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【楽曲レビュー】清涼アイドルSEVENTEEN “不安と狂疾”のB面史

遅ればせながら、SEVENTEENベストアルバム『17 IS RIGHT HERE』発売決定おめでとうございます!

掲題の通り、清涼青春さわやかアイドル・SEVENTEENの、パブリックイメージとは異なる楽曲史を探ってまいりたいと思います。B面史としましたが、あくまで「Pretty U」「Rock with you」「God of Music」のような明るい楽曲ではないという意味であり、本稿にはタイトル曲もたくさん登場します。

なぜこの記事を書くのかというと、このテーマはSEVENTEENの作品世界やアイドルとしてのあり方に厚みをもたらしている要素ではないかと思うからです。さわやかでありつつ、さわやかなだけではないからこそ、SEVENTEENは多くの人を惹きつけるのではないかと考えています。

ちなみに筆者は2021年10月発売『Attacca』からのCARATなので、それ以前の出来事に関しては知識がないことをご了承ください。基本的に周辺知識は使わず、楽曲のみに焦点を絞って書いていきます。文中の歌詞の日本語訳は、Web上の翻訳機能を使用しています。


2つの源流

では本題に移りましょう。今回注目したいB面史の、いわば源流は2つあります。

1つ目は、2ndミニアルバム『Boys Be』(2015年9月)収録の「Rock」。既存曲や同アルバム収録曲の、甘酸っぱく初心な恋の歌詞や、自らの実力を誇る駆け出しアイドルの歌詞と比べると、明らかに異質です。
「君だけが僕の苦痛の理由」「深い夜に落ちるような香りに酔ってしまった」
君に焦がれる感情が大きすぎて苦しみを感じていて、その描写があまりにも大人びていて甘美です。

2つ目は、『First ‘Love&Letter’』(2016年4月)の「Still Lonely」。SEVENTEENがアイドルとして人気を得ていきながら感じているネガティブな感情をありのまま、ポジティブな印象のメロディーに乗せて歌った曲です。同アルバム収録で、デビュー前に制作された「Drift Away」もエッセイ的ですが、「Still Lonely」はかなり強く具体的な感情を歌っています。
「ああこいつの人気 なくなりそうにない でもどうしてこうどんどん孤独になるのか」

この2曲を皮切りに、SEVENTEENはキラキラしているだけではない生々しい感情を言葉にするようになります。のちの言葉を使えば、成長痛の始まりでしょうか。

「Still Lonely」で描かれる不安は、『Love&Letter (Repackage Album)』(2016年7月)の「Space」でより色濃く前面に出ます。切ないメロディーに乗せて、ヒップホップチームの4人がそれぞれの感じる不安や孤独を生々しく語った楽曲です。

続く『Going Seventeen』(2016年12月)は、「BEAUTIFUL」「BOOMBOOM」「HIGHLIGHT」といった堂々とした楽曲を掲げながらも、ヒポチの「Lean On Me」はつらい思いをしている人に「僕に頼って」と寄り添う楽曲、ボーカルチームの「Don’t Listen In Secret」は離れてしまった人に向けた切ない楽曲、さらには君と僕のズレを描いた「Fast Pace」、2人の関係の行き詰まりを描いた「I Don’t Know」など、苦しい思いがこもった楽曲が数多く収録されています。このラインアップを聴いた後だと、最後に収録されている「Smile Flower」の「ずっと一緒にいよう」というメッセージが、いっそう切実に胸に響きますね。

タイトル曲へ結実

ここまでタイトル曲では「Adore U」「Mansae」「Pretty U」「BOOMBOOM」と初恋のときめきを歌ってきましたが、続く『Al1』(2017年5月)では、別離の苦しみがついにタイトル曲「Don’t Wanna Cry」となって結実します。『Al1』のボカチの「Habit」、ヒポチの「If I」は、いずれもひたすらに切なく苦しい失恋曲です。

そして特筆すべきは、パフォーマンスチームの「Swimming Fool」。
「君に落ちて君に溺れて 動きが鈍くなって だんだん息ができなくなる」
これまで見てきた楽曲が「Still Lonely」系統なら、「Swimming Fool」は完全に「Rock」系統。別離の不安の裏で、君への思いが深く重く大きくなっていきます。離れれば離れるほど思いが大きくなってしまうこと、ありますよね。SEVENTEENとCARATは実際に離れるわけではないので、最後の楽曲「Crazy in Love」では、そんな自分を溺れさせる君と2人でいてさらに燃え上がる思いを歌っています。

