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「事実婚」は法律婚とどう違う? 結婚前の「婚前契約」は、何を取り決めるの?【弁護士監修】

自分たちが納得できる夫婦関係をつくるための手段に「事実婚」や「婚前契約」があります。
事実婚は、2021年度の内閣府調査によると、人口の2~3%が選択しているのだそう。夫婦別姓問題がクリアにならないなか、じわじわと増加の傾向にあるようです。

また、婚前契約は日本だとまだあまりポピュラーではありませんが、欧米ではさほど珍しくありません。財産の扱いや家事育児の分担などをあらかじめ取り決めておくもので、結婚生活や離婚時のトラブルを回避してくれるといわれています。

事実婚と婚前契約について、弁護士の松坂拓也さんに説明してもらいました。

松坂拓也
Kollect京都法律事務所 共同代表弁護士(京都弁護士会所属)
企業法務・スタートアップ法務・エンターテインメント法務・事業承継(M&A)・相続などを取り扱う。
著作・論文:『スクールロイヤーにできること』日本評論社、2019(共著)「福利厚生の知識 Q&A」(『医療事務』No.617,産労総合研究所)


「事実婚」って、内縁や法律婚とどう違うの?

「内縁」とは、婚姻届を出していないため法律婚とは認められないが「婚姻の実態を有する男女間の関係」を指します(同性婚などの問題もありますが、旧来の定義に則り男女としています。)。

つまり、内縁の夫婦として控除や扶養の申請をしていたり、周りにお互いの存在をそのように紹介していたりするカップルですね。夫婦同然であり、周囲もそのように認識しているけれど、婚姻の届け出をしていないから法律上の婚姻は成立していない、という関係です。

近ごろ増えてきた「事実婚」という言葉も、一般的には内縁と同義であるととらえていいでしょうが、識者のあいだでも定義が揺れている部分です。

事実婚や内縁を選ぶ場合は、婚姻届の提出は不要です。カップルは別姓のまま、戸籍を変えることもなく、事実上の夫婦として生活ができます。対して法律的な婚姻は、婚姻届を提出することで、二人の苗字が統一されるのが大きな特徴です。2023年8月現在、苗字を同じにしたいカップルは、法律婚を選ぶしかありません。逆に、苗字を別にしておきたい場合は、事実婚や内縁を選ぶ必要があります。

また、事実婚を選ぶ方々の多くは、住民票に「夫(未届)」「妻(未届)」などと記載する手続きをとります。法律的な「婚姻」とまったく同じになるわけではありませんが、住民票に事実婚関係を証明しておくことで、控除や扶養、保育などの申請がスムーズになるのです。

法律婚と比べて、パートナーとの権利はどう変わる?

事実婚と法律婚で最も大きな違いのひとつは、子どもの親権ではないでしょうか。法律婚では夫婦が共同で親権を持ちますが、事実婚で親権を持てるのはどちらか一方のみに。そして事実婚の場合、子どもが生まれると母親のみに親権が生じます。父親に親権はなく、認知の手続きをすることで法律上の親子関係が発生するのです。認知を行った父親が親権を持つには、母親を親権者から外したうえであらためて父親を親権者に指定しなければならず、父母での合意や調停といった一定の手続きが必要になります。

また、夫婦関係が破綻したとき、事実婚では一方的に関係解消ができるけれど、法律婚ではそうはいきません。法律婚では、離婚をするだけでも調停や訴訟といった裁判闘争にもつれ込むことが少なくないのです。

そのほかはわりと柔軟で、夫婦関係の有無を“実態”で見るケースも多いもの。保育園や病院の面会、航空会社や通信事業者の家族割などを使いたい場合は、事前に相談して実態を伝えておけばOKとなる場合も増えています。

国に自分たちの関係を決められることに抵抗を感じる方や、身軽さを求める方は、事実婚を検討してみてもいいでしょう。法律婚をすると離婚のハードルはどうしても高くなってしまうので、家族の在り方をそのときどきで自分たちらしく考えたいカップルには、事実婚のほうがフィットする可能性があります。

「婚前契約」って、そもそもどんなことを契約するの?

事実婚の際には、「婚前契約」なるものを交わすカップルも。読んで字のごとく、結婚にあたってさまざまな約束を取り決めるものです。

財産管理や日常的な債務の連帯責任などをまとめるほか、家事育児の分担や子育ての方針など、“夫婦としての在り方”全般について契約する方も増えてきました。事前に話し合っておくことで、生活や家族に対する価値観を共有できます。

お互いに契約だという認識さえあれば、契約書のフォーマットは問いません。ただ、口約束ではなく、きちんと形式を整えた書面があることで、後から「言った・言わない」のトラブルを回避することができます。たとえば、婚前契約書で「生活費はお互いに10万円ずつ入れる」という項目があったにもかかわらず、相手が相談なく5万円に減額した場合、婚前契約書を根拠に争うことができるわけです。

何かしらもめごとが発生するときに役立つものなので、作るだけ作っておいて、使わないで済むのが一番ともいえるでしょう。国内事例が多くないうえ、契約内容も夫婦それぞれでまったく変わってくるため、自分たちでいちから内容を考える負担も小さくはありません。お互いの信頼関係のうえで、ミニマムな規定を定めておくのがいいと思います。

婚前契約は、経営者や財産を持つ夫婦におすすめ

離婚をするとき、夫婦の共同財産は基本的に1:1で分与されます。しかし、夫婦がともに仕事を持って財産を築いているケースやそもそもの離婚率が増えているなかで、1:1が本当に平等な割合なのかは考えなければいけないところです。そうした場合にも、婚前契約で財産分与について取り決めておくことが効果を発揮します。

とくに経営者は、自分が所有している自社の株式を財産分与しなくてはいけなくなることも。それは経営上、大きなリスクになりえます。夫婦それぞれに財産がある場合は、離婚時の争いを避けるため、取り扱いを決めておいたほうがいいでしょう。

法律婚でも事実婚でも、婚前契約にて取り決めるべき内容に大きな差はありません。ただ法律婚の場合、夫婦の財産について取り決めるには、婚姻届の提出前に行う必要があります。また、一度取り決めたことを後から変えることは原則できないため、注意が必要です。

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