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現代の女性は昔の9倍も生理がある?「妊娠していなくても、気軽に産婦人科へ」【産婦人科医・高橋怜奈】

はたらく女性が増え、いまや初産の平均年齢は30歳を超えています。女性を取り巻く環境が日に日に変わっているなか、まずは自分の体を知ることがとても大切です。

SOLUMEでは、「産婦人科YouTuber」として啓蒙活動に取り組む産婦人科専門医の高橋怜奈先生をお招きし、西武渋谷店にてトークイベントを開催。ブランドマネージャーのハヤカワ五味が聞き手を務め、高橋先生に産婦人科との付き合い方や、病気を防ぐために気をつけたいことなど、生理や妊娠にまつわる知識を伺いました。

【高橋 怜奈】
産婦人科専門医、医学博士、YouTuber、元プロボクサー。
渋谷文化村通りレディスクリニック院長、東邦大学医療センター大橋病院では月経困難症専門外来を担当。TwitterやTikTokの他、産婦人科医YouTuber高橋怜奈として医療情報の発信を行っている。産婦人科の受診の目安がわかる『月経ガイドブック』を付録にした月経カップ、やわらかっぷのプロデュースをしている。
YouTube:産婦人科医YouTuber高橋怜奈 Twitter:@renatkhsh


産婦人科医が妊娠出産を経験してみて

ハヤカワ:まず、高橋先生が今年双子を出産されたとTwitterで見かけて驚きました…!

高橋:そうなんです。1月に双子を出産して、今日は保育園に預けてここに来ました。妊娠出産って最後まで何があるのかわからないので……仕事関係者には話していましたが、SNSや患者さんには曖昧に伝えていて、出産してから公表したんです。

ハヤカワ:医師の仕事をしながらの妊娠・出産は、大変そうなイメージがあります。出産のタイミングなどプランは考えていたんですか?

高橋:それはもう、めちゃめちゃ考えていました(笑)。医学部だと現役合格して18歳で入学したとしても、卒業は24歳。研修医や各診療科での経験を経て、専門医になれるのは早くても30歳手前くらいなんです。28歳ごろに妊娠できればと思っていたのが、実際は10年ほど遅くなりました。ただこれは、仕事が理由というよりは出会いがなかったから(笑)。

ハヤカワ:はたらくまでが長い道のりだったんですね。私はまだ子どもがほしいのかもわからないんですが、妊娠出産の体験の中で産婦人科医だからこその不安はありましたか?

高橋:そうですね。年齢的に妊娠できるのか不安だったし、妊娠してからも「悲しい思い出になったら嫌だな」と思うと、なかなか周囲に伝えられませんでした。それこそ、妊娠9ヶ月まで赤ちゃん用品も買えなかったくらい。無事に生まれて、妊娠出産は奇跡なんだと改めて感じています。

ハヤカワ:さまざまな実例を見ているだけに、何があるかわからない実感が強かったんですね。産婦人科医としては、出産までの関わりが多いと思います。産後に子育てと仕事の両立をするなかで気づいたことはありますか?

高橋:「自治体すごいな!」って思いました。助成の充実ぶりが想像以上で。「金銭的な不安で妊娠出産に向かえない」という声はよく聞こえてくるのですが、意外と守られているケースもあることに気づきました。

私が住んでいる渋谷区では、区の保健師さんとお話する「妊婦面接」に行くと、ベビー服やおもちゃなど赤ちゃんグッズがぎっしり入った「育児パッケージ」や、育児用品と交換できるポイントがもらえたりします。全国各地の自治体でさまざまな助成があるはずなので、調べて話を聞いてみるといいのかなと思います。

渋谷区 育児パッケージ

ハヤカワ:妊娠出産に限らず、困ったときや大変なときは自治体に相談すると案外さまざまな手段がありますよね。

一生で迎える生理の回数は、昔の9倍に!

ハヤカワ:現代女性は生理の回数が増えていると聞きます。いまの時代ならではの、生理周りのあれこれについて教えてもらいたいです。

高橋:昔の人は20歳前後で初産を迎えたあと、複数の子どもを産むのが一般的でした。妊娠中から産後の授乳中は生理が再開しづらいので、生涯の生理は50回ほどだったと言われています。一方、いまの人は栄養状態もよくて初潮が早く、初産も遅いぶん、一生での生理回数はおよそ450回。なんと9倍にも増えています。生理や排卵の回数が多いことで、子宮内膜症や卵巣がんのリスクも上がるんです。

ハヤカワ:病気のリスクまで!

