友だち幻想 ―人と人の〈つながり〉を考える 【somo somo! ブックス】

著者: 菅野 仁  出版社: 筑摩書房

 「なんか寂しいな〜」
本書を読了して感じた率直な感想である。
決して本書を批判してるつもりはないし、むしろ本書はあらゆる視点で人間関係のあり方を提示してくれる良書だ。
 「友達を作ろうとすることなんてしょせん幻想にすぎない、無駄なことだ」といった寒々しい主張をするようなものではない。「友だちなど身近な人々との親しさや「生」を深く味わうために距離感が大事である」、「どんなに心を許せる人間でも、やはり自分とは違う価値観や感じ方をもっている信頼できる他者なのである。だから並存性が大事である」と論じている。正しい論理であると思うし、人間関係作りにおいて多くの選択肢が与えられている現代において非常に大事な考え方である。 
 また、「人間は、つながりを求めるものなのです。しかし、現代はそれを求めることによってかえって傷ついたり、人を追い詰めたりするような状況に陥ることがあります。」と論じている。著者は大学の教授であるがゆえ、人間関係で傷つく学生を多数見てきたからこそ、警鐘を鳴らしているのかもしれない。
 しかし、なんか寂しいと感じてしまうのである。
学生時代に人間関係で傷つくことは大事なことではないか。同じ価値観を持った人間がいると思うことは大事なことではないか、そう思ってしまう。同じ価値観を持っていると思う人と距離感を忘れるくらい共感し合い、しかし違う価値観を持っていると気づいたとき、お互い距離感の取り方がわからなくなり傷つき合う。それを経て、信頼できる他者となるのではないか。その苦味が、人間関係というものを真剣に考える機会となるのではないか。と思う。
 私は少ないながら、これからの人生も友達であるだろうなという人たちが何人かいる。その人たちとは、傷つけ傷つき合うこともあった。だからこそ、ここまで人間関係を築けたと信じている。一方、本書を学生時代に読了していたら、もっとより良く人間関係を築くことができたかもしれないとも思う。ひとつ言えることは、学生のみなさんは一度本書を読み、「友だち」のあり方を考えてみてほしいと思う。必ず助けになる良書であると私は信じている。

written by 左利きは僕のあこがれ

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