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子どもは安全基地という環境の中で誕生する|【そったく】ふ化をめぐる愛着関係

この記事は「シノブラジオ」の覚え書きです。本編が気になったら、下記のラジオのほうもお聴きください。
>>シノブラジオ

臨床心理士・公認心理師の高間しのぶです。埼玉県志木市のソレア心理カウンセリングセンターでカウンセラーとして働いています。今日は雨が降らなかったですね。もう夏がやってきているようです。

■テーマ

子どもは安全基地という環境の中で誕生する|【そったく】ふ化をめぐる愛着関係

◇こんな疑問を持っている方に
・安全基地っていったい何だろう?
・否定せずに聴いてもらっていると確かに楽になる気がする

◇そんな人がこの放送を聴くと、
・安全基地の重要性がわかる

◇ツイート紹介
今日のテーマにつながる質問箱の質問と回答を紹介します。

質問:
あんまり学業成績が良くない子が東大受験にチャレンジするドラゴン桜で生徒同士で教え合うという指導方法がありまして、人に教えることでその教科への理解が深まったり、自分がよく理解できてない弱点が明確になるみたいなこと言ってたのですが、高間先生とお話させていだくと、漠然と思っていた不安や親などへの不満が分かって、脳内整理できる感じがします。

(勉強教え合うのと一緒にしてスミマセン。否定せずに適度に質問を入れていただきつつ傾聴してくださるカウンセリングの効果はこういうことかぁ!と思いました。)


回答:(実際の回答は分かりづらかったので大きく改訂しました)
ドラゴン桜は人気ありますね。大学院に通っているときゼミ担(精神分析&絵画療法)に「そったく」【啐啄】という言葉を教えてもらいました。禅の言葉らしいです。

卵からひながふ化するとき、ひなが殻を内からつつくことを「啐」といい、母鳥がそれに応じて外から殻をつつきふ化を促すことを「啄」といいます。

カウンセリングは、このような啐啄関係です。カウンセラーはあくまでも触媒ですので、相談者が自分の力で問題解決できることを促します。それが母鳥と同じようなことをしています。外側からコンコンと。そうやってひな鳥に聞いているわけですね。「殻を割る準備はできたかな?」と。殻を外側(母鳥)から割ることはありません。あくまでも内側、ひな鳥が自分の力で割れるようになるまで、ひなは卵の中に入っているべきなのです。

「高間先生とお話させていだくと、漠然と思っていた不安や親などへの不満が分かって、脳内整理できる感じがします。」このことこそ、相談者の方が自分の力で物事を理解していっているのですね。ふ化の準備が整ってきているわけです。

■そったくとは

私の回答にあるように、そったくとは、ひな鳥と母鳥のふ化をめぐってのかけひきのことでした。それが転じて、次の意味があります。

・禅宗では、師と修行者との呼吸がぴたりと合うこと
・逃すことができないほどの、またとない好機

いずれにしろ、そったくとは、それくらい「まれにみる」素晴らしい状態なわけです。

■安全地帯で気づきが促進する(ふ化する)

ひな鳥は母鳥に見守れている安全な場所でふ化してくるわけです。それがそったく。ひな鳥は殻の中の安全な世界から、外の世界へ出ていくわけですが、その外の世界にも、自分のことを見守ってくれている母鳥がいることに気づくわけです。自分の生まれてきた世界は、殻の中と同じ安全な世界だと認識するのです。

実際は母鳥から離れると、弱肉強食の世界ですが、生まれたとき、世話をしてもらっているときは、そうは思っていません。ただ純粋に餌を求めるだけです。ピーピーと口を開けて、無邪気に親鳥に要求している(笑)。

これはカウンセリングルームという安全な空間も同じことが言えます。安全基地の中で、自分の物語を語りながら、様々なことに気づいていく。これが相談者の方の、新しい自分のふ化につながっていきます。つまり、新しい自分との出会いですね。

■付録:ゼミ担について

大学院のゼミ担は、田中 勝博(まさひろ)先生でした。精神分析と絵画療法で名を売っている先生です。スクィグルゲームについては多くの論文があります。そんなつながりもあって、私の修士論文もスクィグルゲームについての絵画療法をテーマにしました。その論文の中で、バリントにも出会いました。論文の中心軸は、バリントの「混然一体」となる波長合わせでした。

スクィグルゲームとは、イギリスに古くから伝わる遊びで、1人がグルグルと適当ならくがき線を描き、もう1人がそれに線を付け足して、何か意味のある絵に仕上げるというもの。これをらくがき線を書く人を変えながら、何周かして遊びます。この遊びを治療的に使ったのがイギリスの精神分析医のウィニコットです。日本のウィニコット研究では北山修先生が第一人者ですね。(フォーククルセダーズでも有名ですが)

バリントは治療的退行という言葉を使い出した精神分析の人で、ウィニコットの流派に属します。私の修士論文は、「スクィグルゲームの混然一体となった世界の中から波長があって…」という展開になります。ここでバリントを援用しているのです。波長合わせについては中井久夫先生の論文を援用させていただきました。

私の修士論文は、田中勝博ーウィニコットーバリントー中井久夫、これらの諸先生方の業績の上に成り立っているものです。改めて謝辞を述べさせていただきます。

■まとめ:【そったく】とは安全基地の話です

・卵からひながふ化するとき、ひなが殻を内からつつくことを「啐」といい、母鳥がそれに応じて外から殻をつつきふ化を促すことを「啄」という

・そったくとは、安全に守られている環境を示す

・カウンセリングルームも何重にも守られた世界。そこで気づきが促進する

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