高橋:たとえば子宮内膜症は、子宮内膜にそっくりな成分が、本来あるべき子宮の外側や卵巣のほうにできてしまう病気です。毎月の生理は、子宮内膜がはがれたものが子宮に溜まって、膣を伝って外に出ること。でも、そうした経血の一部は、卵管を通ってお腹の方に逆流します。生理の回数が多いと、子宮ではない場所に経血が逆流する回数が増えるため、子宮内膜症のリスクが上がるんです。また、月に一度の排卵のたびに卵巣の壁は傷ついていて、これは卵巣がんにつながります。現代女性は生理や排卵の回数が多いので、それだけさまざまなリスクが高くなっているんです。

ハヤカワ:なるほど。私の周りでも、妊娠出産を考えて産婦人科を受診したら、ふいに婦人科系の病気が見つかった話を聞きます。

高橋:月経に伴って重い生理痛や吐き気、頭痛、下痢、イライラといった諸症状が出ることを「月経困難症」と呼びますが、月経困難症がある人の3分の2に子宮内膜症が見られる、という報告もあるくらいです。

ハヤカワ:3分の2も! かなり多い数字ですね。
高橋:子宮内膜症はエコーでわかると思っている人も多いのですが、そうでもなかったりするんです。卵巣が腫れればわかるけれど、内膜症の病変が子宮の外側や腹膜にへばりついているだけの場合などは、腫れる部分がないため、エコーだけでは見すごされることも……。妊娠して初めて婦人科に来るという方が多く、そこでチョコレート嚢胞(※)や子宮頸がんなどが見つかる方もいます。そのときすでに妊娠していると、すぐに治療できないケースや妊娠を諦めなきゃならない場合もあるんです。

ハヤカワ:私も子宮頸がんの検診で引っかかったことがあります。「がん」というと、年配の人がなるとか、生活習慣が悪いとなるみたいなイメージが強いんですが、そうとも限らないんですよね。

高橋:そうですね。子宮頸がんはHPV(ヒトパピローマウイルス)という性行為で感染するウイルスが原因なので、一度でも性行為経験がある20歳以上の人は、2年に1度の子宮頸がん検診が推奨されています。あとは、予防接種! いまは26歳以下の方は無料で打てるので、予防と検診をセットで進めましょう。

※子宮内膜症の症状の一つ。子宮内膜もしくはその類似した組織(子宮内膜症の病変)が卵巣にできることで、卵巣に血液成分がたまり、チョコレート色になった嚢胞を形成した状態。

妊娠を考える前に、気負わず婦人科受診を

ハヤカワ:「婦人科に行くのがこわい」という声も耳にします。どんなことをするか不安なのかなと思います。

高橋:この声は多いですね。特にTikTokだと小中学生も多いのでたくさんいただきます。性交渉の経験がない場合は、お腹の上からの超音波エコーや問診するようにしていて、無理に内診はしません。気になることがあれば気負わずに来てもらいたいですね。

ハヤカワ:ただ、生理痛の重さや経血の量って、自分だと判断が難しいので受診をためらう気持ちがあるのかなと。受診の基準はありますか?

高橋:理想的には、初潮が来て何か少しでも困ったことがあれば、相談に来てほしいです! 海外では初潮を迎えたら産婦人科を受診するという風潮の国もあります。具体的な数値でいえば、1回の生理周期の合計で140cc以上の血液が出る場合は「過多月経」。昼なのに夜用ナプキンを1時間ごとに変えるとか、毎回血の塊が出るような方は、その可能性が高そうです。また、ナプキンで毎回肌が荒れるなども、その人にとっては困りごと。ささいなことだと思うかもしれませんが、ほかの生理用品の紹介や、生理回数を減らすピルなども提案できるので、試しに相談に来てもらいたいです。月経困難症として治療できる症状は、意外とたくさんあります。

