【ゼーガペイン二次創作】本を読んでいるうちに case-xx-04【リセット祭り】

――ふと気がつくと、電車はとある駅へ停車していた。
正面にはどこでも同じデザインの駅名の看板と、誰も座っていないベンチが見える。
対する電車の乗客もまた、俺一人。
「いけね、降りなきゃ。」
慌てて、今まで夢中になっていた本をたたみ、それを無造作に鞄に突っ込みながら席を立つ。
駅の雰囲気から現在地を読み取って半ば直感的に降りたのだが、どうやらその感覚は正しかったようだ。目の前にぶら下がってる看板の駅名を、今更になってしっかりと確認した俺は、それが自分のよく知る名称であった事に安堵する。
それを見計らったかのように、勢いよく空気が抜けたような作動音とともに電車のドアが閉まる。背後でモーターの音を響かせながら、電車は行ってしまった。

俺はしばらくその余韻に浸っていた、少し焦って立ち上がったのもあって、なにやらすぐ歩き出すのも面倒に思える。なんとなく目の前の、今どき珍しい木造のベンチへ腰掛ける。

電車が去ってしまった今、聞こえてくるのは自動改札の意味合いのよくわからない電子音や、やや遠くを走る車の音、それに駅前特有のちょっとした、喧騒とも言えないようなような微かな物音達。それらをぼんやりと聞きながら、俺は念の為、車内に忘れ物をしていないかどうか、軽く記憶を辿っていた。
普段ならそんな細かいことは気にしないのだが、今わざわざそんな事をしているのは、既に自分が、何かを忘れてきた事を予感しているからなのかもしれない。

なぜだかは解らない。けれど、どこかに何かを置き去りにしてきてしまったような、そんな気がするのだ。

「あれ、そういえば……」
「なんで俺は、電車に乗っていたんだっけ……?」

なにかの為に、この電車に乗っていたような気がするのに。
それだけじゃない。

――誰かと、この電車に乗っていたような気がするのに。
本を読む俺の隣に、誰かが居た気がするのに。

まるで先ほど、顔を上げた瞬間に夢から覚めたように消えてしまった、この本の中の物語のように。自分が確かに存在していた世界が、自分『と』共に確かに存在していた、世界そのものが。何処かへ消えてしまったような気がして。

ただのありふれた日常の一コマのはずの今が、俺には妙に寂しいひと時に思えた。

そんな俺の感情を他所に。程々に寂れた駅のホームにはちらちらと、多くの人間には『始まり』を予感させる、薄桃色の桜の花びらがゆっくりと舞いおりてきていた。

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