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斜め45度の奇跡

遡る事約15年前。

私は高校1年生で、部活は帰宅部。
(これ部活?)

中学生の頃野球部をやり遂げたものの、
上下関係の厳しさを感じ
帰宅部を選択した。

中学生の頃は彼女もいたし
大変ながらも濃い生活を送っただけに、

”逆デビュー”に近い。 

中学生から同じ野球部だった友人は野球部に入り
充実している顔をしていた。

友人は数人いたが、休み時間私は机に突っ伏し
女の子の友人も1人もいなかった。
携帯も持っておらず、あの頃家にあったのは
デジモン位である。
(いつも大体エンジェルモンになる)

頭も普通か、より下ほどであった。
周りからすれば冴えない男子である。

これは
そんな冴えない男子が
1日してヒーローになった日の話である。

その時の学びについて再度解釈したい。


見出した希望



明るい高校生活を描けないまま
高校一年生を淡々と日々を過ごしていた。

そんな日々のある体育の授業で
「2週間後に、シャトルラン大会を開催する!
4組のクラスで一気に開催することとする!
ランキングも掲載するのでみんな頑張るように!」

と、学生にとっての一大イベントが発表された。

シャトルランとは、20mの間隔で引かれた2本の線をまたぎながら往復を繰り返し、何回線を踏めるかを競う。スタートの合図で、ドレミファソラシドの音源が流れ、高いドがなるまでにスタート地点と反対側の線を踏まなければならない。
過酷な競技である。皆も経験があるのではと思う。

1学年8組あったので、
このイベントは2回開催される事となる。
女子と男子は別で行い、
男子の時は女子がシャトルランの周りを囲む形となる。
よって、ここでの優勝者は脚光を浴びる。
黄色い声に囲まれ、モテるのだ。


そこで私は閃いた。

「ダークホースとして勝利を掴み、革命を起こす。」

無名の陰キャが静かに立ち上がる。

いや本当はモテたいだけという下心はそっとしまいトレーニングに打ち込む日々が始まった。

と言っても身体を動かすのは大好きで
週末は1人で山走り(登りではなく走り込み)
をしていた。
後々は地域のブラジリアン柔術教室に通い
カイワレのような身体は細マッチョになるが
この時はカイワレのままである。

体力に自信のあるカイワレ。
いつだって大穴の馬は無名だ。

毎日走り込みに専念した。

そして開催当日を迎えた。

お昼は母の作ってくれた爆弾おにぎりを
完食しエネルギーに満ち溢れていた。

決意と静かなる情熱に包み込まれた私は
体育館へと向かった。

5限目の一大イベントが開幕。

革命を起こすのだ。
そう確信して。

革命


体育の先生は厳しい人で
「本気でやれ!!!」と生徒を鼓舞した。

女子のシャトルランが始まり、
大盛り上がりとなっていた。

この辺りは記憶がなく、体の感覚に集中をしていた。試合前のアスリートの気持ちになった気分だった。

いよいよ男子陣の開始となる。

この試合の優勝候補はマッキーである(仮名)。
マッキーは野球部で圧倒的な身体能力を持つ化物である。皆のオッズは間違いなく彼一択である。
また準優勝候補はマエケン(仮名)である。
彼も野球部で安定感のある身体をしていた。
他陸上部、バスケ部に強者がちらほらいた。
参加者全員で合計80人ほどはいたと思う。

