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【メタバース・シフト】MMORPGやSecondLifeにどっぷりハマってきた僕がメタバースについて思うこと

メタバース(※1)について、新技術の観点やこれまでにない新しい体験の観点で述べているものは多く見かけますが、インターネットの初期から脈々と続いてきた「メタバース的なナニカ」を、人間の普遍性(時代が変わっても変わらない本質)の観点から書いたものは見かけないので、その視点で書いてみました。

「メタバース的なナニカ」とはなにか

以前このようなコメントをNewsPicksに投稿しました。

僕が初めて体験した韓国製MMORPGのMajesty(1998年頃)や、スクウェアエニックスのFFXI(2002年〜)でも、戦闘、レベル上げそっちのけで「お花見」「釣りの日」「夏祭り」「海水浴」「新エリア遠足」「レアアイテムばら撒きイベント」、フレンドの「誕生日会」「新人さん歓迎会」などが行われ、よく言われていたのはオンラインRPGじゃなくて「高級チャットゲーだよね」でした。

見知らぬ人たちが最初集って、モチベーション高く継続するにはゲーム要素は必要なものの、仲良くなった後の主役はコミュニケーションなんですよね。メタバースというものが台頭してくる背景はその人間性に根ざしていると思います。

僕は大学時代にMMORPGにハマりました。それはもうどっぷりと。最初にハマったのは韓国製MMORPG『Majesty』 2D画面の背景に2Dのキャラクターたちを、マウスクリックで動かすだけのオンラインゲームです。

正直、ゲーム性はひどいものでした。レベルは1〜9999まであり、バグで上限突破した最上位プレイヤーのレベルは推定30,000。街中ですらPK(Player Killer / 他プレイヤーを攻撃、殺傷すること)が可能な仕様だったため、上位プレイヤーが街を歩くだけで祭り(という名の殺戮)が起こり、最上位プレイヤーはもはや人ではなく「神」の扱い。

(上位プレイヤーが移動する時に間違って他プレイヤーをクリックすると即死。魔法を1つ撃てばチャットログが数十人の死亡ログで埋まるなど)

またモンスターを狩りに出ても、物陰から叩いていればいくらでも倒せたり、なぜか安全地帯があったり、もはや作業ゲー。

そんなゲーム性ムチャクチャなMajestyに、しかもリアル(※2)ではレポート提出や就活もある僕が毎晩遅くまでハマっていた理由は、正直言って「逃避」もありました。

ただ「逃避」を悪いことと見なすより、「逃げる気にもならないハマるなにかがそこに在るはずだ」と「逃避する先」へと視点を変えることで、人が心から欲するものに気づくことができます。

その後もラグナロクオンライン、リネージュ2、FFXI、マビノギ、Second Life、splume、meet-me、マインクラフト、ニコッとタウン、ピグ・パーティ、FFXIV、VRChat、荒野行動、Roblox、ZEPETOなど様々なオンラインゲーム、仮想空間サービスを渡り歩きました。特にFFXIとSecond Lifeは廃人と言えるほどに365日入り浸っていました。

その経験の中で、全体に横たわる「人をつかんで離さない」共通項が

1. 親密なコミュニケーションに魅せられ、
2. 環境からのフィードバックに触発され、
3. 理想のイメージを具現化し始める

というものです。これらが「メタバース的なナニカ」だといえるでしょう。

事業 - メタバース的なナニカ

SNSやゲームではこれらが部分的にしかなく、かつこれらを満たそうと発展しているように見えます。

また、これらは「人として求めるもの」なので、仮想空間に限らずリアルな場でもこれらを求めていますし、触れる機会は当然あります。

「じゃあリアルで良くね?」という話になりがちですが、これらに充分触れられるかどうかは圧倒的に「運」に左右されます。これについては後述します。

では1つずつ解説していきます。

1. 「親密なコミュニケーション」に魅せられる

「人はコミュニケーションを欲している」

SNSが普及した現代においては、それを疑う人はあまりいないでしょう。

さきほど「リアルで良くね?」が運に左右されると書きましたが、リアル(物理空間)は自分の身体がたまたま生まれた家庭、親の価値観・職業・経済状況、地域、学校の方針、クラスで出会う友人など、ランダムに決まった物理条件に大きく影響されます。

