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合格通知が来た

2022.9.28(Wed)
制作のために借りていたアパートを解約する連絡を不動産にした。本当のダメもとで出したインド政府の奨学金が通過したのだ。「今年は応募する練習くらいにしておこう」と考えていたから、まさか合格するとは思っていなかった。合格通知が来たからには入学しなければならない。来年受かるとは限らないからだ。映画学校の3年コース、書類不備で落とされると思っていたのに。
 アパートは横浜にある。三輪舎と本を作っている最中、街が気に入って引っ越してアパートを借りることにした。横浜に住むことは制作していた作品にとってプラスに働くと思ったし、知り合いがたくさんいて精神的に落ち着くというのも決め手だった。少なくとも一年以上は住むかなと思ったので、思い切って良質な作業机を買ってしまった。「これからは良い家具を少しずつ揃えていこう」と思ったのも束の間だった。木版と脚を取り外せるタイプの机を購入したのはこういう日を予想していたからであるが、横1m以上あるでかい板をどうするべきだろう。まさかこんなにすぐに合格するとは思ってなかったのだ。溜め込んだ本をどのように選別すべきか、「舞台挨拶に服が必要だから」と買い込んだ服たちをどこまで処分するのか。途方に暮れている。
 3月から5月にかけて、超短期集中で短編映画『三溪の影』の制作と映画にあわせたパンフレットZINEを制作している最中、妙蓮寺のアパートは三溪園という横浜・本牧にある日本庭園に通うにあたっての制作拠点として大いに機能した。しかしプロジェクトが完了した途端、今度はパートナーの家に入り浸るようになってしまった。これは予想していなかった。横浜と東京の距離とはいえ、移動には1時間程度を要する。週に数日というペースが、気がつけば週にほとんど入り浸るようになり、挙げ句の果てには一ヶ月に1〜2回しか自分のアパートに戻らなくなってしまった。その時に抱えていた仕事の多くが文筆業か講師業だったから、パソコンがあれば仕事ができるからという理由で、ノマドワーカーになってしまった。
 奨学金は学費やインド基準の生活費が支給されるものだ。大手を振って渡航を決意できるものの、海外保険や一時帰国の費用、そしてこれからかかってくるであろう製作費のことを考えるとかなり頭が痛い。かといって、渡航までにガンガンアルバイトをして少しでも貯蓄を増やそうという気分にもなれない。残りのゲラのやりとり、荷物の片付けや留学までの諸手続きや通院、残すところ最短で一ヶ月半、伸びて二ヶ月程度か。可変式である理由を説明すると、This is Indiaとしか言いようがない。そしてほんとうに入学するまで入学できるかも神のみぞ知る。合格通知が来たといって、それはスタートに過ぎず、すでにインドは始まっているのだ。
 とにかく毎日やれることをこなしていくしかない。宙ぶらりんの日々は精神的に負荷がかかるみたいで、時折情緒が不安定になる。不安を振り払おうとして思い切って横浜と東京を電動自転車で横断した。30キロ、案外いけた。夜の丸太橋は何度でも見たいと思えたのは大発見だ。
 
 電動自転車を漕ぎ回すことだけでなく、日記を書くのもこの空白期間をやり過ごすための手段である。ゲラと向かい合う日以外はちまちまと日記を書いていこうとおもう。


筆者は現在インドの映画学校で留学中のため、記事の購読者が増えれば増えるほど、インドで美味しいコーヒーが飲める仕組みになっております。ドタバタな私の日常が皆様の生活のスパイスになりますように!