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目くばせして、おしりをポンと。

2009年春に就職してから、11年半働いてきた。

就活の面接時に「好きなビートルズのアルバムは?」と聞かれ、「ラバーソウルです」と答えたり、「日本が鎖国になるとして、唯一仕入れるとしたら何がいい?」という質問に「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンドです。」とか、随分ビートルズかぶれだったのを覚えている。たまたま面接官が音楽が好きでよかったが、そうじゃなかったらどうなっていたんだろう。

入社当時、同期は70人くらいいた。1ヶ月の研修を共にし、それぞれの部署に配属後も定期的に研修があったり、当時は飲み会も多かった。でも、11年半も経つと状況は変わる。転職する人も多く、いまでは会社に残っているのは半分以下になってしまった。仲の良い同期と20代半ばまでは土日にも会うこともあったが、30代に入りそういう機会はめっきりなくなった。

朝、僕は随分気持ちが落ち込んで疲れていた。出社するのも億劫な中、9時始業のギリギリに会社に着く。エレベーターにはたくさんの人の列で、イヤホンも外さないまま乗り込む。ぎゅうぎゅう詰めのなかで、対角線上に同期のHを見つけた。彼も僕の方を見た。目くばせをする。元気?うーん、ちょっと疲れてる。

ボタンパネルの前にいた僕は、開・閉を押す役割になる。各階にエレベーターが停まるたび、少しずつ人が減っていく。僕は11階、彼は7階。そして、7階に着くと、Hはエレベーターを降りる瞬間、誰にもわからないようにさり気なく僕のおしりをポンと軽くたたき、そのまますっと降りていった。

わ!と思った。心が動く感じがした。

なんてことはないコミュニケーションだが、エレベーターに乗る前の億劫な気持ちはすっかり消えていた。同期だからといって、めちゃくちゃに仲が良いわけではない。飲みに行くわけでもランチをするわけでもない。だが、たまたま顔を合わせたとき、目くばせしておしりをポンと叩いてくれる人がいるのはとても幸せなことだと思った。

この出来事はもう1年以上前のことなのだが、折に触れてよく思い出す。「目くばせしておしりをポン」とできるような関係性が、すごくちょうど良い、理想の距離感だと思うし、そういうことができる人になりたい、と思っているからだ。近すぎもなく、遠すぎもない。でも、気にしてるよ、という姿勢を見せること。

この「気にしてるよ」という感じがあるだけで、キツイ状況も乗り越えられる気がする。逆に、誰にも見てもらえてないと、どんどん心がすさんでゆく。

僕はいま誰かにとって、目くばせできているか。おしりをポンと叩けるような人になれているか。自分のことばかり考えず、そんな心くばりができるようになりたい。

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