアルミ缶をいっぱい詰んで、自転車漕いでるおじちゃんとかもいますもんね。

小坂:ああ、あれは都会じゃないと成り立たないんですよ。ある程度大きな都市で、アルミを回収する業者がいないと、それも成り立たないから。

▼どうせ死ぬなら野垂れ死

そんり:で、その『ビッグイシュー』の販売でコツコツ貯めて、去年、住居を確保されて、バスの送迎とライターと委託販売で、なんとか生活が出来るようになったと。

小坂:そうですね。あとやっぱスポットの仕事が大きいですよね。去年大きかったのが、Twitterの相互フォローの方で、ご実家が富山にあるって方がいて。実家を処分したいんだけど、今、コロナのご時世で、都道府県外を自由に行き来できないからってことで、処分する名目の見聞をしたり、処分業者の選定をしたりっていうのを、委託で半年くらいやってましたね。それは纏めてギャラをいただいたので、結構去年は恵まれてましたよ。

そんり:本当に何でもやってるんですね!

小坂:やってますよ、やってます。自分がやれる範囲は。

そんり:もし自分がそういう立場になったら、そんなふうにイジけずに生きていかれるかなって、すごく思います。

小坂:いや僕もね、生きる気力はなかったですよね。明日の朝、目が覚めなきゃ良いなって思って生きてました。そういうのが毎日続いてましたもん、本当に365日(笑)

そんり:今は?

小坂:なんかね、生きてるなっていうのは無いんだけど、絶望はしなくなりましたかね。

そんり:そこまで立ちなおれるってスゴイですよね、ほんと。

小坂:いやあ…それはやっぱり、節目節目で助けられてますよね。

そんり:まあでも、しょうもない人は誰も助けないから。

小坂:それ普通ですよ(笑)

そんり:諦めないって表現が妥当なのか、ちょっと分からないですけど、きっとそうだったんだろうなと思って。

小坂:あの僕ね、自殺・自死っていうのに関しては否定的なんですよ。だから、どうせ死ぬなら野垂れ死にだろうっていう感じで。ただ、死ねないならもうちょっと満たされたいよなって、思いますよね。だから、欲深さの違いなのかもしれないですね。

そんり:ああ、欲って大事ですよね。

小坂:そうですよね、一種の活力ですよね。

▼どうかしてる人を調査研究するどうかしてる人達

そんり:noteを拝見させて頂いたんですけど、『ドリサカ研究所』っていうのをされてるんですか?

小坂:そうそう、いずれご協力いただくと思うんですけど(笑)

そんり:それはどういった活動なんですか?

小坂:えっと先ずね、僕ともう一人、共同研究所長がいるんですけれど。その相方が、いきなり会社か研究所やらないか言ってきたんですね。それ面白そうじゃんってことになって、会社はちょっとなんか違うなと思って研究所にしたんですよ。

そんり:「ドリサカ」ってどういう意味なんですか。

小坂:共同所長が「ミドリ」って言って、僕が「コサカ」なので、「ドリサカ」。

そんり:ああ。

小坂:で、研究所って何を研究すんの?って尋ねたら、いや別に名乗りたかっただけ、って(笑)でもせっかくだから、何か実績残そうぜってなって。でも研究所って名乗ったんだから白衣が必要だろって、とりあえず「白衣の入手方法」を研究するぞってなったんですけど、Twitterでアッサリと解決してしまって。で、それから「名刺の作り方」とか「パスポートの取り方」とかやったんですけど、どれもすぐ解決しちゃって。

そんり:そりゃ、そうだ(笑)

小坂:もうこれ、研究テーマがねえなってことだったんだけど、丁度その頃に、金沢で文学フリーマーケットの募集があったんですね。その頃には僕は個人誌を何冊か作ってたから、それで出店しようと思ったんですよ。で、申請を出す時に、団体名と活動を書く欄があって。でも個人で出店するのは気がひけるし、ちょうど『ドリサカ研究所』を立ち上げたばっかりだったので、とりあえず団体名はそれを書いたんですよ。でも、活動内容って聞かれても…何の指針もない「研究所」って言いたいだけだから、ってなっちゃって。

そんり:(笑)

小坂:そこで苦し紛れに、僕たち自身がどうかしてるから、僕たち以上に「世の中の“どうかしている”物・人を調査研究する活動団体」にしようってことになって。そしたらそれがなんか、共同所長も腑に落ちたみたいで。

そんり:その活動内容を聞いてるだけで、面白そう。

小坂:あ、そうですか?