自分の性質や嗜好と合う人にたまたま恵まれる人もいれば、自分の性質や嗜好が物理的に出会った人たちの中で少数派のため、まったく理解されず孤独感を感じてしまう人もいるでしょう。

特に大人になってからの人間関係(仕事、地域コミュニティなど)は、社交のコミュニケーションが多くなります。必要悪であって、人が渇望するところではありません。人は意識的な「はっきりした目的」や「報・連・相」のためだけに生きていません。もっと動物的な、無意識の渇望に人間らしさが表れます。

この問題を突破したのが、物理的・時間的制約を超えたインターネットだったわけです。

人が無意識のレベルで欲しているのは「親密なコミュニケーション」、つまり孤独感を埋めるほど深いコミュニケーションです。

ネットコミュニティやSNSでは、リアルな人間関係では話せないような相談に乗ってもらうこと/あるいは相談に乗る(頼られる)ことだったり、地域のクラスや組織、コミュニティでは見つからないような、自分の好きなものを好きと言ってくれる人と出会い、寝食も忘れて語り合ってしまうような関係性を持つ可能性が飛躍的に高まりました。

では「親密なコミュニケーションとるならSNSで良くない?」「ゲームのボイチャで良くない?」という疑問が湧きます。

SNSでもこういった関係を築くことは可能ですが、テキストコミュニケーション、つまり言葉で語る/言葉を読み解くことが前提という距離感、難しさ(だからこそSNSでは言葉の揚げ足取りや、勘違いからの攻撃が頻繁に起こる)があったり、ゲームでは当たり前ですが目的のあるゲーム行為が前提のため、プレイヤーが集中するのはゲームでの切磋琢磨やランキング争いになります。

ですので、話の内容やゲームタイトルが一致すれば親密になれるというわけではありません

ではSNSや一般的なゲームでは難しい「親密なコミュニケーション」は、何が揃えばいいのか?

それがリアルで親密さを深めるのに無意識に用いていた「身体コミュニケーション」です。

「身体コミュニケーション」とは

コミュニケーションは大別して、バーバル(言語)コミュニケーションとノンバーバル(非言語)コミュニケーションの2つがあります。

SNSでは前者の言葉によるテキストコミュニケーションが主ですが、言葉であらゆることを人に伝えようとするのは、実は非常に難しいことです。

「見積もりをメールで送ってください」といった要件は文字で伝わりますが、「その話題、私も好きで、今とても笑顔です!」と文字で書かれても、なんだかおかしいですよね笑。それより同じ場所にいて、笑顔でテンション高く話しているほうが色んなことが伝わります。

ちなみにTwitter、LINE、Slackなどでテキストコミュニケーションだけではみんな物足りず、実はすでに身体コミュニケーションを使っているんですよ。

なんだと思います?

(ちょっと考えてみましょう🤔)

。。

。。。

。。。。

。。。。。

。。。。。。

。。。。。。。

。。。。。。。。

。。。。。。。。。

🤔 ←

そう、顔文字です笑

ちなみにLINEのスタンプもそうです。

絵だけでコミュニケーションできるのは、そこに表情、身振り手振りなどがあるからです。文字すらないのに伝わるものがほとんどですね。言わずもがなですが、「写真」で人が映っている場合、それも身体コミュニケーションです。

頭で理解しようとすると「身体で意思伝達するなんて」と思ってしまいますが、日常的に無意識に、僕らは身体コミュニケーションを活用しています。

身体コミュニケーションの強烈さを1つお伝えすると、「視線」が挙げられます。MMORPGやFPSなどの3Dゲームをプレイしている場合、キャラクターの後ろから俯瞰した状態でみなプレイしているため、視線の重要さを感じませんが、VRChatなどのVRを試すと実感するのが、頭の向きがわかるだけで誰を(どこを)見ているのか大体わかる点です。

VRゴーグルは装着者の頭の向きとVR空間内のアバターの頭の向きを一体化させるので、たとえば空間内で自分が喋っているときに周りの人たちが自分の話を聞いているのか/いないのかが、自分に視線が向いているか/否かで判断できるのです。

