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エボリューション創世記

「ようし出航だ!錨を上げろ」

ノアはそう叫ぶと方舟を流れにまかせ嵐に沈む大地を後にした。

「なんとか無事に切り抜けられたな」

天の主から大洪水の信託を預かってからしばらく、大役をつとめ緊張の線が切れたノアは方舟の広い甲板に倒れ込んだ。

そこへ慌てて鴉が飛んできた。

「ノア様大変です。いくつかの動物のつがいが乗り遅れてしまったようでして」

「なんだって、天の主がお創りになられた動物が欠けたとならば一大事だ。すぐに確かめよう」

ノアは飛び起きると方舟に乗り込んだ動物を全て甲板に集め、粘土板を片手に動物の点呼を取り始めた。

「む、確かにつちのこやイエティがいないようだ、しかし主もなんと多くの動物をお創りなられたことだろうか。これでは数えにくくて仕方がない」

そこへまた鴉がやってきた。

「ノア様、洪水が収まるまでまだずいぶん時間はありそうです。動物たちを並べて整頓してみてはいかがでしょう」

「それは名案だ。水が引いたあとに動物たちを大地に返す時も整理しておけば速やかにことが運ぶだろう。主もお喜びになるに違いない」

その日からノアの動物整理が始まった。

動物たちは大きさも見た目もバラバラである。それでは甲板に並んだ時に見栄えが悪いとまずは大まかに動物を分けることとした。

「ようしまずは陸で暮らすものは南に並べ、海で暮らすものは北に行くんだ」

甲板の上を動物たちがぞろぞろと移動する。

「翼を持つものは向こう、爪があるものはこっちだ」

「卵を産むものはマストの近く、子を抱くものは舵輪のそばだ」

こうして次第に動物たちはいくつかの小さいグループにわかれていった。

グループ分けを続けること数日、ノアの整理はかなりの細部に至るものとなっていた。

「ようし猿たち、尻尾があるものは向こう、無いものはこっちだ」

そこへまたまた鴉がやってきた

「ノア様ずいぶん順調なようですね」

「ああ、はじめはバラバラに見えた動物たちもこうして並び替えると少しずつ似た特徴を皆持っているようだ、それらを隣同士にしながら並べると何やら法則性があるようにも見えるのだ。ところで何か用だったか」

「はい実は私たち翼を持つものの中で組み分けに難儀しているのです」

「そうだったか一体どの動物だ?」

「フィンチたちです」

ノアは翼を持つものの部屋につくと早速整理に取り掛かった。

「確かに同じフィンチでもクチバシの形や大きさが違うようだな。お前たち出身はどこだ」

ノアがたずね、フィンチが答える。

「はい、我々はガラパゴス諸島から来ました。しかし、住んでいた島はそれぞれ別のところであります」

「なるほど、わかったぞ。島によって食べているものが違うからクチバシもそれに合わせた形に変わったんだ。虫を食べるもの、フルーツを食べるものそれぞれに適したクチバシの形を持っている」

そこまで言ってノアは顔をしかめた。

「しかし、これは本当に主がお創りなられたものなのか?今まで動物を並べてきて似通った特徴を持ったものは多くいた。これらは環境に適応して動物たちが姿を変えた結果では無いだろうか。確かに、私もさっきの猿たちに姿見は似ているな…そうだこれを進化と・・・」

その時、嵐の切れ目から一閃の稲妻が方舟を切り裂いた。木っ端微塵となった方舟はその多くの動物たちと共に水の中へ姿を消した。

船が沈んだ幾日か後、水は引いた。

大地は元の姿を取り戻したのであった。



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