『TEEN, AGE』(2017年11月)には、「Don’t Wanna Cry」の続編である「Without You」、またもヒポチが孤独を独白した「Trauma」、ボカチが別離を歌った「Pinwheel」と、やはり「Still Lonely」系統の楽曲が収録。さらに「Rock」系統の一つの結実として、「Flower」が登場します。
「永遠に君が僕の心に咲き続けるのなら傷ついてもいい」
これまでの楽曲と比べると、その感情の深刻さ、鋭さは段違いです。「Crazy in Love」で「Crazy」という言葉を使ってはいますが、SEVENTEENが本格的に“狂った”のは「Flower」からではないかと思います。

続いて『DIRECTOR’S CUT』(2018年2月)の「Thanks」は、ありがとうという言葉で伝わるか不安で言えなかったけれど……という歌。「Thinkin’ about you」は、明るいメロディーに乗せて、君との未熟だった日々を振り返っています。チクリとする痛みを、少し距離を取ってさわやかに描いているアルバムです。

2つの流れが結合

そして底抜けに明るく浮遊感のあるアルバム『YOU MAKE MY DAY』(2018年7月)の後、その双子のような作品である『YOU MADE MY DAWN』(2019年1月)が制作されます。本稿の主役の一つです。

全体曲は、「Good to me」「Home」「Getting Closer」の3曲。まず「Good to me」は「Rock」系統の王道で、君と僕との最高の関係を妖艶に歌った楽曲です。
「僕は君が必要で 君は僕が必要」
そしてタイトル曲「Home」は一見ハートフルなテーマですが、歌詞をよく読むと「Still Lonely」系統の不安感が色濃く表れています。
「僕はどうすればいいんだ 僕は君がいないと」「急に怖くなる」
その不安は君との関係への依存に向かい、「Rock」系統と接続します。

チーム曲をはさみ、「Rock」系統の極致ともいえる「Getting Closer」が最後に収録されています。
「息切れするほど君が欲しい」
不安定で混乱した歌詞、不穏なMV。何よりも着目すべきは音です。SEVENTEENの楽曲の持ち味であるメロディアスな伴奏が封印され、一瞬のCメロを除いてほとんど、打楽器や効果音のような音階のない音で構成されています。和音が使われる時も単発で、メロディーにはなっていません。ウジにしては珍しすぎるんです。

SEVENTEEN最大の“狂気”曲といえば、次のアルバム『An Ode』(2019年9月)のタイトル曲「毒:Fear」を挙げる人が多いのではないでしょうか。しかし、こちらは伴奏の音階が復活しています。「Getting Closer」よりはもう少し客観的な視点をもって作られた楽曲なのではないかと、私は推測しています。

前向きなエネルギーを爆発させながら「Crazy」「狂っていく」という言葉を使う先行曲「HIT」、「Don’t Wanna Cry」と同じフレーズを登場させすれ違いの痛みを歌った「Lie Again」という2曲の後、「毒:Fear」が収録されています。
「僕の毒は咲き 痛みは深い夜」「自分でも自分が怖い」
行き過ぎた愛と不安が爆発。「Still Lonely」からたった3年半、痛みは溜め込んで醸成するとここまでになってしまうのか……ともはや感心する気持ちです。リアルタイムのファンだったらこんなこと言えないのでしょうけど……。

『An Ode』はその後、まるでタイトル曲とのバランスを取ろうとするがごとく「Let me hear you say」「Lucky」「Snap Shoot」など底抜けに明るい曲を収録しています。パフォチの「247」が君への切ない思いをしっとりと歌っているくらいでしょうか。

余談ですが、ボカチの「Second Life」にはその後の「Heaven’s Cloud」「_WORLD」「DREAM」に繋がる「来世でも君を覚えていますように」といういわゆる「天国のデジャヴュ」のテーマが初めて登場します。この発想は、苦しみのトンネルを抜け救われていく足がかりの一つだったのではないでしょうか。

“静かな狂気”への羽化

これらを経て2020年4月に発表されたのが、日本語曲「舞い落ちる花びら」です。自らを花びらにたとえて君に舞い落ちていく情景を歌い、苦しみや痛みからは脱却した歌詞です。1番のドギョムパートとCメロ後のジュンパートを除き全体を通して、一度始まったら止まれないような、前へ前へと急ぐ印象があります。これまで自分を苦しめていた焦燥感が、君へと、前へと進ませるものになったとでも言いましょうか。夜明けを示唆しながら、その前の楽曲群との繋がりも見出せます。
「花咲き散る間に 傷癒え芽は出る」

