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CMを作る話のはずが、新規事業を作ることに。地方広告業務範囲②

広告代理店に入社して数週間、初めて小さなコンペに勝った私は「ようやくこの会社で息ができる」と思ったことを覚えています。上記の写真は、最初の仕事を発注してくださったホテルの写真です。

「使える」ことが分かった私のもとには、社内から、不要不急の仕事がやってくるようになりました。それは、

「自主提案」です。

クライアントさんに頼まれてもいないのに、自分たちで自主的に広告企画を考え、クライアントさんに提案しに行く仕事を自主提案といいます。私のところにやってきたのは電力会社のお仕事を増やしたいという営業さんでした。私を雇ってくれた営業局長も一緒です。

私は張り切りました。ユーザーを集めてフォーカスグループインタビューをし、電化住宅のショールームでの販促策やCM案、テレビ局の営業さんも交えてどの番組で流すのがいいのか(ここで「カウキャッチャー」という言葉を初めて聞きました)、いろいろ考えていざ提案を持っていきます。

クライアントさんは面白がって話は聞いてくれるものの、どうも決め手に欠けているようす。再度提案の練り直しです。残業しながら企画を作っていると、会社の先輩に「自主提案の本質は不要な仕事。頑張ってやっても無駄になる」と諭されました。「そんな!やってみないと分からない」という反骨心と、「そうなのかもしれないな。代理店経験がない私が知らない真実があるのかも」という弱気が行ったり来たり。

何回か訪問と提案を重ねて、TVCMを放送する時間帯を、当時放送が始まって人気だった『大改造!劇的ビフォーアフター』で、という話をしていたときのことでした。

営業局長が急に、「ビフォーアフターを本当にやりませんか?」と言い出したのです。電化リフォームを、四国の建築家と一緒に。あんなおしゃれで面白いリフォームを、四国でも実際にやりましょうよ。

は?CMの話じゃないの? 

と思ったのは私と担当営業さんだけで、クライアントさんは身を乗り出してきました。「電化住宅に強い工務店のネットワークがあるから実現できるかもしれない」。あっという間に、TVCMを作る話から、新規事業を作る話になったのです。しかもみんな話にノリノリです。

ショックでした。CMのことばかり考えていた自分。なんで思いつかなかったんだろう…。いま振り返ると、電力事業をめぐるステークホルダーなどビジネス事情について知識はゼロだったので、瞬間にいろんなものがつながるように企画が思いつけるはずがないのです。そこはさすが営業局長です。

でも当時に、その知識ゼロでCMを提案しようとしていた自分に「そりゃ、アンタの自主提案は誰にも響かんかったはずやで…」と肩を叩いて教えてあげたい気持ちになります。当時の私は、企画や表現が優れていれば何とかなる、企画や表現で何とかするのが広告屋だと思っていました。それがフツーの考えでした。でも「フツーにしてるだけじゃダメなんだ」・・・。

いちばんの問題は、自分は今まで新規事業なんて立ち上げたことなんかないことでした。そんなのは他の誰かがすること。私はコピーライターです。最後にバトンを渡してもらう立場のはずでした。この仕事ってホントに私がするんですか?

周りを見ても目に入るのは営業職の2人だけ。他には誰もいません。

恐ろしいことに私が、やったこともない新規事業の立ち上げを、しかもクライアントさん企業の事業立ち上げを、やらなければならないのでした。

(つづけます)

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