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引き込まれていく快感『暁の死線』ウィリアム・アイリッシュ

 西荻窪の古書店で40年以上前に50円で買った創元推理文庫。それが出会いだった。読み始めると止まらなくて、一気に読んでしまった思い出がある。

 導入からの誘い込むような書きぶりには、本当に凄いものがある。なんでもない出会いが、運命の出会いになっていく展開は忘れられないものがある。アイリッシュは、この作品が最初の1冊となった。この後、『幻の女』『夜は千の目をもつ』『暗闇へのワルツ』などなど、ウールリッチ名義のものも含めて、まさに読み漁ってしまった。

 一体どういう頭脳がこういう物語を編み出していくのかと思ってしまう描写。人物の心と同化してしまうほどに思える表現。恋人になったり、刑事になったり、犯人と嫌疑をかけられた人物の焦燥感。彼の作品が、孤独な生活(母親と2人のホテル住まい)だったとは、と知った時には、なんとなく彼の気持ちを感じた気がした。

 こういう作品は、本格派の推理小説とも違うかもしれない。ただ、読者を引き込んで、別の世界に連れていってしまう技には、この作家を読み続けたくなってしまう。

 また、別の彼の作品で伝えてみたい。

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