そんり:うん。

小坂:で、その名目で文学フリマに参加して、それから以降は、「世の中の“どうかしている”物・人を調査研究する活動団体」ですって、堂々と言えるようになったと。

そんり:もう何名かは調査されたんですか?

小坂:えっとね、とりあえずその時は、僕と共同所長が“どうかしてる”って無理矢理こじつけて、案件としてやったんですけど。

そんり:なるほど(笑)じゃあ『ドリサカ研究所』の方は、今後も気ままに活動されていく感じなんですね。

小坂:ええ、そうですね。

▼アウトロ

そんり:残り10分ほどになりましたけど。小坂さんの人生って、とにかく波乱万丈だなって思って話を伺っていたんですが。もし、ホームレスを経験せず、以前のように会社員として働いていたら、今と同じような活動ってされたと思います?

小坂:してないですね、断言できます。もっと面白くない人生を生きてたでしょうね、結果論になっちゃうんだけど。会社員を続けていた時点で、おそらくどこかで精神崩壊してたと思う。ホームレスっていう最悪の状況ではあったんだけど、社会人としての縛りからは解放されたんですよね。生活の状況は最悪の最悪を下回ってる状況なんだけれど、開放感ってのは100%だったワケですよ。

そんり:ああ、なるほど。

小坂:何者にも縛られないとか…例えばなんだろう、社会人であることの面倒臭ささって色々あるじゃないですか。そういう縛りから全て開放されて、そこでチャラに出来たっていうか。今までの…うーん…真っ当な社会人としての生き方ってのは、もう実現できないし求める必要もなくなったんだっていうふうになったわけですね。一軒家を持って、幸せな家庭を持って、とかっていうステレオタイプからは解放されたんですよ。生きていくことの厳しさは味わうことになるんだけれど、社会的な規範に縛られない生き方を模索することが出来た。そういう意味では、味わい深い道を辿ってきたなと思いますね。あくまでも、結果論なんだけど。

そんり:味わい深さで言ったら、相当ですよね。わざわざ自分でその道を選択する人って、殆どいないだろうし。

小坂:いたとしたら、それはスナフキン的な哲学者ですよね(笑)

そんり:ただ限りなく自由って、限りない怖さも付き纏うだろうなって。

小坂:うん、そういう感覚がきっとマトモなんですよ。

そんり:そういう感覚がなくなったってことですか。

小坂:逆にそういう感覚が強すぎたんでしょうね、今まで。真っ当な生き方をしなきゃいけないっていう。他の人よりも強く持ってたんだと思う。

そんり:ああ、だからそういう感覚から解放される大きなキッカケになったってことか。

小坂:うん。そうじゃない生き方もあるんだってことを、身を以て知ったっていうことは、僕にとってはプラスだったかなって気もします。良くはないけど、悪くもないなっていう。

そんり:ああ、なるほど。すごく良かったよって言われたら嘘っぽいなとも思うし。良くも悪くもないって言われて、本当に悪くないんだなって思いました。うん。

小坂:うん、それは本当に実感してますね。こういう生活に落ちてないと、極端な話、こうやってインタビューを受けることもないわけなんですよ。今、こうやって生きていて、面白いって感じられてる要素っていうのは、ホームレスになってからの出会いが、殆どなんでね。

そんり:小坂さんはそういうので怒ったりする人じゃないから、こうやってインタビューもさせていただいてるけど、人によっては「他人の不幸を面白がりやがって」ってとらえる人もいるじゃないですか。そんな興味本位で聞いてくるなよみたいな。もちろん、そういうお叱りがあっても、それは当然だと思うんですけど。

小坂:ああ、そういうのはこっち側も嗅ぎ分けるんで。面白がってるだけの人とか、純粋に興味を持ってくる人っていう違いは、何となく分かりますもん。だからそういう意味では、そんりさんは信用出来る人だなって思いますよ。

そんり:ああ…良かった、今日はとても楽しかったです。改めてありがとうございました。

小坂:こちらこそ、ありがとうございました。

〜終〜

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