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money alive

玉月神社。ぎょくげつ、と読むらしい。

時々地方紙に取り上げられるようなそこそこ有名な神社だそうだ。

金運のご利益があるとかないとか。

祀られているのはもちろんエビス様。

そして、この俺はご利益目当てに訪れた参拝客というわけだ。

鳥居をくぐってさっそく社を目指す。

参拝客は俺の他にいないようで冬の風に揺られた絵馬がガチャガチャ音を立てている。

社につくと俺はズボンのポケットをガソゴソやって取り出した1円玉を賽銭箱に放り込んだ。

これから金運あげようってのに10円やら100円を放り込み気になる奴はいないだろう。

手を合わせてしばらくジッとする。

お辞儀とかするんだっけ。わからん。教養がないから金も無かったのだ。金運の神社ならそこのところも寛大だろう。

参拝を終えると神社の端にある手水へ向かった。

何を隠そう玉月神社はこの手水が有名なのだ。

ここの手水は少々特殊、なんでも手ではなく金やそれに準ずるモノを清めるらしい。

この水で洗った小銭を財布に入れておくと小銭が貯まりやすくなるとか。ここで清めた宝くじが大当たりしただとか、清めたお金で始めた事業が成功、洗った株券が高騰…などなど噂は付きない。

俺は肩にかけていたボストンバックのチャックを開けるとパンパンに詰まっていた一万円札を洗い始めた。

洗い続けているうちに手がどんどん赤く悴んでいく。それもそのはず今日は真冬日。人が少ないのはそのせいだろうか。何にせよその方が好都合だ。

俺は一心不乱に一万円札を洗い清め続けた。

やっとの思いで金を洗い終えると。俺はその足で事務所に帰った。

「アニキ!お待たせしました。言われた通り洗浄してきましたよ。」

「おう、思ったより早かったじゃねぇか。これで足も付かなくなったって訳だ。ご苦労さん。今日はこれで美味いもんでも食って帰れ。」

俺はアニキから報酬を受け取ると酒をしこたま飲んでその後タクシーを呼んで帰った。

翌朝テレビをつけるとニュース番組でアニキが逮捕されたことが報道されていた。なんでも強盗された銀行券?と番号が全く一緒だったらしい。

教養のない俺には良くわからない。

だけど、もう少し丁寧に洗っておけば良かったのかなと少し後悔した。



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