見出し画像

ネット予約できない小さな名旅館【三川温泉・湯元館】

前々回の投稿では、旅行予約サイト(OTA:Online Travel Agent)に登録されていない小さな宿にこそ、あまり世間に知られていない「名湯」が眠っていることが多い、というテーマを取り上げた。

前回に引き続き、最近宿泊した中で、印象に残っている小さな宿の名湯をもう一軒紹介したい。

一人泊OK!温泉自慢の宿

三川温泉・・・と聞いて、ピンとくる人はかなりの温泉ツウと言っていいだろう。新潟県阿賀町にある小さな温泉地である。

新潟県の名産・米の育ての親ともいえるのが県内を流れる阿賀野川だ。福島県西部から会津盆地、新潟県中北部を経て日本海へ注ぐ。阿賀野川流域は温泉が豊富だ。川の流れに沿うように、咲花温泉、かのせ温泉、津山温泉、麒麟山温泉など小規模の温泉地が点在する。

そのなかのひとつが、三川温泉である。湯元館は、昭和3年の三川温泉の開湯にも尽力した初代館主が始めた旅館である。

私が湯元館を訪れたのは、3016湯の旅で三川温泉に立ち寄ったのが最初である。日帰り利用だったが、郷愁を誘われるような素朴な雰囲気と源泉かけ流しの湯が気に入り、いつか宿泊で訪ねたいと思っていた。

昨年、取材で近くを訪問することになり、ようやく念願叶ったというわけだ。

湯元館にはホームページはあるが、最低限の情報が記載されただけのシンプルなつくり。温泉のページには、「自慢の源泉! 24時間 かけ流し100%」とあるが、多くは語らずといった具合である。

予約は電話か、問い合わせフォームから。問い合わせフォームはリアルタイムで空室を検索できるシステムではなく、宿からの返信を待つタイプである。一人泊が可能かどうか不明だったので、直接電話で予約を試みる。

ハキハキとした女将さんに一人で泊まりたい旨を伝えると、快くOKしてくれた。ただし、一人泊の場合、名物の鯉の甘煮は分量の関係で出せない可能性があるとのこと。それくらいなら問題ない。

終始独泉!かけ流しの湯

当日は午後15時くらいに早めのチェックイン。電話の女将さんが迎えてくれた。部屋数6つの家族経営の宿である。

落ち着いた雰囲気の和室は角部屋。広縁があり、2方向から光が入るので明るい。窓からは里山の風景が広がる。

浴室は男女別の内湯が2つ。だが、この日の宿泊は私ひとりだったようで、片方の浴室を貸切利用する形となった。

昔、日帰りで訪れたときは、湯口が鯉をかたどったものだったが、今回はシンプルな石の湯口である。前回と異なる浴室だということ。だが、勢いよく透明な湯がタイル張りの湯船にかけ流しにされているのは変わらない。

泉温は41度くらいだろうか、さっぱりとした入浴感で、オレンジ色で粒子状の湯の花が舞っている。飲泉用のコップも置いてあり、ほんのり塩味を感知できる。チェックアウトまでに5回入浴したが、終始独泉。最高である。

ちなみに、三川温泉の周辺には複数の宿があるが、3016湯の旅のときに湯元館に立ち寄ったのは、「湯元」という宿名に惹かれたからだ。「湯元」と名乗るからには、その温泉地の発祥の源泉である可能性が高く、鮮度のよい自家源泉を所有しているケースが多い。

読み通り、すばらしい湯だったが、チェックアウト時に女将さんから聞いた話によると、もともとの源泉はすでになく、今は1つの源泉を周辺の5軒の宿で分け合っているという。つまり、他の4つの宿でもこのすばらしい源泉につかれるというわけだ。

魚三昧! 名物の鯉の甘煮

夕食は部屋出し。三川温泉は鯉料理が名物である。宿泊しているのは私一人の様子だったので、鯉の甘煮はあきらめていたが、テーブルにはぷっくりと肉厚の鯉がしっかり並べられていた。期待していなかった分、テンションが上がる。

鯉料理は苦手な人も少なくないが、しっかり調理された鯉は臭みもなく、うまい。特に甘煮は酒とご飯がすすむ。そのほか、鯉のカルパッチョ、鯉こく(味噌汁)、海産物の刺身、鮎の塩焼きなど魚づくしで、どれもおいしく、箸が止まらない。おなかいっぱいで、しばらく動けなくなったほどである。

ハキハキとした女将さんの人柄も魅力だ。チェックアウト時に近くの観光スポットへ行くことを伝えたら、10分近くかけて事細かく道のりを教えてくれた。日常生活だと「もっと簡潔に説明して!」と思ってしまいそうだが、旅先ではこんな時間も愛おしく感じるから不思議である。

サポートいただけたら大変ありがたいです。サポートは温泉めぐりの資金とさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。