横浜F・マリノス 2021チーム図鑑 ~ハイ・インテンシティと安定性の融合を目指して~
さて、今季からチーム分析&対策みたいなことをしてみようと思う。第1弾はJリーグの横浜F・マリノス。
開幕戦では川崎フロンターレを相手に【3-2-2-3】⇔【4-4-2】の珍しい可変システムを採用して2-0で敗戦。上手くいっていない感じがあったものの、それからは【4-2-3-1】にシステムを戻して第2節~第5節までの4試合で3勝1分けと安定し始めている。そんなマリノスの戦いっぷりを分析していく。
チームを率いるのは就任4年目となるアンジェ・ポステコグルー。アタッキングフットボールを代名詞として2019年にはリーグ戦を制覇するも昨季はコロナ禍とACL出場による過密日程でスタメン変更・途中交代を駆使しながら22連戦を戦い、9位に順位を下げた。さらには主力であったエリキ、ジュニオールサントス、大津らが退団。一方で、ブラジル1部と2部からエウベル、レオ・アセラ、大分トリニータから岩田、興国高校から4人を獲得し、入団は全員で7人と控えめな補強に。
「メンバーやシステムを絶対に変えないということはないが、固定ではないものの固めながら自分たちのサッカーをより理解し、深めていく。それをシーズン通してやっていきたい」
【横浜FM】ポステコグルー監督の下、準備着々! 1次キャンプは「チャレンジ」して「深める」
上記のインタビューにて答えていたように、今シーズンはできるだけメンバーを入れ替えずに少数精鋭で戦術を浸透させようとしているのかもしれない。
リーグ戦第1節~第5節までのスタメンはこちら。
※チームを分析するにあたって、スタンダードとなっている4局面(攻撃、攻撃→守備への切り替え、守備、守備→攻撃への切り替え)での分析を行う。分析対象試合は2021Jリーグ第1節~第5節。
攻撃 ~安定した配置と移動が許された選手~
4-2-3-1をベースに、自陣ではなるべく配置を崩さずに前進。敵陣に侵入する直前あたりからポジションチェンジを時々行うが、全体の配置バランスは崩さないのが特徴。陣形を常に整えてボールを奪われた時に備えている。また、SBとSHはゾーン2あたりから大外レーンとハーフスペースで棲み分けをしている。
あまり移動をしない横浜F・マリノスの面々だが、トップ下のマルコス・ジュニオールがCHの横に降りてきてビルドアップを助ける動きを何度か行う。これが厄介である。彼は受けてからターンするまでがスムーズであるし、キックの精度も高い。その上にドリブルで対峙した敵を剥がすこともできる。相手としては絶対に捕まえたいだろうが、2列目から3列目に移動する選手に付いて行くかどうか悩ましいところとなっている。
また、CFがオナイウ阿道のときには彼がマルコス・ジュニオールと似たタスクを実行する。フィジカルの面で質的優位となれることを利用して、下がりつつ後ろ向きで受けて周りの選手に時間とスペースを与えることができる。ある意味0トップのような役割だが、純粋なCFとしての能力も一級品なので脅威的だ。
ビルドアップの出口はSHの選手に設定し、そこから崩しのフェーズに突入する。ゾーン3まで押し上げると、ボールサイドのSBは高い位置を取り、後方は2CB+2CH+逆SBが被カウンター要員となるために残っている。
ラスト30mのところでは大外からCFにクロス、もしくはマルコス・ジュニオールやCHやSBのポケット侵入からクロスを狙い、ゴールに迫るのが基本的な崩し方となっている。左サイドからはエウベルのカットインも持ち合わせている。
そのエウベルは広いスペースで受けた時には強力だが、狭いスペースや後ろ向きで受けた時にはボールを手放すまで時間がかかってしまい、手詰まりになることが何度か見られた。よって、誘導するならエウベルのサイドにしたい。その際にはスペースを消して圧縮することも忘れずに。
攻撃から守備への切り替え ~即時奪回・限定・撤退~
攻撃時、特に崩しのフェーズで前線に「人」のリソースを多く割くチームにとって、ボールを奪われた時はカウンターでピンチを招きやすい構造になっている。
マリノスも例外ではなく、攻撃時には後方の大外レーンに人が配置されていないことが往々にしてある。よってCBの両脇からカウンターを食らいやすい陣形なので、そこにボールが届く前に前線で即時奪回を目指している。
