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蛇足

その日、長江は凄まじい熱気と緊張感に包まれていた。

それもそのはず、ついに曹操軍が水軍を揃え劉備・孫権の連合軍をこの天下分け目の赤壁の戦いにて打ち破るべく戦意を確固たるものとしたのであった。

しかし、流石の諸葛亮孔明、決戦が近いとみて連合軍の幹部を一堂に集め最後の作戦会議を行なっていた。もちろん警備も万全、猛将・趙雲子龍に部屋を守らせている。間者が現れたり内通を匂わせる言動が有れば即刻首を跳ねろと命じてあるのだ。

軍議は円滑に進められた。孔明の恐ろしく明瞭な頭脳はまるで未来を知っているかのように次々と素晴らしい作戦を立てて行く。

「その狼煙に合わせて伏兵を展開すれば曹操軍はたちまち壊滅、我々の勝利は堅いでしょう。」

「いやあ流石、孔明どのだ。この作戦ならば曹操軍20万といえど我らの敵ではないでしょう。」

諸将はお互いに目を合わせ頷きあい既に勝利を確信している様子だった。

しかし、その油断を良しとしない孔明、すかさず持ち前の知識を持って補足する。

「みなさま、お待ちくだされ。私には未来がわかります。例えば…何百年か後の中国に宋という国が生まれ『竜頭蛇尾』という格言が読まれます。これは竜のような勇ましい始まりでも最後が蛇のような情けない終わりでは宜しくないという意味の言葉です。どうかくれぐれも油断なきよう。」

それを聞いた諸将

「おお流石、孔明どの。未来の中国の格言まで知っておられようとは」

「我々一堂、油断せず最後まで戦って見せますぞ!」

という具合に士気も高まり準備は万全となったその時、一人の冗談好きの将軍がこう言った。

「言うなれば『蛇頭竜尾』ですな。はっはっは。」

それを聞いて今まで静かに軍議を傍観していた趙雲が激昂。

「貴様、今何と言った!『だとうりゅうび』、『打倒劉備』だと!許せんこの裏切り者め!」

猛将・趙雲子龍、たちまちその将軍を一刃の元に斬り倒す。それからはもう軍議は無茶苦茶である。孔明が何と叫ぼうと誰にも届かない。

「やいお前。劉備軍の将軍だな!ぶちのめしてやる!」

「この呉の田舎者どもめ!趙雲様に手を出すんじゃねぇ!」

この内紛の火はしだいに陣営全体に拡大。

これを好機とみた曹操軍が一斉攻撃を仕掛け、あっという間に赤壁を制圧。

こうして中国は曹操率いる魏が治め、魏は長く平和に続き後の時代に「竜頭蛇尾」なんて言葉も生まれませんでしたとさ。



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