Ryanguru式AIMに関する考察~なぜ「当てずに撃つ」ことが重要なのか~
つい最近、량글(Ryanguru)コーチによるエイム講義の動画*1が日本のFPS界隈で話題となりました。これは元の講義動画が日本語に翻訳されたことに加え、人気配信者のKH(Killin9Hit)さんが動画*2や配信*3で取り上げたことが話題となった主な要因でしょう。
FPSプレイヤーなら誰しもエイムが良くなりたいと考えているでしょうから、このようにプロのエイムコーチから正しいエイムのやり方を教えてもらえることは、まさに皆が待ち望んだ状況のはずです。しかしその一方で、感覚的な説明が多いからか、動画や配信を見ても理解できない、あるいは自ら実践するまでに至らない人も多いのではないでしょうか。
そこで本記事ではRyanguru式AIMに関する私なりの解釈を整理し、その原理を考察してみます。
2023年3月19日:【「センサーを基準に動かす」ことと、視線とエイムの一体化の関係性】の項目を追記
はじめに
この記事を読んでいる殆どの方は既に知っていると思いますが、改めてRyanguruコーチの紹介とそのエイム理論の概要を説明します。まずRyanguruコーチは様々なFPSのプロ選手、ランカー、プロ志望者、一般人までを含めて合計1500人以上をコーチングし、さらにその中から数百人のランカーを送り出した実績を持つエイムコーチです。このRyanguruコーチのエイム理論では、まずマウスの正しい動かし方としてマウスセンサーを基準に動かすことを推奨しています。これは正しい動きができないことがボトルネックとなり、上達が妨げられる例があるからだそうです。
「センサーを基準に動かす」とは何か?
「センサーを基準に動かす」と言われても上手く理解できないかもしれませんが、これはマウスパッド上でセンサーを移動させるつもりで手を動かすということです。動画ではマウスにペンが刺さっていると思って動かすとか、手でマウスパッドをなぞるようにマウスを操るなどと表現されています。
「センサーを基準に動かす」ことの重要性
このような動きが大切な理由は二つ考えられます。一つは可動域が制限されないことです。Valorantのようにエイムの可動域が小さいゲームならともかく、ApexやOWのような上下左右を縦横無尽に飛びまわるゲームにおいて、十分な可動域があることは必要不可欠な条件です。
そしてもう一つの理由は、必要以上の筋肉の力みを防ぐことができるからです。力みは疲労や痛みにつながるだけではなく、マウスコントロールの感覚を変化させてしまうため、実力通りのエイムが発揮できなくなります。動画内では連続キルするときのエイムを例に、筋肉が硬直しないことの重要性が述べられています。
実践するために必要なこと
さて、ではどうすればこの正しいマウスの動かし方を身に付けられるのでしょうか?最も単純な方法は、マウスパッド上で手を動かす場合と自分のマウスの動かし方を比較し、その違いを少なくするように修正していくことです。この場合、親指と薬指または親指と小指の間に棒を挟み、マウスパッドをなぞる練習も有効でしょう。また、他の方法としてはリバース持ち(マウスの後ろに手首を完全にのせる持ち方*4)や、マウス感度を下げることが挙げられます。さらに姿勢や腕の置き方を見直すことも重要です(正しい姿勢はこちらを参考にするのが良いでしょう)。
逆にやってはいけない例は、マウスを押さえつけて照準速度をコントロールしたり、手首や腕を完全に固定し軸としてしまうことです。ゆっくりと動く敵に追いエイムするとき、ついマウスを押さえつけ、摩擦力を変化させることで追おうとする人もいるかもしれません。しかしこの方法では必要以上に筋肉が硬直してしまい、精密な制御ができなくなってしまうため、修正するほうが望ましいでしょう。
また、KovaaK'sやAimLab等において、botの移動範囲が狭いシナリオをする際、手首をマウスパッドに押さえつけて完全に固定する人がいます。しかしこのようなやり方は、あくまでスコアを高くするためだけに有用な方法であって、実践では役に立たない可能性が高いです。その場合はエイム練習ソフトから離れるか、マウスの動かし方を見直してみることをお勧めします。ただし一点に力を込めて固定するのではなく、机やマウスパッドに軽く触れているだけなら問題ありません。結局のところ、自然な状態でマウスを動かすことが重要なため、自分のやりやすい方法や環境を模索していく必要があるでしょう。
なぜ「当てずに撃つ」と上手くいくのか
ここからはエイム講義の動画ではあまり語られていなかった、視線とエイムの一体化について考察していきます。
これは元プレデター58位がRyanguruコーチのエイムコーチングを受けたときのレビュー動画です。この中でRyanguruコーチは「当てずに撃ってみよう」とコーチングしたことが明かされています(11:43~)。また、KHさんもRyanguruコーチのエイムコーチングを説明した動画*5内で、クロスヘアを30%で意識し、残りの70%で自分の腕を意識すると良いと述べています。しかし直観的に考えた場合、敵に当てないように撃ったり、クロスヘアを30%しか意識しないほうがエイムが良くなるというのは、全く馬鹿げた話です。おそらく同じように思っている人が多いのではないでしょうか。
n0tedのエイム理論
さて、話が変わりますがn0tedというエイム力の高い配信者*6がいます。そんな彼がエイムについて語った動画を、さらにゴッドエイムあきら*7さんという方がブログで解説した記事*8があります。この記事の中で、Hand-Eye Coordination(目と手の協調関係)、すなわち視線とエイムの関係について書かれた部分があります。
この記事では周辺視野で見ることが、視線とエイムの一体化に重要な役割を果たすことが示唆されています。
クレー射撃におけるエイム方法
