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使徒猿・チンパウロの黙示録
「なんということだ。動物園からの報告は本当だったのだな」
チンパンジーの檻の前で博士が神妙な顔つきで眉間にシワを寄せた。
檻の中ではチンパンジーの群れがエサのフルーツを前にして何やらお辞儀のような動きを繰り返している。
博士の後ろで不安そうにしていた園長が答える。
「はい、いつもならすぐにエサに食いつくのですが、しばらく前からあの調子でして…」
「どうやらこれは儀式と見て間違いありません。単刀直入に言いましょう。チンパンジーの間に宗教が生まれたのです。」
博士は話を続ける。
「食べ物は生物にとって根源的なエネルギーです。原始的な信仰の対象として我々ホモサピエンスの初期にも見られました。」
園長が怪訝そうに尋ねる。
「はあ、しかし先生。チンパンジーが宗教を持つことがそんなに問題なのでしょうか」
すると博士は園長の方へ振り返り語気を強めて話し始めた。
「甘く見てはいけません。例えば1人の人間と1匹のチンパンジーが争えば当然チンパンジーが勝るでしょう。しかし、100人の人間と100匹のチンパンジーであればどうでしょうか。我々人間は話し合い、作戦を立てることで有利に戦うことができるでしょう。一方でチンパンジーは人間の前でバラバラに逃げることしかできません。」
博士は少し落ち着ついてゆっくりと話を続ける。
「これは人間には共通のシンボル、目的を見据えて認識を共有する力があるためです。一方でチンパンジーは群れの長という役割を超えて集団を統率することができません。だから今こうして彼らは檻の中にいるのです。」
「ははあ、なるほどよくわかりました。今の場合は宗教がシンボルの役目を果たしているのですね」
「その通りです。これは詳しく研究する必要があります。もし野生のチンパンジーが宗教を創りチンパンジーの王国でも立ち上げようものなら人類の驚異となってしまうでしょう」
ことの重大さを理解した園長は大きくうなずきながら博士に同調した。
「よく理解できました。万が一の危険防止のためしばらくの間、エサやりは飼育員ではなくドローンに運ばせることにします。」
「それで良いでしょう。またしばらくしたら研究に伺います。何か変化があればすぐに連絡してください」
こうして博士は去っていき。しばらくの間ドローンがチンパンジーたちにエサを届ける日々が続いた。
するとどうしたことだろう。チンパンジー達の儀式はパッタリと途絶えてしまった。またいつものように我先にとエサを奪い合っている。
「どうやら私の思い違いだったのかもしれない。園長さん、あと3日様子を見てあの調子なら飼育員に餌を運ばせても問題ないでしょう」
これには園長からの連絡に駆けつけた博士も首を傾げるばかりである。
しかし、チンパンジーからしてみればそれもそのはず、彼らに恵みを持たらすメシアは姿を隠し、代わりに無機質な鉄塊が現れるようになったのだから。
こうしてチンパンジーたちの信じる飼育員教は崩壊したかに思われた。
しかし、この3日後にチンパンジー達のメシアは復活し。
それは後に奇跡として語り継がれることとなる。
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