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おじさんの大冒険

今年は入社して20年目です。弊社では、ご褒美に5連休がもらえます。
でも、5連休でやりたいこと、というのが、すぐに、思い浮かばなかった。娘は学校があるし、妻も仕事がある。家族でどこかへ出かける、といっても、夏休みとか、冬休みの、ハイシーズンに5連休をくっつけるしかない。でも、それじゃ、せっかくの、いつでも使える5連休、の意味がない。よく考えると、犬の世話があるので、そもそも、5日間も家を空けられない。結局は、5日間、家に引きこもって、本を読んだり、ビデオを見たりして、終わりかな、と、ありがちな展開を想像して、少し寂しくなった。
いつも頭から離れない、というくらいに、熱中できる趣味もなく、会社と家を、フラフラと往復しているだけの、抜け殻みたいなオッサン。そうなりつつある自分に、急に気づかされてしまった。気がついてしまっても、何ができるわけでもない。入社20年目の今年のうちに、5日間没頭できる趣味を見つけろ、と言われても、それは、そんなに簡単じゃない。
そんなとき、今年は、娘が修学旅行に行くことを、唐突に思い出した。そのタイミングで、私もどこかに出かけたら、妻が一人で留守番することになって、いつも一緒にいる家族が、一人ずつバラバラになって面白いかも、という考えが浮かんだ。妻に相談した。妻は、一人で裁縫なんかをコツコツやるのが好きなタイプなので、この提案に乗ってくれた。
一人でどこかに行く、と考えたときに、バイクでツーリングに行く、というアイデアは、すぐ出てきた。入社以来、ずっと乗っていた大型バイクが、去年の夏に壊れてからは、全くバイクに乗らなくなった。バイクが壊れる前も、娘が生まれてからは、数か月に一度、近場をウロウロするくらいだった。それでも、一人で出かける、というアイデアに、バイクに乗ること、が、直結するくらいの思考回路は、まだ残っていた。新しい趣味を探さなくても、自分には、ツーリング、という趣味があったことを思い出した。思い出した、ということは、忘れていた、ということだ。毎日忙しいからといって、ただ忙しくしていると、いろんなことを知らないうちに忘れてしまう。
ロングツーリングに行く、と決めるのと、行き先を四国にする、と決めるのは、ほとんど同時だった。四国には、今まで行ったことがなかったし、サイズも、5連休のツーリングに、ぴったりな気がした。
ロングツーリングは、ずいぶんと久しぶりになる。二泊三日以上のツーリングは、たぶん、15年以上行っていない。近頃は、無理に力を入れると、すぐに筋を痛めるし、痛めるとなかなか治らないし、傷はすぐに膿むし、脂っこいものを食べると気持ち悪くなるし、小さい字は遠くしないと見えない。テントを担いでロングツーリングをしていた、あの頃と同じ感覚では、必ず痛い目に合う、というのは、日々、思い知らされている。でも、歳をとったからといって、失ったものばかりではない。毎日の忙しさをやりくりするなかで、身に着けた知恵は、あのころよりも多くなった。あの頃の自分に教えてあげたいことも、いくつかある。体の衰えは、知恵でカバーだ。とにかく、これは一大事だ。家族の間では、この四国ツーリングのことを、オジサンの大冒険、と呼んでいた。
ツーリングに行く日は、娘の修学旅行に合わせたので、11月の最初、になった。最初にやったのは、カレンダーの週末のところに、ツーリングに出発するまでの、カウントダウンの番号を振ることだった。久しぶりすぎて、ほとんど初めてみたいなロングツーリングなので、準備には、何かと時間がかかるだろう。それは週末にしかできないし、ツーリングは、何か月も先でも、週末は、ひと月に4回しかない。こういう考え方が、できるようになったのだよ。オジサンは。
カレンダーを見て、すぐに、ツーリングの準備に取り掛かることにした。

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