ハヤカワ:最近のピルは、生理の回数を年間3回くらいに抑えられるものもありますよね。知っているのと知らないのとではだいぶ違うなと思います。

高橋:ピルで排卵を長期的に止めることで卵巣への負担を抑えられ、将来的な妊娠しやすさが上がる、といったデータもあるんです。「生理を止めることは体に良くない」「生理は悪いものが出てくるデトックスだ」と考えている方もいるけれど、実際は、ホルモンによって厚くなった子宮内膜が剥がれ落ちているだけ。悪いものが出てくるわけではないし、止めても体に悪影響はありません。ピルを使うと子宮内膜が薄くなり、剥がれなくなるから、生理の回数を減らしたり止めたりすることができるんです。本来剥がれる部分がすごく薄くなっているだけで、余計な血液がたまり続けるわけではないんですね。

ハヤカワ:ピルを飲むと妊娠しづらくなる、みたいなイメージはあるかもしれません……。

高橋:むしろ逆で、将来妊娠を考えているのであれば、ピルを飲んで生理や排卵の回数を減らした方がいい。このあたりの知識はYouTubeでも詳しくお話しているので、見てもらえたらうれしいです。

ハヤカワ:それから、婦人科選びが難しいという声も多いです。勇気を出して行ったら、嫌な思いをした人も……。

高橋:難しいですよね。受診を勧めている立場ですが、私にも葛藤があって。先生が合わないとくじけちゃうかもしれませんが、その先生が合わなかっただけなので、ぜひフィーリングの合う病院を見つけてほしいです。妊娠したいと思ってから探すよりも、妊娠前から検診で合う場所を見つけておくといいですね。

私のクリニックでは、産婦人科を知ってもらうために年齢性別問わずに無料開放する「ユースクリニック」を定期的に開催しています。「産婦人科はいつでも相談していい場所なんだよ」と伝えたくて、お茶やお菓子、コンドームや潤滑ジェル、生理用品のサンプルなどを置いています。診察の場ではないので、行きやすいかなと。

ハヤカワ:まず行ってみるのはいいですね。

高橋:具合が悪いときに受診して先生との相性が悪いと落ち込んでしまいますが、検診だと普段どおりの体調で、実際に先生と会話できますよね。2年に1回、自治体から検診チケットが届くと思うのでいろいろ見てみるといいですよ。私もさまざまなところに行きます。同業チェックみたいな(笑)。

ハヤカワ:それはドキドキしますね(笑)。

生理用品を婦人科アクセスにつなげたい「やわらかっぷ」開発の想い

ハヤカワ:高橋先生は月経カップ「やわらかっぷ」をプロデュースしています。産婦人科医が作った月経カップは安心感がありますね。

高橋:月経カップは、生理の際にナプキンの代わりに使うアイテム。ナプキンで肌が荒れてしまう方に特におすすめです。使い方も慣れれば簡単。月経カップを折りたたんで、膣内に入れます。カップが広がって経血がたまるので、8時間ごとに取り出して洗ってからまた入れる。生理の始まりと終わりのタイミングで煮沸消毒して使います。消毒は電子レンジでもできますよ。一つのカップを10年ほど使えるので、エコでもありますね。

ハヤカワ:エコすぎる……! 私もいまは低用量ピルで経血量が減っていますが、以前はずっと使っていたんです。これからの夏に向けてもいいですよね。

高橋:プールや海でも使えますし、小さいお子さんとお風呂に入るときに使うという声も多いです。「やわらかっぷ」には10ml、20mlの目盛りがついているので、経血の量や状態をチェックできます。

ハヤカワ:他の生理用品だとなかなか量までわからないから、いいですね。

高橋:さらに、正しく月経を知るための『月経ガイドブック』が付録としてついています。生理用品を消費して終わりではなくて、月経カップを使うことで婦人科に行く目安になるような、体と向き合うきっかけになる生理用品を作りたかった。皆さんのはじめの一歩のきっかけになったらうれしいです。

ハヤカワ:すばらしいです! 最後に、皆さんにお伝えしたいことはありますか?

高橋:がん検診を受けてほしいということと、生理がある方はピルやホルモン治療を考えてみましょうということ。そして、26歳以下の方はHPVワクチンを受けましょう! この3つは婦人科で全員に伝えていることです。もし皆さんが対象者ではない場合、友達や娘さんなどに伝えてもらいたいですね。

取材・文:片岡由衣

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