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石川忠久編『漢詩鑑賞事典』


『雨のことば辞典』、『江戸語の辞典』、『禅語の茶掛を読む辞典』etc。講談社学術文庫は豊富でユニークな辞典のラインアップを誇りますが、その中でもひときわ存在感を発揮しているのが、今回取り上げる『漢詩鑑賞事典』です。

索引も含めて892ページの分厚い一冊。詩経、漢の高祖である劉邦から、20世紀の魯迅に至る幅広い時代から選ばれた詩篇は250編で、このヴォリュームにしては少ないと思う方もいるかもしれませんが、本書の特徴は「事典」にふさわしい手厚い解説にあります。詩人の生涯を簡潔に記した作者小伝」、訓点を施した本文、現代語訳、語釈、そして深く詩を理解するための解説である「鑑賞」と日本古典との関連や、収録した詩に関連する他の作品も紹介している「補説」があるという充実ぶり。これによりあまり漢詩になじんでこなかった読者も作品の勘所が掴めるようになっています。

これだけでも読み応えたっぷりですが、さらに付録として主な詩書の解題、中国文学史年表、さらに洛陽と長安の地図、中国全土の地図もついています。それだけにとどまらず、漢詩の発達の歴史や形式と押韻などのルールを解説した「漢詩入門」、大津皇子から新井白石、良寛、夏目漱石や永井荷風といった日本の文人が残した漢詩24編も収録、解説されており、中国文学がいかに日本の文化に大きな影響を与えているかも学べるようになっているのですからたまりません。何度も繰り返し繙き、味読するのに相応しい一冊となっています。「漢詩は世界最高の詩歌である。人類の宝と言っても良い。」との編者の思いがどのページからも伝わってくるのです。

編者の石川忠久は長年に亘り漢詩の魅力、奥深さを説き続けてきた学者てしたが、残念ながらこの7月12日にお亡くなりになりました。故人の冥福をお祈りするとともに、本書を含め、彼が残した数々の著作が読み継がれることを願ってやみません。

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