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クリエイティブのリハビリ【地方広告と賞③】

3人目の育児休暇明け直前、久々に会社に行ったコピーライター中村が会ったのは、ちょうど帰社したばかりの営業さんでした。受付のカウンターで言われたのは「オカダさん、復帰後の仕事決めてきたから」。

聞くとコンペの話が来たそう。それは以前私たちにお任せいただいた仕事だったので、彼は交渉しました。「オカダがもうすぐ育休から帰ってきます。それでもコンペにしますか?」そしたら随契になったと嬉しそう。「大きく出たからあとは頼むで!」と念を押して、彼は去っていきました。

驚きました。もう私に仕事を頼む人なんて誰もいないだろうと覚悟していましたから。

その仕事は、賞は獲れないし、会社で評価もされないけど…。でも読んだ人の人生を左右するし、クライアントさんから学ぶことも多かった。「賞は関係ないけど、意味ある仕事なんじゃないの」とジレンマを抱えながらやっていたパンフレット制作だったのです。

同じように、復帰後、「このチラシをオカダさんにしてほしい。どんな提案になるか見たい」と、指名で仕事をくださる住宅会社さんもいらっしゃいました。そのお仕事も、前任の営業さんと仕事をしていた時には、打ち合わせの行き帰りの中のクルマではいつもケンカ(笑)だったのです。

「この戦略でこの表現が絶対にいい」という私に「そんなことない。根拠を示せ」という営業さん。意見を戦わせながら、時には「私はこうする。結果を見てから文句言って」と決断してやったこともありました。
あのやりとり(というかケンカ)は無駄じゃなかった。評価してくださっていた人がいたんだなあ…と涙が出そうになりました。

「次もあなたに」と言ってもらえた仕事は、結果を出すための広告だったのです。

しかし嬉しさや自己満足に浸っている余裕はなく、クリエイティブで結果を出さないといけないのでした。クリエイティブのリハビリが必要でした。

そこで私は2つのことを恐る恐る始めてみました。

ひとつは、クリエイティブのキラーとなる案が、誰から出たかを気にしないこと。

チームとして「おっ!これで行こう!」と思う案が出たらいいのです。賞に恋恋としていたら「これは私の案!絶対にこの案!」と拘泥することになる…自分の作品じゃないと賞に出せませんから。

随契でいただいた上記パンフレットのお仕事で、さっそく効果を実感する機会がありました。
「パンフレットってたいてい、表紙とイントロページがあるやん。それって必要?イントロでポエムみたいなコピーを書くの、本当はいやなんよね~。スペースを無駄に使ってるよね・・・」という話をしていたとき。「だったらこんな方法は?」と表現サンプルを出してきたのはデザイナーさんでした。「これや!!」と即採用。作るのも楽しかったし、ポエム(笑)を書く苦しさや時代錯誤感もなかったし、結果、過去一番と言われたほどの成果を出しました。

もうひとつは、ランチには、毎回新しい場所に行くことです。

「は?こんなことが?」と思う方もいるかもしれませんが、これ、効きますよ~。

それまで私は近所の香川大学の学食に毎日行っていました。安いしボリュームもあるしおいしいし。クライアントさんなので知っている人にもよく会うし。何より、せっかくのお昼は確実においしいものを食べたいので、冒険するのはイヤだったんです。

それを、1日、1日、違うお店に入ってみることにしたのです。すると、1000円程度という同じ値段なのに、各店、内容が全然違うことがわかりました。どこもさまざまな工夫をしています。もちろん失敗もあります。でも大半が、おいしいお店を発見したり、工夫に感心したりと、満足のいく結果になっていたのです。

「新しいことをしても、案外あんまり失敗しない。むしろいろいろ学べていい」。それが、ランチで私が気づいたことでした。不思議なことに、ランチごとに新しいお店に行き始めたら、仕事でも未知の領域に躊躇しなくなったのです。

(つづきます。次でこの回終わりかな?)


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