さて、周辺視野で見るのが重要であることを示すもう一つの例として、クレー射撃が挙げられます。この記事*9はNHKの「アインシュタインの眼」という番組でクレー射撃が取り上げられた回のことを綴ったブログ記事です。
もし仮に中山選手がクレーを追って撃っているとしたら、それなりに高度な動体視力が必要とされるはずですが、どうやらそうではないようです。では、どうやって撃っているのでしょうか。
この記事にあるように、クレー射撃の上級者はクレーを周辺視野にとらえた瞬間に撃ち始めており、クレーに焦点を当てた瞬間にはもう既にクレーが撃墜されているのだそうです。勘のいい方なら、これを読んだときにピンときた動画があるかもしれません。この動画です。
この動画では、Ryanguruコーチのコーチングを受けると「敵を見つけたら勝手にエイムが行って既にクリックしている。視線で敵を殺す。」ことができるようになると語っています(1:20~)。これはまさにクレー射撃と同じような感覚を、FPSに適応した結果と言えるでしょう。
なぜこのような感覚になるのか
結論から言うと、人間は中心視野よりも周辺視野の方が反応速度が早い*10*11からです。周辺視野は見たものの詳細を捉えることは苦手ですが、知覚速度が早いため、敵の位置を素早く認識することができます。その結果、敵に焦点を合わせるよりも早くエイムすることが出来るのです。また、このとき敵に焦点を合わせる行動と、マウスを動かして敵にエイムする行動は完全に同時に行われるため、あたかも視線とエイムが一体化したかのような感覚が得られるのだと考えられます。
身に付けるために意識すべきこと
改めて強調しますが、重要なのは周辺視野を活用することです。したがって、敵やクロスヘアに注目するのではなく、画面全体を漠然と見る意識が必要です。そして漠然とした視界の中心が、常に画面の中心となるようにしましょう。この状態が常に保たれている場合、敵を視認するためには当然マウスで画面ごと動かす必要がありますから、視線とエイムは一体化するはずです。ただし、一見矛盾しているかのように読めるかもしれませんが、上で述べたことは、常にまったく焦点を合わせてはいけないという意味ではありません。敵をはっきりと視認しようとして、視線とマウスの一体化が解け、画面中心以外の場所で焦点が合ってしまうことが問題なのです。したがって、敵が画面中心にいることによって、結果的に自然と焦点が合ってしまった場合は問題ありません。
実際の練習方法としては、リフレックスエイムが効果を実感しやすいでしょう。これは単純に、反射神経が重要となるタスクであるため、スコアに反映されやすいと考えられるためです。また、世の中には周辺視野を鍛えるトレーニングが既に考案されていますから、それらを活用することも練習の一つになるのではないでしょうか。
2023年3月19日追記:
「センサーを基準に動かす」ことと、視線とエイムの一体化の関係性
上にも挙げたこの動画*12では、「センサーを基準に動かす」ことが、視線とエイムの一体化に必要であることが示唆されています(2:19~)。そこで、Ryanguru式のマウス操作が視線とエイムの一体化にどのように影響を及ぼすのか、考察してみたいと思います。
上の表1は、通常のマウス操作とRyanguru式のマウス操作における、意識上の動作の違いを可視化したものです。敵が右上に現れたとき、表1が示すように、視線は直線的に敵へと向かいますが、一方で腕は弧を描くように動きます。一方Ryanguru式のマウス操作を行う場合、意識上では、マウスセンサーも視線と同じように直線的に移動します。
また、視線とエイムの一体化とはすなわち、眼球運動による視線の移動の代わりに、手の移動によって視界を移動させることに他なりません。したがって、手を視線の代わりに動かそうとする場合、視線と手の意識上における動きが似ている方が容易に達成できると考えられます。
2023年3月19日:表1があまりに酷かったため修正
おまけ
ここまで、視線とエイムの一体化に周辺視野が深く関係していること、およびRyanguru式のマウス操作によって、視線とエイムの一体化が容易になる可能性について述べました。一方で、これらの相互関係および因果関係が明らかになっていないことは、明示しておきます。例えば、Ryanguru式のマウス操作によって、視線とエイムの一体化を身に付けた結果、周辺視野で敵を捉えることが出来るようになった可能性はあります。しかし一方で、周辺視野の活用とRyanguru式マウス操作のどちらも、視線とエイムの一体化に必要な条件かもしれません。このように、これら3つの関係性を完全に解き明かすことは容易ではありません。
とはいえ実践論としては、視線とエイムの一体化ができる可能性を上げるためには、Ryanguru式マウス操作と周辺視野の活用をどちらも身に付けた方が良いと考えても問題ないでしょう。
まとめ
本記事ではRyanguruコーチによるエイム理論を整理し、かつその原理を考察しました。以下にそれをまとめてみます。
マウスパッドを手でなぞるときのように、自然な動きでマウスを動かすことが重要です。
これによって無駄な筋肉の力みを防ぎ、常に実力通りのエイムを発揮できます。
また、視線とエイムを一体化させるためには、周辺視野を活用することが必要です。
そのためには、画面全体を漠然と見ることを意識しましょう。
加えて、Ryanguru式のマウス操作を身に付けることで、視線とエイムの一体化が促進される可能性があります。
最後に、当たり前ではありますが、この主張はRyanguruコーチ本人に確認したものではなく、あくまでRyanguru式AIMを私が個人的に解釈したものだということは、念のため明示しておこうと思います。この記事が、少しでも読んでくれた方のエイム力向上に役立てば幸いです。
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