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持ってなかった大学受験。 裏にあったあのラーメン。


18歳の冬。福岡の大学受験を控えた前日の夜。

自分はラーメンを食べたかった。

福岡。実家の北九州から車で一時間ほどだが、実は市内に行ったことはそれほどない。近隣に祖父母が住んでいたが、親父が都会嫌いだったからなのが一番の理由である。「福岡は車の運転が荒くて悪いやつばっかりだ」みたいなことを言っていた。おいおい。住んでる北九州も893一杯いるしそんなに交通マナーよくないでしょ。というかそもそも自分が免許取りたての頃隣にのって指導してくれたが、交差点手前30mくらいのところでいきなり

「曲がれ」

って言ってくる。漫画「ARMS」に出てくる美少女キャラのキャロル・ギルバートの「曲がれ」のように、思った瞬間あらゆるものをねじ曲げる超能力を親父は持ってるつもりだったんだろう。だがな親父、お前はただの親父だ。曲がれねえ。免許取り立てに車線変更の上に左折とかやらせんなよと。

で、曲がれなかったら「なんだよー」って不機嫌になる。お前はひげを蓄えた幼稚園児か。しかもこの性質は祖父から受け継いでいる。祖父は10m手前で「曲がれ」というのだ。なんであなたたちは自分が最上級の念動力(サイコキネシス)を駆使できると勘違いするのか。しかも親父も曲がれずに「無理だよとーさん」っていってるの。頼むから学んでくれ!

・・・開始10mくらいで表題と違う話を延々と続ける自分もまあ、自分なんだが(笑)

さて本題に戻ると、自分は久々に福岡の市内に足を踏み入れた。高校生の行動範囲なんて知れている。九州から出たことが数えるほどしかない自分にとって福岡は最上の都会だ。とはいえ受験で気持ちはそれどころでもない。せめてラーメンが食いたかった。

自分が受験した時期はまだガラケー。インターネットなんてあってないようなもの。なぜかよくわからないいちごの出来損ないみたいなキャラがおみくじやってくれる機能がついていた。一日に何回もチャレンジして二連続大吉を決めてやったこともある。もはやおみくじの範疇を超える暴挙でしかない。

けっきょく頼りにならないのでラーメン屋をめぐり歩くことにする。ラーメンと書かれたのれんをくぐってラーメンを頼む。福岡のラーメンだ。本場だ、まずいラーメン屋などあろうはずがないーーーおごりだ。

今考えればクソまずいラーメン屋なんて腐るほどある。一風堂や一蘭は画一的なチェーン店ではあるが平均レベルは高い。もちろん福岡に穴場はある。だがたとえば有名な「長浜ラーメン」だって味がクソ薄くてはっきり言ってまずかった。「九州味100選」を売りにしていた北九州のラーメンも薄くてまずかった。あっという間に消滅した。そこの近くにはガチで美味しい伝説級の有名店「ラーメン工房 龍」がある。なぜだ、なぜそっちを選ばず100選というのに惹かれたのだ。後悔が今でもこみ上げる。

さて、また脱線したので本題に戻ろう。この夜に出会ったラーメンはそういった予想外にまずい、という範疇を超えたものだった。

黒いスープ。醤油ラーメンだった。

醤油ラーメン。福岡県民はラーメンといえば基本的に豚骨になる。過去に京都に本陣を置く有名ラーメン屋「天下一品」がやってきた。親父は京都の大学出身なのでひいきにしていたが、九州人の閉鎖的ATフィールドの前に一度敗退している。幸い、数年後に再進出したときはそれなりに受け入れられている。しかし、たとえば幸楽苑は見かけないし醤油ラーメンは少ないはずだ。緩まったとはいえ「豚骨王国強化防疫体制」は維持されている。

それが出たのだ。食った。うまいかまずいかわからない、いやそもそも醤油ラーメンなど宇宙人のようなものであり、もはやETと出会ったようなものでしかない。ETにいきなりであったとして、初対面のそいつをまともに評価できるだろうか?嗚呼。美味しい豚骨ラーメンにありつくはずが得体のしれない醤油ラーメンで満たされた腹。

結局翌日の受験は失敗した。数学の勉強をやっていなかったということを棚に上げてラーメンのせいにした。

醤油ラーメンのうまさを本気で味わったのは、福島に出向したときだ。朝からやってるラーメン屋で堪能した。うまかった。この世には豚骨以外に美味しいラーメンがある。日本酒もうまい。福島で味の幅が広がり、そして体の幅も広がった。

そんな今だからこそ、あの時のラーメンには謝りたい。ちゃんと味わわなかったこと、そして受験失敗の責任を押し付けたこと。今やってるかどうかすらわからないけど、あの時のラーメン、もう一度味わってみたい気がする。思えば間違いなく「自分の思い出の10杯」に入る気がするから。

でも食ってみたらただのダメラーメンで、結局クソまずかったかもしれない。世の中には知らないほうがいいこともある。だから機会があれば食べるべきか、正直迷っている。たぶんその葛藤は一生、自分の脳のわずかなメモリを無駄遣いしながら残っていくのだろう。

いじょ。




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