ちょっとした身振りで、僕たちは無意識に大量の情報を発し、受け取っているんです。そして文字で会話するバーバルコミュニケーションと比較して、質的に親密さを生み出しやすいのがノンバーバルコミュニケーションです。

メタバースというのは、僕らの身体がいかに雄弁に機能していたかを再確認していく場ともなるでしょう。

最近話題となった映画『竜とそばかすの姫』はご覧になったでしょうか。

劇中で、竜とベルが踊るシーンがあります。

ここでさりげなく行われていますが重要な要素として、
・手を引く
・腰に手を回す(そして引き寄せる)
・寄り添う(まるで体温を感じそうな)
といった行為が出てきます。

現状のゲーム、メタバース的なものでは、透明人間のごとくアバター同士がすり抜けてしまうことがほとんどで、上記のような身体コミュニケーションをとるための基本的機能が実装できていません。(一部で握手できるなどはありますが)

もちろん、通りがかりの人を突然抱きしめたり、突き飛ばしたりできないようにするパーミッション(権限制御)が必要など、これから考えねばならないことは多々あるため、技術の問題だけでないのは確かです。

このように「目が合う」「手が触れ合う」「笑顔を見せる」「座る」「寄り添う」といった身体コミュニケーションが当たり前に行えることで、SNSやゲームにはない「親密なコミュニケーション」が生まれてくるのです。

DXの話になりますが、台湾のデジタル担当大臣オードリー・タン氏はこのように話されました。

ITの文脈で新しいものを理解しようとすると、主体が「情報」や「機械」、「新しい技術」になってしまいます。デジタル化の話の主役はあくまで人で、これはメタバースでも同じです。

視点を「情報」や「機械」によってどれだけ儲かるか?便利になるのか? から、「人」は何に魅せられ、心を満たされるのか?(※3)にシフトしてみると、メタバースが理解しやすいのではないでしょうか。

2. 「環境からのフィードバック」に触発される

「親密なコミュニケーション」は人と人との関係でしたが、ここでは人と環境との関係について述べてみます。

冒頭の引用、

戦闘、レベル上げそっちのけで「お花見」「釣りの日」「夏祭り」「海水浴」「新エリア遠足」「レアアイテムばら撒きイベント」、フレンドの「誕生日会」「新人さん歓迎会」などが行われ

でも書いたように、お花見には「桜」「酒」「ブルーシート」、釣りには「海」「魚」「釣り道具」、夏祭りには「花火」「屋台」「浴衣」、遠足には「山」「川」「焚き火」など、様々な空間、自然、建造物、小道具といった環境がセットになっています。

以前メンバーの一人として仕事をさせていただいたダフトクラフトさんは、VR上で複数人と焚き火を囲みながらカンパイできるデジタル・キャンプファイヤーをリリースしました。

これを開発していた当時、代表の花島さんとのディスカッションで、「火は古来から人が共に歩んできた大切な存在。生では食べられない食物を安全で美味しく食べられるようにしたり、夜には危険な獣を遠ざけたり、火を眺めながら仲間とリラックスして過ごしたり」と言っていたのが印象に残りました。

僕はxRデザイナーになる以前から、UIデザイナー、UXデザイナーとして仕事をしてきましたが、デザイナーという仕事を長くやっていると、人は自分の頭の中だけで行動を決めるのではなく、目の前にある物や周りの環境に影響されて行動が変化するのを何度も目にします。

たとえば「広く明るい場所」よりも「適度に狭く薄暗い場所」のほうが、人は親密で深い話になりやすい傾向があります。

飲食店はこれを活用しているので、回転率を上げたいファストフードやファミレスなどは広い1スペースで明るい空間づくりをしています。逆に滞在時間を増やして客単価を上げたい喫茶店やビストロ、バーなどは小さく囲われて薄暗い隠れ家的なつくりだったりするわけです。

このあとの3. と通じますが、SNSでは「好きなモノやコトを投稿できる」という点で人を惹きつけるものの、アイコン画像とプロフィールページしか「身体」がありませんし、環境と呼べる「空間」がありません。