スタートラインに準備をすると
聞こえてくるのは
「マッキー!!」「マッキーいけるー!」
「マエケンもいけいけー!」

と2人への熱い声援が体育館内に響き渡る。
真っ黄色な声だ。
その中で私の名前を呼ぶ人は1人も居なかった。
勿論何者でもなかったので、名前すら知られていない。

そして、、、
皆がライン上に揃いスタートの合図が
はなたれたのだった。

開始1分。

やる気のない人は離脱を始める。

私は配分を考慮し、流し気味に走る。
マッキー、マエケンもウォーミングアップ程度の表情であった。

徐々に早まるドレミファソラシド。

また1人。
また1人。
離脱していく。

「行け〜!マッキー!」
「余裕だな〜マエケンー!」

気づけば
帰宅部であろう人は居なくなっていた。

もう目の前のラインとドレミファソラシドしか
脳内にはない。
ただただ脚をラインへ。
もう既にフロー状態に入りそうな域にきていた。


そして周りの歓声の中に
かすかなざわつきが出てきていることに
気づいた。

走りながら耳を立てる。


「え、、誰、、、」
「あの人、、、え?」

こんな声が微かに聞こえる。
そして周りを見渡すと。


マッキー

マエケン

三つ巴戦になっていたのだ。


一騎討ち





帰り道に「努力は実る」という
予備校の広告看板をみては、
共感を勝手にしていた自分。
やっぱりそうかもしれないと胸が躍り始めた。

脚が軽い。

行ける。行けるぞ。

「そめだ!!そめも行け〜!!」

私と同じクラスの人は流石に名前を知っていたので、声をあげてくれた。

そこから大きな歓声が沸く。
JRAの大穴の馬が底から走り抜いてきた時の
爽快感はこういう感覚なのだろうか。
いや、知らんけど。

しかも私馬側やし。

俄然やるき、元気、森脇健児となった私は
全精力をドレミファソラシドへ乗せ
前へ走っては踵を返し、走り抜いた。

さらに早くなるスピード。
3人ともに苦しい表情になり、
体の芯から熱くなっているのが分かった。

そして、、

ドタっっ!!

限界がきて倒れた。




マエケンが倒れたのだ。

そう。

マッキーとの一騎打ちとなったのだ!

もうこの時の会場(体育館)はサマソニで海外アーティストが来たかの如くの唸りであった!

「マッキー!!!!そめー!!!やったれー!!」

マッキーも流石に苦しそうな表情をみせるが、
流石の野球部。一歩も引かない。

私もフローの限界を超え
界王拳3倍どころではないエネルギーを解放していた。

そして、、、、

バタっっっ!!!


遂に私は力尽きた、、、。

そしてその3往復後、、

バタっっ!!!


マッキーがストップとなった。


私の一大イベントが閉幕した、、、。

野球部と帰宅部の枠を超えて
限界まで闘い抜いた2人は
まるで1998年バリー・ボンズと
マーク・マグワイヤの本塁打対決の様に、
お互いがいたからこそ辿り着いた境地にいる
感覚になった。

終わった瞬間、体育館は熱狂と化し
マッキーに詰め寄ると同時に

私に
「感動した!凄いよ!!!!」と多くの言葉を掛けて寄ってきてくれたのだ。

優勝は出来なかったが
本当に嬉しく、有難うと言おうと思った
次の瞬間だったー。



私は消化しきれなかった母親の爆弾おにぎりを
ほぼ全員の前で戻してしまったのだ。




いや、そんなことある?
今も思う。

全員ドン引きである。

食事中の方すいません。

おもいっきりではなく、塞いだ口から
出てしまった程度であるが。

しかし、
地獄のシャトルラン→天国→地獄
である。

まさかこうなるとは。
山口県産わかめ×大人のふりかけ紅鮭の
コラボ爆弾おにぎり
なんて食べるんじゃなかった。


その後はあまり記憶がない。

こうして私の斜め45度の革命が
終わった。

ある意味伝説となったかもしれないが、
結局モテることは無かった。

そんな青春の一ページであった。


今思えば


・認めてほしかった
 その思いが強かったのかもしれない。
 取り柄も、役割も無いと感じていた自分でも
 どこかで認めて欲しいという欲があったのだと 
 思う。しかしその劣等感こそが力にもなってい
 たんだと思う。アドラー心理学でも劣等感を原
 動力にと言われていた事を以前知った。

 これからも劣等感を感じたら、
 エネルギーへと変換していきたい。

・1人では辿り着けない
 このシャトルランを一人でやっても
 限界には行けなかったと思う。
 自分の限界は、より刺激のあるライバルが
 いてこそ爆発するかもしれない。
 成長という部分で応援してくれる仲間やライバ
 ルの存在は大きい。

・爆弾おにぎりは30分程度では消化しない
 お昼後の運動に爆弾おにぎりは不適である。


以上

今思えば、悲劇もネタである。

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