「毒:Fear」の明確なアンサーソング「Fearless」は、『Heng:garae』(2020年6月)の1曲目です。
「何がそんなに僕を悩ませていたのか 自分で自分を悩ませていたんじゃないのか 考えてみれば何てことはない」
苦しみを乗り越え無敵感を手にした、力強い楽曲です。「新しい自分として生まれ変わる」という歌詞もあり、まさに生まれ変わりの曲、そして現在のSEVENTEENに至る直接の転換点と言えると思います。ただ、その後の楽曲と比べると、まだ肩に力が入っている印象です。ここからSEVENTEENはまた変化していきます。

さらなる展開を見せたのが、日本語曲の「24H」(2020年9月)。こう見ると、SEVENTEENは2020年中をじっくりかけて生まれ変わっていったのですね。「24H」と以降の楽曲の世界観を、私は“静かな狂気”と呼んでいます。すでに肩に力は入っておらず、深い息をして落ち着き、そしてこれまでのはっきりと見える狂気よりも深く安定して“狂っている”のです。低音で始まるAメロ。余分な音や過度な盛り上がりを排し、深く体に響くベースのリズム。腹が据わっています。
「1秒たりとも離れずいよう」
君が離れていくかもしれないという不安はもうありません。鋼のような確信が体の底に流れています。

この“静かな狂気”を引き継いだ楽曲が、『Your Choice』(2021年6月)収録の「Anyone」です。
「We make the rules 世界でたった一つのルール 変えられない Not anyone anyone」
君と僕のルールは誰も変えられない、誰も踏み込めないのだと言い切る楽曲。この曲も抑制されたイントロから始まり、シンプルな音で構成され、過度な盛り上がりはありません。静かだからこそ絶対に誰も寄せつけない、絶対的な強さを感じます。

『Attacca』(2021年10月)の「Crush」では、君に虜になっているさまを力強くセクシーに歌っています。「Rock」系統でもありますね。「Rock」「Crazy in Love」「Good to me」といったテーマの近い既存曲と比べると、「Crush」は低音で刻むリズムの力強さが印象的で、「24H」「Anyone」の鋼の確信を引き継いでいることがわかります。
「今この甘さは永遠に有害じゃない」

“静かな狂気”の到達点

そして『Face the Sun』(2022年5月)。確信の強さを表現した楽曲ではタイトル曲「HOT」、そして「March」があり、いずれもやはり踏みしめるような力強いリズムが印象的です。しかし、これら2曲は外に向かって高らかに宣言する意味合いが強いでしょう。

“静かな狂気”という視点では、特筆すべきはやはり「DON QUIXOTE」です。自らを騎士と思い込む狂人ドン・キホーテに自らをたとえ、この確信を他人からは狂気と思われてもいいと歌います。
「全てを燃やす夜 僕は狂ってもいい」
使われているのは、手拍子とピアノという、浮遊感と上品さすらある音。彼らの落ち着き払ったさまを演出し、だからこそいっそう腹の据わった狂気を浮き彫りにします。

「DON QUIXOTE」を最後に、“静かな狂気”の楽曲は2024年4月18日現在まで発表されていません。『FML』(2023年4月)のタイトル曲「Super」は音楽性が近いですが、現実のSEVENTEENが成し遂げた栄光とチーム愛を歌っていて、狂気というカテゴリには不適切と思われます。

同アルバムの「F*ck My Life」、そして『SEVENTEENTH HEAVEN』(2023年10月)の「SOS」は「Still Lonely」系統にも近いリアルな苦しみを歌っています。これらは、アイドルとしての個人的な不安の吐露にとどまっていた以前の楽曲とは違い、メンバー自身の個人的な実感を起点に、世界中の人々が共感できる普遍的なテーマと救いに昇華しています。これが大人になるということなのですね……。

以上のように、清涼アイドルの代名詞・SEVENTEENのB面史に注目すると、彼らがたどった痛みと成長の足跡が見えてきます。壮絶でしたね。このような深い痛みや苦しみを知っているからこそ、今、世界の人々の痛みに寄り添い癒せるグループになっているのだと思います。


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