MMORPGやFPSのようなゲームという環境は、キャラクターやアバターとして「身体」がありますし、大地、森、モンスター、建物、武器、衣装、道具など様々な環境も備えています。この点でSNSより豊かな体感をもたらします。

今メタバースに近いものとして、RobloxやFortniteといったゲームが挙げられるのはこの違いがあるでしょう。

一緒に火を囲んだり、釣り糸を垂らしながら、特に目的もなく好きなものについて語り合ったり、恋バナをしたり、たまに真面目な話をしたり…

親密なコミュニケーションと良い環境は表裏一体の関係です。

そして豊かな体験を何度もした人は、それがリアルであれゲームであれ、自分の中に理想のイメージが浮かんできて、具現化しようとし始めます。

3. 「理想のイメージを具現化」し始める

最も「メタバースらしい」特徴が、この「理想のイメージを具現化」することでしょう。

これはアバターのアニメーションをデザインするとか、自然や建物の3Dモデルをイチから作るというよりは、メタバースらしい機能として実装された制作ツールを使って、仮想空間の中で理想のイメージを形にすることを指します。

武器や道具を作り出す「合成」、家具を設置して家をカスタマイズする「ハウジング」、空間そのものをデザインする「ワールドエディター」などを使って、リアルにありそうなものから見たことのない不可思議なものまで、まるで頭の中の妄想を吐き出すように、メタバース的な世界では日々創作がされています。

ZEPETOのマップエディター「Build it」や、MetaのHorizon Worldsがイメージしやすいと思うので貼っておきます。

僕はSecond Lifeで過ごした時間が長いので、そこで経験したことをふまえると、「創作」を金儲けや物理的なモノと関連付けて考えるのは非常に幅が狭く、それが妄想であればあるほど「個」に秘められた性質を鏡のように映し出します

まるで『竜とそばかすの姫』の舞台、<U>がその人の隠された能力を無理やり引っ張り出すかのように。

リアルにおける確固たるルールは「民主主義」「資本主義」です。

長い人類の歴史を経て生み出されたこのシステムは、過去の社会システムと比べるととても良くできていますが、どうしても「多数が良いと思うものが良いもの」「高く、たくさん売れるものが良いもの」といった価値観を作りがちです。

本来、「個」としての一人ひとりにとって「良きもの」とは、それぞれバラバラでいいはずなのに、それを表現する手段すら満足になかったのがインターネット以前の世界でした。インターネットが普及し、個人が発信するコストはほぼゼロになりました。

とはいえ、インターネット上での主なサービスでは、「言葉」をうまく操って発信したり、写真や動画をうまく撮って表現する必要があります。上で述べたように、これはコストは低いものの、使いこなせる人は実は限られます。

メタバースが良いのは、非常に低いコストで、誰もが「空間で思考・試行する」ことができるようになったことです。

これから先、様々な空間での試行錯誤が始まるでしょう。

庭、展示会場、船、マンションといった現実的なものもあれば、宇宙船、地下都市、空中庭園といった空想的な空間を、誰もが思い立った時に描いて具現化することができるようになります。

今はまだ発展途上のメタバース、それを支えるxRですが、これが誰でも簡単に使えるようになると、頭で空想したままのイメージをいつでも試行錯誤でき、「個」に秘められた可能性を引っ張り出して世界を大きく変えていくのではないか、と期待に胸を膨らませている一人のxRデザイナーなのでした。

長文、最後までご覧いただきありがとうございました!

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※1 Metaverse を日本語にすると本来の書き方は「メタヴァース」ですが、多用されている「メタバース」で記載しました

※2 僕らが身を置くこの世界は一般的には「リアル」「現実空間」と呼ぶことが多いのでリアルと記載しましたが、デジタル空間と対比した物理的なものとして「フィジカル空間」と呼ぶほうが良いでしょう

※3 人々が安全・便利・儲け・成長・目的・問題解決重視の姿勢から、環境・持続可能・発展・意味を重視する姿勢にシフトしている(SDGs、パーパス経営など)こととも重なります

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