ボールを失ったとき、相手のボールホルダーに近い選手が1人(多くても2人)でゲーゲンプレッシングをかける。周りの選手はそれに連動してパスコースを消しつつプレーエリアを圧縮して選択肢を制限。後方のDFは突破されたらリトリートしつつ中央を固めてゴールを守ることに専念する。
畠中とチアゴ・マルチンスのCBコンビは被カウンター時のリトリートのタイミングが良く、ゴールを守る守備にも長けており、5節終了時点ではカウンターからの失点からは免れている。
ただ、自陣でのパスミスからピンチを招くシーンが何度かあり、それが個人的には印象に残っている。シーズンのどこかで後方でのポゼッション中に奪われて失点を喫することがあるかもしれない。
守備 ~ハイ・インテンシティの2段階プレッシング~
今季のマリノスを象徴するのは攻撃面よりも強度の高い守備、特に前線からのプレッシングなのかもしれない。
コンパクトになった【4-2-3-1】または【4-4-2】で相手をプレッシングをかけ、人を捕まえつつボールを奪いに行く。
第1段階では、2トップが敵CBにサイドに誘導するようプレッシングをかける。そこでSHがタッチラインと挟むような守備でボールを刈り取りに行く。
2トップは敵CHへのパスコースを背中で消すよりも敵CBへの速いプレッシングを優先しているように見える。よって、落ち着いてボールを捌くことができればCHにパスすることができるだろう。実際そのようなシーンも何度か見られている。
第2段階では、浦和戦で見られたように、ゴールキックでのショートパスや第1段階がハマった時に見られるリバプール式のWG外切りプレッシング。
こちらも第1段階と同様に、プレスの強度を重視しているので背中に隠れている選手が少し移動するだけでパスは通る仕組みになっている。ただ、本当にプレッシングが速いのでそんな余裕を持てる選手があまり多くないのかもしれない。
このハイ・インテンシティなプレッシングを牽引するのが最前線の前田大然だ。GKへのバックパスやCB間の横パスをスイッチに韋駄天の如くボールを奪いに行く。相手のGKやCBからすると、「さぁ、落ち着いてビルドアップしていこう」というときに突然目の前に前田大然が来るのだから、ボールを持ってからパスコースを探すまで時間が無いに等しいのだろう。
そんな前田の守備からカウンターを沈めたのが第5節の徳島ヴォルティス戦のゴールだ。
ただ、人に強く出ていく守備なので、CBの選手がライン間で受ける相手に食いついてしまい、後ろが手薄になるような場面も目立つ。スペースで受けて奪いに来たDFをいなせる選手がいればマリノスのCBの周辺でプレーすると効果的かもしれない。
また、ゾーン1での守備はかなりコンパクトだが、今季スタメンで出場した右SBの人員には175cmを超える選手がおらず、比較的小さな選手が多い。空中戦は身長がすべてではないと言えども、ここは狙い目だろう。
守備から攻撃への切り替え ~ゴールを常に狙う~
自陣で奪った際には基本的に後方に下げてポゼッションを回復し、攻撃時の配置にシフトチェンジする。前線の選手が裏を狙っていればそこにボールを蹴ることも当然あるので、ただつなぐだけではなく相手ゴールを狙うことから優先してプレーしていることが伺える。
敵陣、特にゾーン3で奪ったときにはできるだけボールを大外のレーンに届けることなく、守備時のインテンシティそのままになるべく直線的にゴールに向かっていく。浦和戦の1点目と2点目が印象的だ。
おわりに
前述のように、昨季はコロナ禍とACLの影響もあって思うような戦い方ができなかった。だが今年はACLには出場しないことが有利に働き、マリノスのハイ・インテンシティな戦い方が安定するかもしれない。
また、レギュラーの座をつかんでいないメンバーも非常に強力で、特に樺山のドリブルには期待せざるを得ない。
シーズンを通して少数精鋭で地盤を固めつつ、強度の高いサッカーで2年ぶりのリーグ優勝を達成することはできるだろうか。
P.S.次は鳥栖を見ていこうかなぁ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?