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胡蝶はアンドロイドは電気羊の夢を見るかの夢を見るか

悪夢だ。

しばしば極めて劣悪な現実に対しての比喩表現として用いる事もあるこの言葉。今回については本来の意味に於けるただ純粋な悪夢を指すものである。

酷い夢を見たのだ。簡潔にその内容記す事が本文の旨であるが前提として幾つか共有したいこともある。

顕著に私自身のコンプレックスと思想が描かれていた。それが示すのは私の深層心理(字面の割に酷く軽薄な言葉になった昨今であるが)であり、それは理性によってもたらされる差別ではなく後天性な環境によって植え付けられた本能に準ずるモノと思考を超えて頭蓋骨に彫り込まれた妄想からもたらされる拒絶である。

して夢は以下のような内容であった。

・人類は空の果ての異邦人へと使者を送ったらしい。かつて物理的な熱線と精神的な熱視線の双方に晒された発射台は今や閑散としている。

・ある日、その発射台に空の果てからやってきた円盤が着陸した。いや、正確には少しだけ浮いている。円盤は銀色で下には光の幕を下ろす半球の電灯のようなものがついていて…そう、それだよ。キミが今想像したUFOそのものだった。

・当然…多くの機関や個人が駆けつけてあれやこれやとしたのだろう。記述が曖昧なのはこの辺りについては夢に於いて描かれ無かったからだ。それで何年か後、最終的にUFOはただ放置されていた。何をしても反応が無く、何をしてくるわけでもなかったからだ。

・光った。何が。UFOが。いつ。突然だ。どうして。しるか!                UFOが人を攫いはじめた。動き回って攫うわけじゃない。UFOは例の発着場で不定期に光を放ちながら沈黙している。突然、人がその場で消えるのだ。そして数秒後すると元の場所へ戻ってくる。その時、彼らは奪われていた。悪夢のパノプティコンの中央にいる私は知っている。彼らは染色体を1本奪われていた。

・夢の中の私は幼かった。小学校6年生ぐらいだろうか。父が車を運転していた。私はいつも助手席に座る。後部座席には2つ下の弟が座っていた。母が休日のレジャーについて来なくなったのはいつからだったのだろうか。もう思い出せない。

・町中で騒ぎが起こっている。攫われた人たちが理性を失って暴れている。弟が消えた。弟が帰ってきた。帰ってくるなり後部座席から運転席の父の首を絞めて殺した。車が制御不能になる。私は必死になってハンドルを握った。

・「もっと優先されるべき感情があったのでは無いだろうか」とパノプティコンの看守が言った。しかし、囚人は何も知ることができない。ただ夢によって動かされるままに動くのだ。

・私は自分が殺されまいと必死だった。見よう見まねで車を運転した。人が多いところを巡った。そこで車を泊めて弟の満足が行くまで人殺しをさせるのだ。終わったら次の場所を目指す。繰り返す。

・いつだったか父の誕生日に家族4人で来たレストランだ。「また来ようね」なんて事を言ったかどうかは覚えてない。だけどその後も何回か来た。父の誕生日に決まって食事をしていたここへ来なくなったのはいつからだったのだろうか。もう思い出せない。

・弟がそのレストランの人を殺している。

・あぁ…

・おぞましい…

・悪夢か。

かくして、看守は胡蝶の夢の囚人へと戻った。この蝶の悪夢が醒めることはあるのだろうか。

しかし、囚人は何も知ることができない。ただ夢によって動かされままに動くのだ。




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